26章

キャスはアンが手を離すと、出て行くのをやめて話を始める。


キャスとノピアは、反帝国組織バイオ・ナンバー本拠地ほんきょちの場所を見つけた報告を受けて、ストリング帝国の戦闘車両――プレイテックと機械化した兵士の大軍をひきいて出発した。


長引く戦闘にしびれを切らしたノピアは、密偵みっていを放ち、反帝国組織バイオ・ナンバーの内情をさぐることにする。


そこでた情報は、リーダーであるバイオのやり方に不満を持つ者がいるということだった。


「メディスンだな。あいつ、ふざけやがってッ!!」


ブラッドが苛立った表情でそういうと、傍にいるエヌエーは悲しい顔をしていた。


反帝国組織バイオ・ナンバーは常に物資不足に悩まされていて、特に食料が不安定だった。


それでもバイオは、荒廃こうはいした世界で彷徨さまよっている人間を受け入れ続け、食料も平等に分け与えていた。


メディスンは、それではストリング帝国を倒す前に、こちらがえ死にしてしまう、と何度もうったえたが、聞き入れてはもらえなかった。


「リーダーが言っていたわ。『人々を助けるために立ち上がった俺たちが、人を見捨ててどうする? メディスンが言っていることは本末転倒ほんまつてんとうだ』って……」


エヌエーがその場にいたようで、バイオがメディスンに言った言葉を独り言のようにつぶやいた。


キャスが話を戻して続ける。


それから密偵を使って、メディスンに接触せっしょくしたノピアは、バイオと古参こさんの幹部たちを始末しまつできれば、反帝国組織バイオ・ナンバーには手を出さないという約束をしたそうだ。


「だが、ノピアは約束を反故ほごにするつもりだ」


キャスは、その作戦に反対した。


ノピアはそれを受け入れたが、次の戦場で突然後ろから撃たれたと言う。


「そして気が付いたら、ここにいた……」


話が終わると、アンがキャスに言う。


「敵を相手に優しいんだな、キャス将軍」


「バカを言うな!! 汚いいくさ卑怯ひきょうな作戦ならいくらでもやるが、戦う意思がない者を裏切る行為に我慢できなかっただけだ」


長いブロンドの髪を手で払い、ツンッとした表情で言うキャス。


そして背を向けて、扉の外へ出ようとする。


「助け出してくれたことには礼をいう……。だが、敵とれ合う趣味はない」


「待って、それでもあなたは私に協力しなければならない」


アンが今度は言葉で引き止めた。


キャスが興味を持ったのか、立ち止まって訊く。


「なぜだ? その理由わけを言ってみろ」


「もし協力してくれないのなら、この場でさわいであなたと共にまた牢屋に戻る」


「なッ!? 貴様、私をおどす気か!?」


2人が言い合っていると、ブラッドが会話に入ってくる。


「お、おいお前、さっきからなにを言ってやがる。お前はそこの女将軍と一緒に外の駐屯地ちゅうとんちへ逃げるんだよ」


右のまゆを下げて言うブラッドにアンが返す。


「私は逃げない。シックスを助ける」


それを聞いたブラッドとエヌエーは両目を見開いた。


アンは言葉を続ける。


「ブラッドとエヌエーは、私とキャス将軍の武器と荷物をお願い」


「ふざけてんのか!? お前らふたりだけで助けられるわけないだろう!! ここはもうメディスンの支配下にあるんだぞ!!!」


怒鳴るブラッドに続いて、キャスも大声をあげる。


「おい、私はまだ協力するとは言っていないぞ!!」


アンは無愛想に3人に向かい合うと、ボソボソと言う。


「大事……仲間は大事」


小さな声だが、迫力があるアンにブラッドはうなだれて返す。


「お前の言うことはわかる。できれば俺だって助けてやりたい……けどな、シックスの奴だって覚悟はもうできているはずだ。だからこそ、お前とマナって娘を……」


「私はできていない!!!」


言葉をさえぎって叫ぶアンに、ブラッドは思わずたじろぐ。


「私はシックスを失いたくない。今こうやっていられるのもあいつのおかげだ。だからシックスに死ぬ覚悟あろうがなかろうが関係ない。それはシックスの都合だ。私は私の都合であいつを助ける」


それを聞いたブラッドは大きくため息をついた。


エヌエーはクスクスと笑い始めている。


今まで黙っていたキャスが両腕を組んで、アンに向かって言う。


「女……名を名乗れ。協力してやる」


「キャス将軍……」


ブラッドも続いて言う。


「……あいつは怒るだろうな。だがしょうがねぇ、俺も手を貸してやるよ」


そんなブラッドの両肩に両手を置いたエヌエーが、呼応こおうするようにうなづく。


「あたしも手伝うよ、アン」


気がつけばアンの自分勝手な理論りろんで、3人の気持ちが変わっていた。

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