17章

アンがキメラの群れを足止めしている間――。


マナは子供たちを連れ、村の近くにある洞窟に身を隠していた。


狭く暗い洞窟の中で、ただ震える子供たち。


洞窟の外からは、合成種――キメラの叫び声が聞こえ、雷のような轟音ごうおんが鳴り響いている。


マナは子供たちを抱きしめながら思う。


……どうして、アンはあたしたちのためにここまでしてくれるの?


根絶ねだやしにするって……そんなの理由にならないよぉ……。


「マナ姉ちゃん……外にいるフードのお姉ちゃんは大丈夫なの?」


抱かれている子供たちの中から、一人の少年が訊いてきた。


だがマナは、それに答えることができなかった。


いくらアンに特別な力(機械化した腕)があるとはいえ、たった一人で20~30体はいるキメラたちに勝てるわけがない。


そんなことは、きっとアン本人だってわかっている。


それでも彼女は、村の子供たちを守るために――。


出会ったばかりの見ず知らずの他人のために戦っている。


マナは自分の手のひらを見つめた。


……この炎をあやつる力で、アンとふたりで戦えば何とかなるかもしれない。


あたしも外へ出て、アンと一緒に……。


そう何度も考えるが、マナはどうしても恐怖で動くことができなかった。


それは合成種――キメラが恐ろしいからではない。


彼女は、村の子供たちに自分が人間ではないと思われることを恐れていた。


その原因は、すべてマナの生い立ちにある。


――今から5年前。


赤茶髪の少女は、父と母、兄と4人で小さな村で暮らしていた。


知識豊富な父は村でしたわれており、村全体の空気もあってか住人たちとの助け合う生活は、苦しいながらも小さい彼女にとってかけがえのないものだった。


だがある日、村へ数体のキメラが現れ、彼女の父が殺されてしまう。


少女の母親は怒りに震え、1人キメラへ向かって行く。


そして、母の体から突然炎が現れ、襲ってきたキメラを焼き尽くした。


その後、ボロボロになりながらも村を救った母に対して村の住人たちは――。


「この女……化け物だったのか!?」


「見ろ! 体の傷が炎をびて治っていくぞ!!」


「こいつが……こいつが村に災いを!!!」


傷ついた少女の母親は、恐怖で混乱していた村の人間たちに殺されてしまう。


村の住人たちは、その母の子である兄妹たちも殺そうとした。


兄妹はなんとか村から逃げ出し、このガレージテントへと辿たどり着く。


その妹がマナだ。


マナは母と同じく炎を操れたが、村でのことがトラウマになっており、けして人前ではその力を使おうとはしなかった(アンには見られてしまったが)。


そしてそれは今も続いている――。


マナはそのことを思い出し、涙ぐんでしまっていた。


……ダメ、ダメだよ。


あの姿をみんなに見られたら、あたし……ここにいられなくなっちゃう……。


マナが子供たちを抱きしめ、うつむいていると、洞窟に地震のような振動が起きる。


不安になったマナは、子供たちにここにいるように言って、洞窟の出入り口へ行くと――。


キメラに体を掴まれ、洞窟の側の壁に何度も叩きつけられているアンがいた。


それからキメラはアンの肩口に喰らいつく。


血がき出し、アンとキメラの体が赤くめられた。


「っく!」


苦痛の表情になったアンは、それでも悲鳴をあげなかった。


右腕から電撃を出し、自分の体を掴んでいるキメラの手を振りほどく。


そして、落としたピックアップブレードを拾って、白く光る刃で目の前のキメラを斬り殺した。


だが、すぐに他のキメラたちが集まってきてアンを取り囲む。


呼吸は乱れ、出血は酷く、目がかすみ始めているアン。


それでも一歩も引かずにキメラに立ち向かっていた。


マナはその後ろ姿を見ながら思う。


……ああ……アン。


それ以上無理したら死んじゃうよぉ……。


涙があふれて、震えが止まらないマナ。


彼女は動けないままだった。


そんな彼女の横を、石を握った少年が駆け出して行く。


その少年は、マナにキメラの群れが現れたことを伝えに来た子だった。


「ダメだよ!? 戻って!!!」


マナの制止の声を聞かず、少年はキメラの群れへと向かって行った。

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