第119話 魔族の謎
アメーリエさんとサリエさんの経緯、ローデシア城での出来事と城の崩壊について聞いた時、
「では、あの時、アメーリエ殿下に私たちは救われたのですね」
と兄上は答えた。
法廷の乱闘の時、もしデーモン王が黒い大きな塊を投げていたら、彼処に居た人属は溶けていたかも知れない。
そして、ナウムさんが、オークに伝わるオーク王とデーモン王の経緯を話してくれた。
「と言う事は、あのデーモン王は、メルから来たと言う事ですか。二百年以上前に」
と僕は、椅子に座りなおしながら、ナウムに確認するように答えた。
ナウムさんは頷いた。
「ところで、聖魔大戦争の前、魔族であっても食人の風習は、あまりなかったと聞いたことがありますが、如何なでしょう」
と僕は続けて、サリエさんに向かって聞いた。
ヒーナ以外は、僕が何故そんなことを聞くのか、疑問に思ったようだ。
「ええ、デーモン王が支配する前で、人語を解する種族で食人をしていたのは、オーガとトロルだけです。オーガは常習ですが、トロルは数十年に一度の儀式の時だけと長老たちが言っていました」
とサリエさんは、身振りを加えて答えてくれた。
そして続けて、
「ゴブリンなど、虫か木ノ実くらいしか食べず、オークの子供にイタヅラをする程度だったと聞いています。まあ、オークに手を出せば、村が滅びるほどの制裁を受けましたが」
とサリエさんは答えてくれた。
「その時代には、亜人の一部にも、儀式で食人をしていたと聞いたことがありますので似たような感じですね」
と僕は答えた。
そして、僕は最も聞きたかった疑問を聞いてみた。
「あの、聖素抜きの液体、あれは何か判りますか? また、オーク族はあれを使っていますか? 」
と身を乗り出して聞いた。
「あれは、デーモンのクソ野郎が与える。アチキ達にも渡されたことがあるらしいけど、気が狂って欲望が抑えられなくなるって聞いたぜ。だから、アチキ達、どんなに飢えても、あれは使わない決まりさ」
とナウムさんが、さっきまでの丁寧な口ぶりとは打って変わって、答えてくれた。
少し砕けた話し方を聞いて、ヒーナがホッとして、
「うーん、やっぱりそうね。あの、イケ好かない魔王の奴、あんな物を混ぜて、北の大陸の魔族を狂人にして操っているのね」
とヒーナが顎に指を当てながら答えた。
するとマリオリさんが、
「あんな物とは、王弟陛下ご夫妻には、成分が判ったのですか?」
と身を乗り出して聞いて来た。
「ご夫妻って、気が早いですぅ」
とヒーナはモジモジして答えた。
「いや、あれは、その、あれです。ここには女性がいるので」
と今度は僕がモジモジした。
するとアーノルドに
「
と、呆れ顔でちょっと一喝された。
「いいわ、ここは、医師として言うわ。あれは、イケ好かない魔王の体液が入っているのよ」
とヒーナが、医者の顔になり、キッパリと言った。
「えっ」
と声を出したのは、ナウムさんだった。他は、言葉がなかった。
しばらく、沈黙が続いた。
「えっ?」
と二回目に聞き直して来たのはアメーリエさんだった。
「だから、デーモン王の体液。奴の体液が聖素を魔素に変換して、それがどう言うことかは解らないけど、気を狂わすのよ」
「あんなに沢山 ……」
と口走って、バツが悪くなり、よそ見をしたのはレオナさんだった。
「ウェ、気も悪い。ゴブリンの奴ら、そんな物に漬けた肉を、食っているのか」
とナウムさんが見るからに気持ち悪そうに答えた。
そして、
「アチキは、サリエのしか受け付けないね」
とナウムさんが言ったのを聞いた、サリエさんは顔を赤くしてよそ見した。
◇ ◇ ◇
「では、ルーゼン家の血筋の方を探すのと、オーク族が言う、伝説の人属を探すことをお手伝いいたしましょう」
とヘンリーは答えた。
「ところで、伝説の人って、どんな人なの?」
とヒーナが聞いた。
「それが、……… 光る人だそうです。『その光は悪を覆し、正義を広める。オークは、これにあたるべからず。しかし、オークを解き放つ光である』と」
サリエさんが答えてくれた。
続けて、
「そこにいらっしゃるシェリー様か聖霊師様かと、一瞬思いましが、違うようです」
とサリエさんは答えた。
ガチャガチャガチャ
―――鎧が擦り合う音―――
「注進!」
と兵の誰かが、テントの外で叫んでいた。レオナさんが外に出て、しばらくすると伝令の兵とともに血相を変えて戻って来た。
「陛下、ご注進です」
「構わぬ。申せ」
と兄上は事の重大さを肌で感じたようだ。顔を引き締めて、レオナに命じた。
レオナさんは、頷き、兵に目配せした。
「はっ、デーモン王が復活、ファル王国軍、壊滅。王と皇太子の行方は不明。魔族本体は、ファルへ向けて移動中。さらに、一隊がこちらに移動中。後3日以内に此処に到達します」
と要点だけを報告した。
テントの中に一瞬、どよめきが起こった。
兄上は直ぐに、皆の動揺を鎮めるため、エルメルシアの柄に両手を乗せて、
「兵達を整列! レオナ、市民達を伴ってアーデルの砦へ行く、殿軍の準備をせよ」
「はっ」
とレオナは跪き答えた。
「マリオリ、敵をなるべく足止めする献策をせよ」
「はっ」
「ジェームズ、ヒーナ、シェリー、アーノルド、悪が市民達を砦まで先導してくれまいか」
「兄上、判りました」
と僕は答えた。
「それから、特に、ジェームズとヒーナに申し伝える。市民達の中には傷が癒えていないものもいる。もし魔物に追いつかれた時は、……… 見捨てろ。良いか。これは、兄からのそして、王からの厳命である」
と兄上は、いつにない厳しい顔つきで僕たちに命じてきた。
ヒーナは何も言わず、僕は、
「解った」
とだけ答えた。
「聖霊師様は市民の励まして頂きとうございます」
「解っておる。メリルキン行くぞ」「行くぞ」
と双子の聖霊師様達は、メリルキンさんに抱えられてテントを後にした。
「さて、サリエ殿、ナウム殿、今、混乱状態にあるため、一度我が軍、敵の魔族から離れて頂けないか。何が起きるか分からない状態なので」
「了解しました。陛下のご配慮痛み入ります」
「アメーリエ殿は市民と行かれますか?」
と兄上はアメーリエさんに向かって聞いた。
この中で、一番動揺が隠せないのはアメーリエさんだった。ローデシアという故郷が破壊状態で、此処に来て、夫も行方不明、そして嫁ぎ先のファル王国には、魔族本隊が向かっている。無理もない。
「いえ、ファルに戻ろうと思います。ファルの市民も私の民。王族が支えなければなりません。どうか此処にいるローデシアの民を、よろしくお願いいたします」
とアメーリエさんは答えた。
「判りました。であれば、海側の街道沿いを行かれると良いと思います。魔物は少ないと思いますから」
と兄上は自分たちが来た道を提案した。エルメルシアに入る道すがら、魔物達を追い払い、駆除してきたからだ。
「国境までは送りましょう」
とサリエさんが申し出て
「有難うございます」
とアメーリエさんは胸に手を当てて、二人に感謝の意を表した。
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