第69話 檻車

 他の多くの避難隊が追いついてきて、今や数千規模にまで膨れ上がった。僕たちの隊が敵を引きつけ、倒していることで、他の隊の移動速度が上がったのが理由らしい。こちらを悟られないように、魔法使い総出で隠遁の結界、方位干渉術、音消しの術を張りまくった。そして、レオナと合流したヘンリーの配下の者たちが斥候を買って出てくれて、周辺を探った。


 レオナが戻ってきて

「ロン大河の渡しの村に敵が集結してます。しかしあの渡し以外では、市民を対岸に移動させるには困難ですね」

と地図を示しながら説明した。確かにその渡し以外だと山が険しく、市民には難しい。


「ただ、朗報もあります。対岸にシン王国の軍が集結しています。今、にらみ合いの状況です」


 対岸まで渡れば、死地を脱したことになる。しかし大河と言うだけのことがあり、対岸の人属が霞むほどの幅があり、渡るのも容易ではない。


「シェリー、向こうのシン王国側と魔法通信はできないか?」

とシェリーに向いて聞いた。


「妨害されているようです。断片的にしか聞き取れません」

と残念そうに答えてくれた。


あるじ、あの村の敵を制圧するしかねぇじゃねぇか」

とアーノルドが、耳を穿りながら喋ってきた。


「ところで、村人たちは何処にいるだろうか?」

とレオナに向き合って、聞いてみた。


「村の真ん中の集会場の様な建物に集められている模様です。ある意味人質ですね」

敵が虐殺に及んでいないのは、少しホッとした。


 しかし、対応策がなく、一日が過ぎた。


   ◇ ◇ ◇


「今、斥候から情報が入りました。村人たちを移送しているようです」

と夜が明けきる前にレオナが教えてくれた。


「何処に移送するのだろうか? どうも嫌な予感がするな」

僕はロッソ村の悲劇を思い出した。


 規模を聞いてみると、檻車から考えて三百人程度、ほぼ村人全員の規模だろう。そして警備は十数騎と多くない。僕たちは、檻車から村人を救うと共に情報を聞き出すことを計画した。


   ◇ ◇ ◇


―――森の中の一本道にアーノルドが、あくびをしながら突っ立っている―――


 先頭の軽騎兵が誰何してきた。

「何者だ? お前も一緒に来てもらおうか」


「あん? 何言ってやがる? 初対面の俺に対して言う言葉か?」


「アルカディアの住人は、すべてローデシアに送ることになっている。森にでも隠れてりゃ、良いものを。ちょっと来い」

と言って近づいてきたが、アーノルドの背中の大剣を目にし、仲間を呼んだ。殿しんがりの三騎を除き、数騎がアーノルドのまわりを騎馬で取り囲んだ。誰何した奴は、リーダー格だったようだ。


「おう、丁度いいや、お前知ってそうだな。後であるじが用があるってよ」

と後ろに下がったリーダーを指して声を上げた。


 アーノルドの言葉を挑発と判断した騎士たちは抜刀し、まわりを回り始めた。


「いや、確かに乗馬技術はすげぇな」

と関心したが、リーダに斥力重力波が行かないように、竜牙重力大剣を半回転させた。


 リーダーを残し、馬に軽く重力波を当てた。

 馬が竿立になり、落馬した騎士を峰打ちし気絶させた。


 残った数騎はと言うと、背中に残像が次々に現れ、皆、首がガクッと下を向き、落馬していった。リーダーは訳も分からず、馬上で惚けた顔で眺めていた。


 殿しんがりの三騎は、隊列が進まない事を不審に思い、馬の上で背伸びしながら、前方の様子を伺っていたが、後ろから怒鳴り声が聞こえてきた。


「おい、お前ら、人の領地で何している?」

とレオナが槍先を下にして立っている。


 一騎が、抜刀しながらレオナに突進し、剣で切る構えをした。しかし、次の瞬間槍先はその騎士の右肩を突いて落馬させた。


 続いて、二騎も同時にレオナに向かって突進したが、一人は腹を石突で突かれ、そのまま馬の上から落とされた。


 もう一騎は馬首をめぐらし、レオナの背中を狙ってきたが、やはり レオナの槍の石突で、鳩尾を突かれて、気絶した。


 リーダーは何が起きているのか理解する前に、後ろに銀髪の女が現れたとき気絶した。


   ◇ ◇ ◇


 僕たちは、檻車から救出した村人たちを、森の中の少し開けた場所に招き入れ、長から事情を聞いた。

 それによると、村の渡しを封鎖して渡ろうとする者を有無を言わさず捕まえていた。この救出した中にも何人かアルカディアからシン王国に逃げようとする者や、シン王国の者までいることが解った。そして、アルカディアの市民を全てローデシアに送ると騎士たちが喋っていたということである。

 小国とは言え、人口数千万人のアルカディアの市民を全員移送するなど通常であれば考えられない。普通ならば統治するのが常套だろう。ローデシアは何かおかしいと僕は思った。

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