第49話 二人だけの毛布

 ヒーナと恋人として付き合って、二年が過ぎた。僕は一八歳になり、ヒーナは二十歳になっていた。

 僕たちの関係も、順調で、笑いあい、ちょっと喧嘩し、そして、また笑いあった。


 一週間前、僕の卒業試験である賢者の石の精製をシェリーと行い、成功したところである。そして、ヒーナも薬学のマスター課程を無事修了した。

 今日、僕たちは、お祝いにコロン車を借りて、アルカディア学園都市内の湖に二人でキャンプに行く。

 シェリーは、ちょっと心配していたが、アルカディア内なので問題はないと説得した。それにシェリーは武術大会に向けての練習がある。


 僕がコロン車の御者をして、その横で大きめの帽子を被ったヒーナが座り、アッチコッチを指さして、楽しそうに喋って、ニコニコしている。

 そんなヒーナの笑顔は、本当に屈託のない太陽のような明るい笑顔だ。僕は、その笑顔が大好きだ。


「ねぇ、ジェームズ、卒業したらどうするの?」

とヒーナは、風で飛びそうになった帽子を左手で抑えながら、僕に向いて聞いてきた。


「マスター課程に進学するよ。ちょっと興味深いことが解りそうなんだ」

僕は、ちらっと横目で見て、答えた。


「それって、魔法残滓のこと?」

「そう、僕の理論が正しければ、魔法残滓には、真名固有の模様が残る。これを突き止めたいだ」

「そして、お母様を襲った、魔法使いを突き止めるの?」

とヒーナは、ちょっと寂しい顔をして聞いてきた。


「それは、まだ判らないな。大分時間も経っているし、魔法残滓が残っているか判らない」

と僕は、前を睨みつけて喋った。


 ちょっと暗いのを払うように、

「ヒーナはどうするんだい?」


「私は、アルカディア内の薬局屋に就職するわ。もう面接も終えているの」

「へー、それは凄いや。でも、感〜覚〜共〜有〜剤〜は、売らない方がいいよ」


「まぁ、判っているわよ」

とヒーナはちょっと、拗ねたように見せてきた。


「でも、あの薬のお蔭で、今、こうしてヒーナといられるだよね」

と、ヒーナに顔を向けた。


 その時、ヒーナは、帽子を左手で抑えながら、首の後ろで立てて、チュッと口づけをしてきた。


 暫くして、湖のほとりに着いたので、テーブルを出して、焚き火をして、持ってきた食材で料理をして、会話を楽しんだ。


―――春の初めの湖は、白い雲を写し、湖面が、虫たちが立てる波紋で時々揺れている。周りの草は、青く芽吹き、新しい季節の始まりを喜んでいるかのように煌めき、鳥たちが飛んでいく様は、恋人たちが追い駆けっ子しているようだ―――


 少し日が陰り、寒くなってきた。


 二人は寄り添い、一つの毛布にくるまっていた。焚き火は、まだ炎が残り周りは赤く揺らめいている。


 口づけをして、自然に深く繋がりたくなっていく。


「ジェーム、胸、触ってもいいわよ。……あの時以来ね」

と小さな声で囁いてきた。


 僕はゆっくりとヒーナの胸を包み触ってみた。弾力があり、そして柔らかい。そんな感触が手を伝わってきた。


「はぁ」

とヒーナは吐息を漏らして、抱きついてきた。


―――毛布の中で、もどかしく思いながらも、ゆっくりと服を脱ぎ捨て、夜は更けていった―――


   ◇ ◇ ◇


 次の日の朝、一糸まとわぬ姿で毛布に包まった二人は、口づけをしながら、暫く喋っていた。


 そして、


「あなたのこれ、あの時だけは、解剖書にあるゴブリンのより、大きいわね」

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