湊波さま『世界で一番あなたがきらい』 を推敲してみる。

 原文はこちら。

 https://kakuyomu.jp/works/1177354054887171135


 それでは。



     *     *     *



 穏やかな夕暮れを迎える稽古場に、剣撃が鳴り響いた。刹那訪れる静謐。

 態勢を崩し地に膝を付く男の喉元に、剣の切っ先が突き付けられている。その剣先が、斜陽を反射しキラッと光る。


「……参った」


 静寂は、苦々しげな男の声で終わった。どっと黄色い歓声が上がる。塔の屋根や庇で翼を休めていた鳥たちが、その騒ぎに驚いたように飛び立つ。


 勝利した騎士は、静かに剣を収めた。いっそ優雅ともいえる所作で一礼をし、兜をとる。

 白に近い美しい銀髪が零れ落ちる。白磁の肌に切れ長の蒼の瞳。ほんの少し憂いを帯びたその退廃的な雰囲気にあてられ、「フェン様……」と観客の中から感嘆の声が漏れ聞こえた。


「すまない。怪我はないか?」


 観客の視線を一身に集める青年――フェンが手を差し出すと、膝を付いていた男は苦笑いしてその手をとった。


「はっ、稽古で怪我してたら世話ねぇな」

「何事もなければいいんだが」

「お前は心配しすぎなんだ」

「君が怪我すると、夕飯の酒代を支払ってくれる人がいなくなるからね」


 フェンがいたずらっぽく笑うと、男はげんなりした顔をした。


「お前のそういうところがだな……」

「さあ立って。夕飯に遅れないように、僕はお嬢さん達の相手をしてくるとしよう」

「へえへえ、言ってろ色男。夕飯に遅れたら、酒はおごんねぇからな」


 男の投げやりな声を背中で聞きながらフェンは振り返った。稽古場だというのに、あちこちに女性がつめかけている。目を上げて塔の方を見やれば、貴婦人達の色とりどりのドレスが窓からちらほらとのぞいていた。

「フェン様!」と口々に声を上げる彼女たちに、にこりと微笑みかける。それだけでますます歓声が上がる。


「こんにちは、お嬢さん方。忙しいのに、見に来てくれてありがとう」


 そう言いながら、フェンは彼女たちに向かって歩き始めた。


*****


 フェン・ヴィーズ――それは「銀の騎士」と謳われる青年だった。

 美しい長い銀髪をなびかせ、剣をふるう姿は舞でも舞っているかのよう。強く優美で、なにより女性に優しい。ゆえに王宮で絶大な人気を誇っていた。

 遠征のたび、稽古のたびに貴賤を問わず女性たちが詰めかけるほど。


「だから、この状況も珍しくはないって感じ?」


 稽古場を見下ろす位置に建てられた塔。その窓の一つから地上に視線を注ぐ影が二つあった。

 おどけて言って見せたのは、そのかたわれの巻き毛の青年。片眼鏡の奥で軽薄そうに目を輝かせ、彼は小さく口笛を吹いた。


「いやあ、噂には聞いていたけど、大層な人気だよね」

「ふん」

「顔だけでいったら、俺も負けてないと思うんだけどなあ」

「お前は見境なく手を出すクズだろう」

「うっわ、ひどい」


 青年をばっさりと切り捨てたのは、もう一人の男だ。窓辺によりかかり、フェンを見つめている。朱い短髪。腰には一振りの剣。まとう服は黒を基調とした簡素な服。だが、彼を見た人は、なによりもその瞳に目を奪われるだろう。

 紅い瞳。

 燃えるような。

 あるいは全てを焼き尽くすような。

 火の国の象徴たる色。


「で? どうなの、あの子は? アッシュ様?」


 巻き毛の青年が問いかければ、男は小さく笑って体を翻した。


「使えなければ死ぬだけだな」

「……これまた、ひっどいね」


 小さくため息をつき、巻き毛の青年も男の背を追うように窓辺を離れた。


*****


 この国には、絶大な人気を誇る二人の男がいる。

 一人は「銀の騎士」フェン・ヴィーズ。

 そしてもう一人の名は、アッシュ・エイデン。人々は彼のことを畏怖を込めてこう呼ぶ。「金炎の王太子」と。




     *     *     *




 オープニングに相応しいドラマチックなシーンなので、冒頭は映像を意識して描写を加えてみました。

 文の構成が気になるところは、ちまちま文節を入れ替えたりしちゃいました。細かい部分でごめんなさい。

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