枝豆ザウルス

ハウスダストドラゴン

恐竜! 枝豆! ベストマッチ!!

これは、世界の歴史とは掛け離れた、『もしも』の世界の物語だ。


ここは恐竜時代、そこで僕こと通称枝豆ザウルスは今日も食料を探していた。

枝豆ザウルスという言葉を聞いたことが無い人が殆ど......というか全員だろう。


それも当然だ。

なぜなら僕は、世界でたった一匹の、突然変異種だからである。

骨がもやしで出来ていて、そこに枝豆をブッ刺した、小学生が作った玩具のようなものに、目と鼻、口をつけただけの見た目をしている。

そんな僕は、枝豆なので、肉食恐竜に襲われることもなく、草食恐竜にも

「見た目的に同類だから食えね」と言われ、平和な毎日が続いていた。

平和と言えど、僕にも悩みがある。

それは、僕と同じ種族の恐竜が存在しないことと、僕が食べられるものが豆だけと言うことである。

いくら生きていないただの植物でも、同族を食べるのには少し抵抗がある。

しかも食べれば食べるほど身体能力が上がるという皮肉めいた能力まである。

だが、豆を食べないと僕は死んでしまうので、いつもありがたく食べさせてもらっている。

そして今日、僕が肉食と草食、どちらの群れに入るか肉食恐竜と草食恐竜で揉めていると、いつのまにか肉食恐竜と草食恐竜が意気投合し仲良くなっていた。

わけが分からない。

草食恐竜が草を試しに食ってみるよう勧めると、肉よりも美味かったらしく、肉食恐竜は草食になった。

今までの争いは何だったのだろうか。

それから僕達の集落は拡大して行き、争いの無い平和な世界が誕生した。


それからしばらく後ーーー。

すっかり楽園となった集落で、もっと親睦を深めるために、お祭りのようなイベントが行われることになった。

さらに、そのイベントの終盤で、プテラノドン、トリケラトプス、ティラノザウルスの三種族の代表が集まって、バンドを組むことになったらしい。

『プトティラ』というバンド名で、どんな演奏をするのか期待されている。

「それにしても、僕が原因で争いが無くなるどころか全種族で共生することになるなんて、思いもしなかったなぁ」


と、僕は密かにそう呟くのだった。



それから時は流れ、イベント当日。

僕達の集落には活気が満ち溢れていた。

草食べ放題のバイキングがあったり、屋台があったりで、皆とても楽しそうにしていた。

そこで僕が適当に歩いていると、豆食べ放題のバイキングを見つけた。

(ここ最近あまり豆が取れないと思ったら、このために回収されていたのか......)


僕はそう思いながら、豆食べ放題を注文した。

ちなみに、この集落が出来てからは、売り買いには通貨が使われるようになっていた。

丸い金の枠に、紫色の鉱石を嵌めてメダル状にし、プテラノドン、トリケラトプス、ティラノザウルスのどれかの絵が刻まれているものだ。

僕はその通貨をプテラノドン、トリケラトプス、ティラノザウルスのものを一枚ずつ渡し、しばらくの間ひたすら豆を食べ続けた。


そしてさらに時は流れ、このイベントも終盤に差し掛かった。

そして終盤といえば、このイベントの中で最も期待されていた『プトティラ』のライブがある。

僕がライブ会場につくと、もう既にたくさんの恐竜達で埋め尽くされていた。

しばらくの間待っていると、もうすぐ『プトティラ』のライブが始まるようだった。

「皆様お待たせ致しました!これよりプトティラのライブを始めます!それでは、どうぞ!」


主催者のその言葉と同時に、『プトティラ』のメンバーが登場した。


「プテラ!」


「トリケラ!」


「ティラノ!」


「プテラ!」


「トリケラ!」


「ティラノ!」


「「「ギガスキャン!!!」」」


その掛け声と同時に、メンバー達が石や木、金属等で作った楽器を鳴らし始める。


「プ、ト、ティ、ラ、プト、ティラノ、ザーウルース!

 プ、ト、ティ、ラ、プト、ティラノ、ザーウルース!」


そうしてライブはものすごい盛り上がりとなった。


こうして、それから何年も平和が続いた。

時々イベントを開いたり、恐竜どうしでの遊びやスポーツ等の娯楽も生まれた。

恐竜達の楽園はこれからも永遠に続くと思われていた。


ーーーだが、そんな平和を脅かすものが発生した。

ある日、空からゆっくりこちらに向かって来る巨大な岩を発見したのだ。

あと数日で集落に激突する様子で、恐竜達は大パニックになった。

僕達の集落は、家に引きこもる者、すこしでも遠くに逃げようとする者、諦めて絶望してしまう者の集まりになってしまった。

だが僕は、それらの内のどれでもなかった。

僕は、隕石にすこしでも抵抗をしようとしていた。

自分でも無茶をしていることは理解している。

だが、何かせずにはいられないのだ。

そして隕石が激突するであろう日、僕はその落下地点の真下にいた。

どうせここから逃げたって逃げきれない。

それにここは皆で長年仲良く生きてきた大切な場所だ。

離れたくはなかった。

隕石が空に見えると、僕は長年豆を食べつづけて限界まで高めた身体能力に任せ、地を蹴った。

そして隕石に向かって、自分の拳や尻尾をたたき付ける。

一気に拳と尻尾の枝豆が砕け散るが、気にしない。

だが、傷ついたのは僕だけじゃなく、隕石も三分の一ほどが砕け散り、粉々になっていた。

僕はそのまま隕石に攻撃を続ける。

全身の枝豆は砕け散り、骨であるもやしも折れる。

ひたすらに攻撃を続けた身体はボロボロで、もはや痛覚すらない。

それでも僕は、隕石に攻撃をし続けた。

そして隕石の殆どを破壊し、落下して行くボロボロの僕が最後に見たもは......


四分の一ほどは壊れてしまったけれど、それでもそこに残っている、思い出深い、僕達の集落だった。

「本当に良かった......これで......思い残すことは無い......」


そうしてこの瞬間、僕の何十年かの恐竜生は、終わりを迎えた。




そしてこれは僕が知るよしもないことだが、集落には大きな僕の墓が立てられ、砕け散った僕の枝豆の欠片は木を生やし、その木からは枝豆がなるようになった。

さらに枝豆は神の食べ物として扱われるようになり、僕の名前は恐竜の歴史に大きく刻まれることとなった。




そしてこれからも、恐竜達の歴史は続く。


そう、これは隕石が落ちて滅びるはずだった恐竜達が滅びない、世界の歴史から切り離された、そんな物語だ_______

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