第104話 ひかりの作戦
ひかりが発したその言葉に、みんながひかりを見つめている。
「お願いします。ここで……諦めたくないんです。わがままを言ってしまいますけど、まだ可能性があるなら、もう一度戦ってみたいんです!」
ひかりの力強い言葉に、みんな声を失っていた。
けれど、そんなひかりの真っ直ぐな瞳を見て。
みんなの瞳にも、ひかりと同じような輝きが戻っていく。
「……ふふ。まさかひかりがそこまで言うなんて、メイさん驚いちゃった!」
「あたしも。けどまぁ、ここで逃げ帰るのはそりゃ腹立つよな」
「……はは、ははははは! そうだね! このままは僕だって悔しいさっ! どうせ帰るのなら、みんな仲良く前のめりに倒れて帰ろうじゃないかっ!!」
「ふん、やるか」
「出来れば全滅は避けたいけれどね~。でも私、そういう熱いのもキライじゃないわ~♪」
「皆さんに付き合うのは骨が折れますね。でも、私も反対はしませんよ」
みんなが再び闘志を取り戻し、ひかりの表情が明るくなる。
僕も言った。
「ひかり、やろう! 今持ってる僕たちの力全部使って!」
「ユウキくん……はいっ!」
そんなパーティーチャットはもちろん琴音さんにも届いている。すぐに琴音さんからも『ええ、それでいいわ』と返事が来た。
しかし問題はここからだ。
「さーて、それじゃあどうやってあのドラゴンさまを倒そっか? 他のパーティーが来てタゲが向くのも待ってるって方法もあるけどねぇ……」
そんなメイさんの発言に、ひかりが言った。
「あの、わたしにひとつだけ考えがあるんです」
「え? どういうことひかり?」
「えっとですね…………その、ちょっと言いづらいことなので、内緒です!」
『え?』
作戦を内緒にされるというまさかの展開に僕たちは呆然。
ひかりは「あ、え、えとっ」と慌てて続けた。
「違うんですっ! その、皆さんに迷惑をかけるようなことではなくて……け、けどこれならいけるかもって思える作戦があるんです! だからわたしに任せてくれませんか!?」
ひかりの目は……いつだって真剣だ。
それに、普段はみんなの意見に従うタイプのひかりが自分からこんなことを言い出すのは珍しいし、そこにはきっと彼女なりの大きな覚悟がある。そのことは僕だけじゃなく、みんなが感じたことだろう。
だから僕はうなずいた。
「うん、いいよ。ひかりに任せる」
「ユウキくん……!」
「なにせ僕の相方が言うことだからね。もちろん、ひかりを信じるよ」
「…………ありがとうございますっ!」
ひかりが目尻から涙をにじませて微笑む。
するとみんなもうなずいて、
「わかったよひかり! メイさんもひかりに任せちゃうっ!」
「どーせ死んでもあと一回だろ? リンク値が下がるのはこえーけど、やってやるよ」
「ああ、僕もひかりくんも信じよう! 何せライバルの相方さんだからね!」
「ふん、やはり剛胆な女子だな」
「うふふ。いいわよ~私もひかりちゃんにお任せするわ~♪ 何でも言ってね♪」
「私たちには何も案はありませんからね。ひかりさん、お任せします」
みんながひかりにすべてを預けてくれた。
そしてもちろん、琴音さんも――
『……話は決まったみたいね。いいわひかり。私もあなたの作戦に乗る』
「琴音さん……みんな、ありがとうございます!」
『お礼は勝ってからよ。それでひかり、私はどうすればいい?』
琴音さんの質問に、ひかりは応えた。
「はいっ。ここに来たら――まずわたしを最初に起こしてもらえますか?」
『!!』
その発言に驚愕する僕たち。
「ひ、ひかり? え? 僕やレイジさん、ビードルさんじゃなくて?」
「はい、わたしを起こしてほしいんですっ」
「いや、でもそんなことしたらひかりがあいつに狙われるよ!」
「それでいいんです!」
「え――」
「きっと、それでみんなのことを助けられるはずです。琴音さん……お願い出来ますかっ?」
ひかりの言葉に。
少しの沈黙を挟んで……琴音さんは応えた。
『ええ、言ったでしょ。あなたの作戦に乗るって。それじゃあそっちに行くわよ? 準備はいい?』
「琴音さん……はい! お願いします!」
『わかった。すぐに起こすわよ!』
直後、部屋の入り口に琴音さんが現れ――ついにひかりの作戦がスタートする。
「《リザレクション》!」
琴音さんがスキルを発動させたタイミングでボス――『暗黒時竜・カイザードラゴン』がその存在に気づき、咆哮を上げて走ってくる。
「ひかりっ! 琴音さんっ!」
僕の声に、起き上がったひかりは笑顔で応えてくれた。
一体ひかりはどうするつもりなのか、みんなで彼女を見守る。
するとひかりは――
「――《サルヴェイション》!」
いつの間に取得していたのか、僕がまだ見たこともないスキルを唱えて、その身体が淡い白の光に包まれていく。同時にひかりは残していたMPポーションでMPを回復させた。
琴音さんとメイさんが驚愕して叫ぶ。
「ひかり……あなた、そのスキルはっ!!」
「ひかり!? まさか、そのために自分を最初にっ!!」
二人の言葉の意味がわからず、僕はただ呆然とする。
ひかりは杖を持ったまま、僕たちからあえて離れるように走り出した。
「これならわたしのMPがなくなるまで時間を稼げます! 琴音さん、その間にみんなを助けてあげてください!」
「ひかり……あなた、どうしてそこまでっ!」
琴音さんの声に、ひかりはただ笑顔を見せるだけだった。
そしてついに、後に追ってきた暗黒時竜がひかりの前に立ちはだかる。
ひかりは杖を前にかかげて対峙した。
『グオオオオ……! 《スラッシュ・ネイル》!』
勢いよく爪を振り下ろす時空黒竜。
ダメだ、VITもないひかりにあんなの耐えられるわけがない!
「ひかりーーーーッ!」
逃げてほしいという想いを込めた言葉も、しかしボスの咆哮にかき消される。みんなも何かを叫んでいたけど、それが何かも聞き取れなかった。
「――きゃあああっ!」
そしてひかりは無残にもボスの爪に引き裂かれ、直撃したスキルのダメージにより一発でオーバーキルされてしまう。僕の視界にひかりが倒れたログが流れた――。
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