第100話 入り口モンハウあるある

《古代竜の巣 地下10F》


 そうして僕たちは、いよいよ最後のフロアに到着した――途端にそれぞれの武器を構える! 後ろからついてきていた他のパーティーの人たちもみんな同じ行動をとっていた。


「わぁ~☆ 素敵な小鳥さんたちの歓迎に、メイさん感動~♪」


 メイさんがミュージカルっぽい謎の演技を始め、ナナミが「うるせぇ言ってる場合か早く呪文!」と背中を蹴り飛ばし、楓さんが「あらあら~」と微笑みながら杖を握り、その間にもビードルさんは既に先頭で盾を構え、琴音さんとひかりがみんなに支援呪文をかけ終えていた。


「ユウキくん! 行くよっ!」

「レイジさん! はいっ!」


 剣士の僕たち二人が前衛に飛び出す。

 迎え撃つのは小鳥さんではなく、空気を震わす咆哮を上げる数十のドラゴンたち。いきなりのモンスターハウス状態で、しかもサイズや属性がバラバラという非常に嫌らしい構成だ!

 いきなりのお迎えに、けれど僕たちは怯まずに立ち向かった――!



 ――およそ十分後。


「はぁ、はぁ、はぁ…………な、なんとかなりましたね……」

「ふぅ……お疲れ様、ユウキくん。それにみんなもね」


 その場にへたり込んで呼吸を整える僕とレイジさん。

 二人ともHPゲージは真っ赤だったけど、盾役のビードルさんが倒れていたり、楓さんとナナミさんが瀕死だったこともあって、琴音さんはまずそちらの回復に専念していた。他のパーティもかなり壊滅に近い状態になっている。

 そして僕たちの元にはひかりが慌てて走ってきてくれた。


「ユウキくんレイジさんっ、大丈夫ですか? すぐ回復しますねっ!」

「うん。ありがとうひかり」

「助かるよひかりくん」


 そしてすぐに僕たちの身体を青い光が包みこみこんでいく。

 琴音さんと同じ《プリースト》に転職したひかりが持っている回復スキルは、けれどまだ《ヒール》のレベル5のみ。本来なら20まで上がるそのスキルが5止めであること、そしてひかりのINTが少ないために回復量が少なく、なかなかHPが回復しきってくれない。僕とレイジさんのレベルが上がってHP上限がかなり上がっていたこともあるんだけど、ひかりのMPがすぐになくなってしまった。


「お疲れ様。あとは任せて、ひかり」

「あ、は、はいっ」

「《セイクレッド・プレイス》」


 そこへやってきた琴音さんが唱えた範囲回復呪文とレベル20MAXの《ヒール》の組み合わせにより、僕たちのHPは数秒足らずであっという間に全快。INTの高いプリのセクレには毎回ちょっと驚いてしまう。ひかりも、既に何度も見ているはずの琴音さんの回復スキルに感動しているようだった。


「すごいです……ありがとうございます琴音さんっ」

「パーティメンバーを支援ヒーラーが回復するのは当たり前でしょう。いちいちお礼なんていらないわ。というかひかり……《ヒール》!」


 琴音さんが唱えた数回のヒールでひかりのHPが満タンに回復する。琴音さんは短いため息をつき、腰に手を当てながら言った。


「あのねひかり。あなた自身もHPが真っ赤だったじゃない。殴りだろうとあなたはプリなんだから、まずは先に自分を回復しなさい。今ここに敵が湧いたらどうするつもりだったの? プリはパーティの要なのよ。プリが落ちればパーティが崩れるの」

「は、はい。ごめんなさい……」


 素直に謝り、しゅんと眉尻を下げるひかり。

 琴音さんはそんなひかりをじっと見つめ、その頬に手を伸ばし、触れた。


「? こ、琴音さん?」

「汚れていたから」


 琴音さんの手がひかりの頬を軽く拭うと、ひかりの頬についていた煤汚れが綺麗に落ちた。

 琴音さんは言う。


「今のは一般的なクレやプリへの話よ。あなたは殴りだし、あまり気にすることはないわ。ただの勉強くらいに聞いておいて。それに今は私がいるから。あなたのことも私が守ってあげられる」

「琴音さん……」

「けど、あなたはユウキくんの相方なのだから、もっとしっかりしなくてはダメよ。二人きりのとき、ユウキくんを守る役目があなたにはあるのだから。もっと成長してもらわないと困るわ」


 そんな厳しくも、けれど優しさがこもっているのがよくわかる琴音さんの言葉に、ひかりは目を輝かせていき、


「は、はいっ!」

「良い返事ね」


 大きく返事をして、琴音さんもうっすらと微笑む。

 そんな光景に、戦闘後の僕たちはすっかり和んでしまった。

 いつの間にか隣で座っていたメイさんが目元を拭いながら話す。


「うんうん。恋のライバル同士だった二人にもすっかり友情が芽生えたんだね、素晴らしいよ! メイさんまた感動しちゃったよぅ! ――はっ、けどこれがきっかけで百合百合な関係になっちゃったらどうしよう……! ユウキくんっ、そのときはメイさんが責任をとってユウキくんのお嫁さんになってあげるからね! 安心していいのよあなた♥」

「何の話!? つーかその奥さん役気に入ってるよね!?」

「百合……というのは花のことだよね? どういう意味なんだいビードル?」

「オレに聞くなレイジ」

「レイジちゃん~。百合というのはね、女の子同士のイケナイイチャイチャを総称したような言葉なのよ~♥」

「楓さん! 会長に変なことを教えないでください」

「いいからメイは黙ってMP回復してろっ!」

「もががっ!」


 ナナミからMPポーションを口に突っ込まれて悶えるメイさん。そんな愉快な光景に場の空気はとても良くなっていった。いつの間にか、この九人でのパーティーが自分の居場所みたいに感じられるようになった。


「ユウキくん、僕は思うよ。このパーティーでなら、きっとこの階層もクリア出来るはずさ。そして、みんなで明後日からの夏休みを気持ち良く迎えたいね」

「レイジさん……そうですね!」


 レイジさんの言う通りだ。

 僕も、このパーティーでならこの難関ダンジョンも制覇出来ると信じている。

 ひかりと琴音さんの勝負に関しては……審査員でもない僕にはどうしようもない。だから僕に出来ることは、ひかりと琴音さんと最後まで一緒に攻略すること。二人がお互い全力で戦えるように、僕も全力で戦うことなんだ!

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