第67話 祝福の場
伸ばした僕の手は――温かいものに握られていた。
顔を上げる。
ひかりが、両手で僕の手をそっと包み込みながら言った。
「……はい。わたしでよければ、よろしくお願いします」
微笑むひかりの目尻からは涙がぽろぽろこぼれていて。
けど、そんなひかりの笑顔が僕には何よりも綺麗で輝いているように見えた。
あんまり嬉しくて、つい僕の涙腺まで刺激される。
「よかったねぇ~! おめでとうユウキくん、ひかり! これで正真正銘の立派な相方同士だねっ!」
「わっ、メ、メイさんありがと」
「メイちゃん、ありがとうです!」
メイさんが僕たち二人をまとめて抱きしめてくれて、その後ろからナナミも呆れたような顔で手を叩きながらやってきた。
「はいはいおめおめ。ったく、見てるこっちが恥ずかしいっての。つーかユウキが変な告白するから吹き出しそうになったわ」
「ううっ! ぼ、僕は感動で泣きそうだよ! おめでとうユウキくんひかりくん!」
「ふん……めでたいな」
「あらあらあらあら~♪ なんだか私の方までドキドキしちゃったわぁ~♪」
「わ、私もです……ドキドキが止まりません……」
みんなが揃って拍手で僕たちを祝ってくれる。
めっちゃくちゃ恥ずかしかったけど、でも、みんなに祝ってもらえたことが本当に嬉しかった。これで断られてたら一生モノのトラウマだっただろうけどね!! ああほんとよかった!!!
なんてホッとした瞬間、僕の視界に突如何かのウィンドウがポップアップする。
「わっ!」
「きゃっ」
ひかりもほぼ同じタイミングで声を上げたことから僕は察する。
目の前に現れたこのウィンドウが、ひかりの元にも表れたのだと。
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《リンク・パートナー契約》の発生
『ユウキ』さまと『ひかり』さまのリンク値が上限に達しています。
お二人の想いが
お互いが望むのであれば、この《祝福の場》で永遠の誓いを立てることが出来ます。
この場所で誓いを立てますか? [yes] [no]
[no]を選択しても、《祝福の場》で再びどなたかと契約をかわすことが可能です。
※注意 一度誓いを立てた者は、他の者と誓いを立てることは出来ません。
お互いのリンク値が著しく減少すれば、契約が自動解除されることがあります。
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まさか、僕とひかりの前にもそのウィンドウが現れるとは思わなかった。
リンク値をもっと溜めなければいけないと思っていたから。そして告白の場は教会でないとダメだと思っていたから。
でもそうか、ここは確かに屋外挙式を行うような場所だし、フィールド名の《祝福の場》というのがこの契約の条件なのかもしれない。
そこで様子のおかしい僕たちにメイさんが言った。
「ユウキくん? ひかり? 急にどうしたの? あ、ひょっとしてパートナー契約のウィンドウが出たのっ?」
「う、うん。なんか、誓いを立てるかどうかって……」
「そうなんです。急に出てきて……」
「おお~……すごいね、やったね! 本当におめでとうだよ~! あ、そうだそうだ! メイさんちょうどいいもの持っていました!」
メイさんはその場で突然インベントリを探り始め、そこから二つの衣装を取り出した。
「じゃじゃーん! これを二人にプレゼントしまーす!」
「えっ」「え?」
僕とひかりは――いや、その場の全員が当然のごとく驚くしかなかった。
なぜって、メイさんが取り出した二つの衣装が、なんと真っ白な《ウェディングドレス》と《タキシード》だったから!
「メ、メイさん!? なんでそんな装備持ってるんですか!」
「備えあれば憂いなし、みたいな? いつか二人に必要になるかなーって思ってね♪ まぁまぁそれはどうでもいいからさ、メイさんの気持ちだと思って受け取って。おねがい♪」
そうしてメイさんに押し切られ、つい衣装を受け取ってしまった僕たち。そのままメイさんに装備を促されて、なんかものすごく恥ずかしいけど、僕はタキシードを、そしてひかりはウェディングドレスを装備することになり――
「きゃあああ~~~~ひかりキレイだよかわいいよぉ~~~~~~~~♥♥♥」
「わぁ、メ、メイちゃん~」
途端にメイさんが目をハートにしてくねくねと悶えだす。僕もひかりもどうしていいのかわからず、お互いにただ顔を紅潮させるだけだった。でも、レイジさんたち生徒会の人はみんな素直に拍手で僕たちを祝ってくれた。
「ユウキくんのタキシードもよく似合っているよ」
「あ、ありがとうございますレイジさん」
「いやぁ、それにしても本当におめでたいね。この場所も素敵だし、まるで本物の結婚式みたいだよ。ユウキくんは格好良いし、ひかりくんは大変美しいね!」
「ふん……馬子にも衣装か」
「二人とも、とってもよく似合っているわよぉ~♪ その歳でウェディングドレスが着られちゃうなんて、ひかりちゃんが羨ましいわぁ~♪」
「はい……とてもお綺麗ですね……。特にひかりさんのドレス姿は……はぁ、ため息が出ます……」
そうしてみんなが僕たちを盛り上げてくれて、あとはもう[yes]を押して契約を完了させればいいってところまで来たんだけど、
でも、そこで彼女は言った。
「――おい、やめとけよ」
そう、なぜか唯一何も言ってくれなかったナナミだ。
契約を止めるその声に、ひかりがちょっと寂しそうに言った。
「ナナミちゃん? ど、どうしてですか? やっぱり、わたしじゃユウキくんのパートナーにはふさわしくないってことでしょうか……」
「は? いや、そうじゃなくて――」
「なるほどなるほど。つまりナナミはこう言いたいんだね? 『ダメよ! ユウキくんにふさわしいのはこのあたしなんだから! あんたなんかにユウキくんは渡さない! ユウキくんのパートナーになるのはあたしよ!』って!」
「誰のマネだよ似てねーよ!! あーもう違うっての! そんな大事なイベントを何もここでやることないだろってこと! もっと二人の思い出の場所とかあるだろ! それにあたしたちなんかがいたら邪魔だろ! 本当の結婚式でもあるまいし!」
そんなナナミの言葉に、僕たちは揃ってポカンとしてしまった。
「……お、おい。なんだよ。みんなしてそんな顔してっ」
身を引いて動揺するナナミ。
やがて……僕たちはドッと笑い出す。
「ちょ、なんだよ! なんで笑うんだよお前ら!」
「ふふ、あはははっ! ナナミってばも~可愛すぎるよ~~~っ♪ でも確かにその通りだよねっ。せっかくのプロポーズなのに、メイさんたちがいたら邪魔になってしまうね。ふふ、あはははははっ」
「だ、だからなんで笑うんだよっ、おかしいこと言ってないだろ!」
ナナミの顔がどんどん赤くなっていく。けれど僕たちの笑いは止まらない。
思えば、最初はナナミのことをとっつきにくくてキツイ性格の人かもって思ってたけど、もうそんな印象はどっかに消えてしまっていた。ナナミは、本当に優しくて可愛い女の子だと思う。
僕は[yes]に伸びかけていた指を下ろし、ひかりに言った。
「うん、ナナミの言う通りだ。ひかり、この契約はまた別の場所でしようか?」
すると、ひかりは意外にもすぐに首を横に振った。
「いえ。わたし、ここがいいです!」
「え?」
「ひかり?」「おいっ!」
驚く僕と、メイさん、ナナミさん。それに生徒会のみんなも。
ひかりは続ける。
「ナナミちゃんの気持ちはとっても嬉しいです。だけど……わたしとユウキくんが繋がれたのは、今、この場所だって思うんです。ここに来たことも、契約のウィンドウが出たことも、たまたま偶然かもしれませんけど……でも、わたしにはもう、ここが大切な場所なんです!」
「ひかり……」
「えへへ。それに……二人きりも、もちろん、すっごく嬉しいですけどっ。で、でもわたしは……メイちゃんとナナミちゃんの前で、ユウキくんと契約をしたいんです!」
「「え?」」
メイさんとナナミが声を揃える。
ひかりは二人を見つめて言った。
「だって、二人ともわたしにとっては家族みたいに大切なお友達ですから!」
ひかりは笑う。
メイさんとナナミは少し呆然として、それから、その瞳を光らせた。
「わがままになっちゃってごめんなさい。でも、その、ユウキくんさえよければ……この場所でも、大丈夫ですか?」
ひかりが僕を見上げる。
答えなんて、一つしかない。
「――うん、もちろん!」
すると、ひかりは目尻を拭って一段と明るい笑顔を見せてくれる。
僕は思った。
いつまでも、ひかりにこんな笑顔をさせてあげられるパートナーになりたいって。
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