第62話 仮想世界の夏Ⅲ


 その一言に全員で驚く。

 そんな僕たちに対してひかりは、「え? だっていつもはもっとくっついてるじゃないですか」とあっけらかんだった。

 いや、確かにそうなんだけど! むしろ普段はひかりの方からメイさんやナナミにくっついてるわけだけども! 

 でも、やっぱりナナミの言う通り、ひかりはそういうことに疎い子なんだって改めて僕は思った。

 メイさんの目がギラリと光る。


「あらら……じょ、冗談のつもりだったんだけどな? い、いいんだよねひかり? それじゃあ触るよ? メイさん、触っちゃうよ? 据え膳いただいちゃうよ!」

「すえぜん? はい、どうぞ」


 笑顔でメイさんを受け入れるひかり。


「ふふふふ……それじゃあ遠慮なく……」


 ひかりの純朴っぷりを良いことに、メイさんはその魔の手を伸ばし、ひかりの髪を撫で……そこから頬に触れ、首から胸元に降りていく。

 そしてひかりの大きな胸にそっと触れた瞬間、ひかりが「んっ」とわずかな声をあげた。


「メ、メイちゃん? えっ? 胸も触るんですか?」

「ふわぁ……柔らかさだけじゃなくて、ツヤといいハリといい、手に吸い付くようなもっちりとした感触がメイさんを幸せにしちゃう……。なによりこのボリューム……メイさんの手からはこぼれ落ちてしまうほど……ウフフ……同性さえここまで魅了するなんて、なんてけしからん子なのひかりは♥」

「わ、わたし、けしからんのですか? ――あっ、メ、メイちゃん! その、あ、あんまり、胸は、もみもみしないでくだ、さい……。な、なんだか、変な……んんっ」

「もう少しだけ……もう少しだけ触らせて……? ああ……メイさん天にも昇る気持ちです……かわいいひかりのかわいいおっぱい……すごい……えへへ……」

「メ、メイちゃぁん……ん、はぁっ……」


 優しい手つきでひかりの両胸をなで回し、時折ふんわりと包み込むように揉んでいく。


「ユウキ、くん……み、みないで……くだ、さい……あぁっ」


 艶めかしい声を上げるひかりとその情事を、けれども僕は、まばたきも忘れてじっと凝視してしまっていた。そして逆の鼻からも鼻血が出る。


「えへへ……ここまできたらちょっとだけ、直に触らせてもらって……」

「え……メ、メイちゃん、そ、それは、ダメ、ですよぉ……」


 じりじりとひかりの水着に手を伸ばすメイさん。

 ごく、と生唾を飲み込む僕は、この後いったいどうなってしまうのかに頭の想像がフル回転してしまっていた。

 そこでナナミが叫ぶ。


「お前ら……いい加減にしろおおおおお! 《ラピス・ハンマー》!」


「――え? わああああああああっ!」


 ぶち切れたナナミの唯一の攻撃スキルが炸裂し、召還された神様のハンマー攻撃によってメイさんは海の方へと吹っ飛ばされる。


「ええ!? メ、メイさーん!」

「メイちゃん!?」


「ひゃあああ~~~~~!」


 悲鳴をあげながらドボーンと海に落下していくメイさん。PVPフィールドでもない限りはプレイヤー同士でダメージを与えることは出来ないけど、たぶん、衝撃だけは伝わっただろう。あと落下ダメージもあるかもしれない。


「それ以上は学則違反のセクハラで処分食らうぞバカ! 可愛いもの好きもいい加減して頭冷やして反省しろ! つーかユウキもちゃんと止めろよ! ひかりもされるがままにすんな! あいつはすぐ調子乗るからあんなこと二度とさせんなよ! わかったか!」


「「は、はい!」」


 大声をあげるナナミに僕とひかりは背筋を伸ばして返事をし、メイさんからはギルドチャットで「ご、ごめんなさひ……」と震える謝罪が聞こえてきたのだった……。


 で、そんなメイさんのセクハラ騒動が収まった直後。ふらふらのメイさんがこちらへ戻ってきたところで、ちょうど見慣れた人たちがやってきた。


「――ははは、既にだいぶ盛り上がってるみたいだね」

「あ、レイジさん! それに生徒会のみんなもっ」


 そう。やってきたのは生徒会の四人で、もちろんみんな水着姿だ。


「やぁ、遅れてすまない。生徒会の仕事が残っていてね。けれど、せっかく誘ってもらえたんだ。生徒会一同で遊びに来たよ」

「ふん。俺はこのようなチャラチャラした遊びに興味はないが……」

「ビードルちゃんてば硬派でつまらないわねぇ。こ~んなに可愛い女の子たちが水着でいるのに~。ほぉら、るぅちゃんだって普段とは全然印象が違うわよ~?」

「や、やめてください楓さん。私もこういう慣れない場所は苦手なんですっ」


 レイジさんの身体は程よく鍛えられていて、遠くから生徒会長ファンの女子たちが熱い視線を注いでいた。その水着はなぜかぴっちりなブーメランパンツ。

 ビードルさんの方はさらにがっちりと筋肉がついており、水着はなぜかふんどしである。

 楓さんは落ち着いたパレオの水着で、るぅ子さんは学園で使うはずのスクール水着を着用していた。

 うーん、なんかそれぞれに性格が反映された水着チョイスな感じするなぁ……。


 と、そんな生徒会の登場にひかりたちも喜んでいた。


「わぁ、皆さん来てくれたんですね。ありがとうございますっ!」

「あー、こりゃなんかますます騒がしいことになりそうだな……」

「よしよし、これで面子も揃ったね! 四人だけじゃビーチバレーなんかもやりづらかったから助かるよ~! それじゃあリアルではまだ少し早いけど、みんなで一足先にLROの夏を堪能しちゃおー!」


 楽しそうなメイさんの声に応えて、僕たちの少し早い夏が始まった。

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