第47話 何を買う?
僕はまず、今のひかりにより必要そうな装備を考えてみる。
「うーん。その服は基本防御が高いはずだし、闇属性耐性もあるから今はそのままで十分なのかな。欲しいのはより実用的な頭装備と、物理に特化した武器と……あとは靴辺りかな」
「頭装備ですか……でもでも、わたし、これ気に入ってるんですっ!」
「え? 狐耳を?」
「はいっ! メイちゃんが初めてくれたものですし、初めて着けた頭の装備なので、思い入れがあって……ど、どうしても外さなきゃダメでしょうか?」
ひかりが上目遣いに僕を見つめ、頭上の狐耳がぴょこぴょこ揺れる。
うう、そういう目をされると弱い。というかあの狐耳ってどういう仕組みで動いてるんだろう……可愛いなもう……。
「わ、わかったよ。気に入ってるものなら無理に外す必要はないしね。それに、確か狐耳ってAGI上昇効果がついてたよね?」
「あ、はいっ! 5上がるみたいです!」
「5も!? あれ、実は狐耳ってめちゃくちゃすごい装備なんじゃ……ほ、他に何か付属効果ある?」
「えっと…………あ、攻撃スピードが上がる効果もありますね」
「マジか! やっぱり頭装備はそのままでいいよ! むしろそのままの方が良いと思う! ひかりに合ってる神装備かもしれない!」
「え? そ、そうなんですか? わかりました。えへへ、良かったね~狐耳ちゃん」
胸元に手を当てて安心した様子のひかりは、頭の狐耳に触れて話しかけていた。
そっか……メイさんだってひかりの事情は知ってただろうし、だからあえてひかりの特性に合っている可愛い装備をプレゼントしたのかもしれない。そういえばナナミさんも実用性結構あるって言ってたしな……。
何を隠そう僕も、ひかりといえばこの狐耳、みたいなイメージが固まってきてしまっていたし、色的にもひかりの金髪にはものすごく似合ってるし、赤いリボンもしっかり映えてる。メイさんの美的センス恐るべしだな。
「よし、じゃあ他の装備を探してみようか。そうだな……ひかりはやっぱり長所の打撃力を伸ばす方がいいかも。もしくは、低めのINTを補ってくれるようなものもいいね。そうすればスキルも今より多く使えるようになるし、狩りも楽になるはずだよ。後は装備じゃないけど、合わせてステータスポイントを少しINTに振っておくだけでも違ってくると思う」
「なるほどです~……お金もあんまりないですし、大事に使わないとですねっ! ポイントも、次にレベルが上がったらちょっと振ってみたいです!」
「だね。僕も武器はいいとして、他の装備を新調したいかなぁ……」
ひとまずひかりの相談は終了。ひかりに合う装備も探しつつ、自分の物も見繕いたい。僕はどちらかといえば慎重に買い物をするタイプなので、こういうところでちゃんと相方らしくひかりの役に立たないとな!
なんて思っていると――
「わー! みんなこっち来て! 見てみて! 《ウサギのヘッドドレス》だって! なにこれカワイー初めて見るよ~どこで手に入るんだろう! すみませんこれくださーい!」
「おいコラ待てメイ! GVGのための装備調達に来たんだろ。何いきなり趣味装備を買おうと――ってこいつホントに買いやがった! しかも3Mもするじゃねぇかああああ!」
「ええっ! ちょ、メイさんマジで買ったの!?」
「メ、メイちゃん即決です……!」
「はっ! つい買っちゃったよ~。もうお金なくなっちゃった。てへっ♥」
「てへじゃねええええ! 返品しろおおおおおおッ!」
「イ、イヤだよ! こんな可愛くて珍しいレア装備他にないもん! メイさん絶対に返品しないからね! ナナミが着けてくれるなら考えないこともないかもだけどね!」
「あーあーわかった着けてやるから返品しろ!」
「えーそこは断ると思ったのにっ! や、やっぱり返品しないもん! 返品しないしナナミにも着けてもらうんだもん!! やだやだやだもん!」
「幼女かお前は! 駄々こねてないでいいから離せ!」
「いーやーだーよー! ここは自由な世界なんだ! メイさんの楽園なんだ-!」
メイさんとナナミさんによる《ウサギのヘッドドレス》争奪戦が始まる――かと思ったけど、そもそもアイテム権限はメイさんにあるからナナミさんにはどうしようもないわけで。
「くっ! こいつ……GVG言い出しっぺのくせに……! はぁ、もうしらん! 勝手にしろ!」
「やったーお許し出た! ねねひかりひかりっ、ちょっとつけてみてくれる? ね? メイさん一生のお願いっ! はいこれっ!」
「え? あ、は、はい。わかりました。……えと、どうですか?」
メイさんから《ウサギのヘッドドレス》を受け取ったひかりが、狐耳を外してそれを装備。
ひらひらの可愛らしい装飾が施されたヘッドドレスと、そこに付いた真っ白なウサ耳がふわふわと頭上に揺れる。それはひかりの可愛らしいルックスにぴったり合っていて、僕は思わず見惚れてしまった。メイさんにGJをあげたい!
「ふわあああああ……か、かわいすぎるよぅ……♥ うさたん天使……メイさんしあわせ……はぁはぁ……スクショ連打しちゃうぅ~……♥♥♥ ひかりにプレゼントするね~♥」
「メ、メイちゃん恥ずかしいですよ~っ。あっ、ユウキくんはどうですか? これ、に、似合いますか?」
「あ、う、うん。か、可愛いと思うよ! すごく!」
「ほ、本当ですか? えへへ……それならよかったです……。でも、こんなに高いもの、受け取れません。わたし、もう十分メイちゃんによくしてもらってますし、こんなにもらっても、装備しきれないですから」
「ええ~……そ、そっかぁ……わかったよ……」
照れ笑いして《ウサギのヘッドドレス》を外し、メイさんに返却するひかり。メイさんはしょんぼりとそれをインベントリにしまった。返品はしないのか!
「それに……わたしはやっぱりこの狐耳が好きなんです。今はもう、着けてないと落ち着かない感じになっちゃいましたし」
「ひ、ひかり……メイさんを励まそうと……? うう、優しい子だねぇ! よし、それじゃあいつかひかりやナナミやユウキくんが着けてくれる日のために大切に取っておこうっと!」
それを見てナナミさんが深いため息をついて目を細め、チラリと僕を見て言う。
「わかったろ。こうやってひかりは可愛いレア装備まみれの初心者になったんだよ……。他にも山ほど持ってるぜ、メイのやつ。ファンシーショップ開けるレベルだよ」
「な、なるほど……。よし、僕がなんとか普通の装備も見繕います……!」
とまぁ、MMORPGにおいて最も大事な装備だけど、メイさんのように性能はあまり重要視せず、見た目重視のいわゆる趣味装備に大金を叩く人もネトゲにはたくさんいる。そういう十人十色なところこそ現実の縮図とも言えるかもしれないな、なんてことを僕は思った。
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