2nd link~ギルド結成編~

第25話 ウサ耳を愛する少女

「ユウキくん、こっちですよ!」

「あ、うん」


 ひかりに手を引かれながら街を歩く。

 平日でもかなりの生徒たちでごった返す王都の中央通りは、今や多くのマーチャントたちで溢れ、LRO内でも商業経済がずいぶんと発展していた。

 大体の装備、アイテムにも相場というもの定められ、その中でさらに安くして目立とうとする者、はたまた強気に高値で売り続ける者、何の役にも立たないであろうゴミアイテムを並べ続ける変わり者など――《マーチャント》たちのやり方は十人十色だ。

 中には早くも《エンチャンター》に二次転職した者が『修理屋』なんて商売を始めていたりもする。NPCに修理してもらうより安値で成功確率が高いのだとか。パーティにいたら便利な人なんだよな。


 そんなメインの通りを抜けて、街の南東……緑地と呼ばれる、多くの木々や草花などが溢れた自然公園に連れていかれた僕。

 どうもこの辺りがひかりの目的地――これから作るギルドのたまり場になるらしい。


「あのさ、ひかり」

「はい? なんですか?」

「うーんと……いまさらなんだけどさ、僕も行ってもいいのかな……?」


 人見知りを発揮した僕の言葉に、ひかりは目をパチクリさせてから答えた。


「もちろん良いに決まってますよ~。メイちゃん……あ、ギルドのマスターさんになる人なんですけど、ひかりに良い人が見つかったら連れておいでって言ってくれてました!」

「い、良い人……」


 どういう意味の良い人なのかちょっと気になる。


「それに……せっかくですから、わたしはやっぱりユウキくん相方さんと一緒がいいですっ」

「ひかり……うん、わかったよ」


 そんなことを笑顔で言われたら、行かないわけにはいかないじゃないか。


 そうして僕はずっとひかりに手を引かれたままで、ようやくその目的地に到着した。


「ひかり。ここ?」

「はい! あ、あの人がそうですよ」


 そこは、一面に芝生が広がる穏やかな公園。周囲では思い思いに寝っ転がったり、友人と談笑したりしているのんびりタイムな生徒の姿が見受けられる。花壇や噴水なんかもあって、憩いの場所って感じだ。

 その広場の端にある大樹の下では、一人の女性が座って静かに本を読んでいた。ひかりが示してくれたのはあの人だ。


「――おや?」


 近づいた僕たちに気づいたようで、その女性は本から僕たちに視線を移して微笑む。


 僕の視界に表示されたその人の名前は――《メイビィ・フィーリス》。頭部に装備された《ウサ耳のヘアバンド》が目立つ人だった。


 僕の口から「あ」という声が漏れる。

 その人には見覚えがあった。

 というか、確か同じ教室で勉強を受けているクラスメイトだ。

 ほとんどのクラスメイトとはまだ話もしたことがないけど、でも、初日の自己紹介ですごく綺麗な女の子がいたということは覚えていた。それがこの人だ。確か、自分のことは「メイさん」と気軽に呼んでほしいと言っていたけど……。

 その人はそっと立ち上がって言った。


「おかえり、ひかり。クエストはどうだったかな?」

「ただいまです。はいっ! ちゃんとクリア出来ましたよ~! しかも一番です!」

「おお、それはすごいね~。じゃあその法衣も少しは役に立ったのかな?」

「はいっ! 貸してくれてありがとうございましたっ。でも、法衣が壊れかけちゃって……」


 自分の服を見下ろしておろおろするひかり。

 その法衣は、あのダンジョンでダメージを受けすぎたために耐久値が限界近くまで下がっており、そこまでになってしまった装備は見た目がボロボロになる。ちなみに耐久値がゼロになると“装備破壊”となってしまい、服が脱げた状態になってしまう。

 なのでみんな、武器や頭装備の部位ならともかく、服の耐久値だけはものすごく気を遣うんだよね。


「あはは、気にしないでいいんだよそんなこと。壊れたら直せばいいんだから。それに、その法衣だってひかりに似合うかなと思ってプレゼントしたつもりだよ?」

「え? で、でも……メイちゃんにはこの狐耳も、リボンだって貰ってしまって……」

「いいのいいの。メイさんにはこのウサ耳があるからね♪ 他の可愛い装備はみーんなひかりにつけてほしくて、メイさんが好きで買っているんだよ。というか、可愛い装備は自分で着けてもあんまり面白くないんだよ……。可愛い装備を着ける可愛い子を愛でて萌えるのが楽しいの!」

「よ、よくわからないけど……そうなんですか?」

「そうなの! だから、良かったらこれからもその装備を使ってくれるとメイさん嬉しいな♥」

「メイちゃん……は、はい、わかりました。ありがとうございます! でもでもっ、その代わりにメイちゃんのギルドの役に立てるように、これからもっとがんばりますねっ!」

「うん、こちらこそありがとうひかり。本当に可愛いなぁ~もうっ♥」

「わぁっ、メ、メイちゃん?」


 メイビィさんに抱きしめられて笑うひかり。メイビィさんも楽しそうにはしゃいでいて、その二人の姿はまるで仲の良い姉妹みたいだった。ていうかひかりの豪華な装備ってメイビィさんのものだったのか。ああ、なんだか納得した。

 それからメイビィさんは僕の方を見てひかりと離れると、優しく微笑んで話す。


「なるほどね。クエストは彼のおかげ、ということみたいだね? というか……あれ? もしかしてユウキくんという名前は、前にひかりが話してくれた人なんじゃない?」

「はいっ、偶然ダンジョンで再会出来たんです! そのおかげでクリア出来ましたっ」

「へぇ~、なんとも運命的だね。メイさんそういうロマンチックなの好きだよ。ふふ、それじゃあ彼も一緒にメイさんのギルドに入れたいということでいいのかな?」

「はいっ、メイちゃんさえよければ!」

「わかったよ。でもその前に……ユウキくん」


 メイビィさんが僕の方を見る。

 なんだかとても楽しそうなメイビィさんは、すごく優しい顔をした人だと思った。


「初めまして、ではないよね? ふふ」

「あ、は、はい。クラスメイト、ですよね?」

「うん、覚えていてもらえて嬉しいよ。ちゃんと話してみたいなって思ってたんだ。それじゃあ、クラスでも自己紹介はしたけど改めて」


 メイビィさんはウサ耳のついた頭を軽く下げ、胸元に手を当てながら話す。


「メイさんの名前は《メイビィ・フィーリス》。もちろんキャピキャピの花も恥じらう女子高生だよ♥ 見ての通り、ウサ耳を愛する《メイジ》をしてまーす。メイビィとメイジ、どっちもメイがつくってことで、『メイさん』と気軽に呼んでくれたら嬉しいな♥」


 首を傾け、開いた胸元に手を添えながら微笑むメイビィさん――いやメイさん。


「は、はい……よろしくお願いします……メイさん」

「うん、よろしくね♪」


 やっぱり、何度見てもすごく美人だ。近くで見るとそれがよくわかる。

 身長はひかりよりちょっと高くて僕と同じくらい。長い銀髪は首の後ろ辺りで一本に結ばれていて、それは腰の辺りまで綺麗に伸びている。また、もみあげもすごく長くて、お淑やかな女性っぽい髪型だった。それが《メイジ》用の衣装とよく似合っていて、モデルさんみたいにスラッとした格好良い人だった。整った顔立ちは、それこそ大人気女優と言われても信じるほどだ。

 で、でも、《メイジ》用の服はやっぱり目のやり場に困るものが多いっ!

 ふかふかのマントなんてすごく優雅な感じでカッコイイんだけど、胸元は大胆に開いてるし、スカートは超ミニでふとももから下が丸出しだし、どこを見ていいのかわからない! でも、そんなセクシーな衣装が可愛らしく、同時に格好良くも似合ってるのがすごいなと思った。たぶん、スタイルが良いから何を着ても似合うタイプの人なんだろうって思う。

 そして最も印象的なのが、その頭につけられているもふもふなウサ耳である。真っ白でふかふかしていそうなそれは、メイさんの頭上で楽しそうに揺れる。

 ウサ耳も狐耳も、他にもネコ耳とかイヌ耳とかいろいろとあるいわゆる『ケモ耳装備』というのは、その可愛らしさから主に女子に人気があったけど、入手難度は高く、どれもこれも露店では相当なお値段になっている。

 だから、今それを持っている人というのはよほどの趣味装備好きな人が多いけど、メイさんもそうなんだろうか?

 なんて思いながらメイさんのウサ耳を見つめていると、メイさんがその目を細めて微笑んだ。


「やだ、そんなにメイさんを熱い視線で見て……もう、そんなにメイさんの格好が気になる? ウサ耳以外は全部INT増強装備なんだけどね、少し露出が多いから無理もないのかな? 学校ではもう少し露出の少ない装備に着替えてるんだけどね」

「えっ? あ、ご、ごごごごめんなさい!」

「ふふ、いいのいいの。男の子はそれくらいエッチなのが健全だよ♥」

「えっ、ユ、ユウキくんはえっちなんですか?」

「そうだよ~ひかり。ユウキくんだって元気な男の子だからね。だからひかりも装備の耐久値には気をつけて? その大きなふわふわおっぱいは、男の子にとってすっごい凶器でもあるからね?」

「そ、そうなんですか……?」

「ちょ! や、やめてくださいっ! ひかりも真に受けないでよ! ていうかっ! そんな話じゃなくて!」


 ひかりが胸元を隠しながら僕を見てきたので、慌てて話を中断させて強引に自己紹介へ戻る僕。メイさんはくすくす笑っていた。


「ぼ、僕はユウキ十五歳です! 双刀ソードマンやってます! よろしくお願いします!」

「ふふ、ユウキくんも可愛いね。しかし双刀かぁ。《ソードマン》にしてはなかなか珍しい武器を使うんだね。攻撃力より身動きを重視したタイプなのかな」

「ユウキくんすごいんですよ! とっても強くってかっこいいんです!」

「え、ちょ、ひかり」

「えへへ、自慢の相方さんなんですよ~!」


 僕の代わりにそう答えたひかりに、メイさんは目を点にしてからくすくす笑った。僕はなんだか恥ずかしくなってきてしまった。


「そっかそっか。うん、メイさんも彼は気に入っちゃった。これから作るギルドにも是非入ってほしいところかな」

「本当ですかっ? よかったですね、ユウキくん!」

「あ、う、うん……でも、僕も入っちゃって本当に大丈夫なんですか……?」

「もちろんだよ♪ むしろ男の子がいなくて困っていたから、こちらからお願いしたいくらいさ。それじゃあユウキくん、これからすえながーくよろしくね♥」

「あ、は、はいっ」


 メイさんの差し出した手に応え、握手。

 まさかひかりがギルドに誘われていた人というのがメイさんだとは思わなかったけど、でも、メイさんが良い人そうで安心した僕だった。

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