無慈悲かつ残忍な暴虐
曰く、アマネの実家の設置した盗聴器から女性の悲鳴が聞こえたという。
すぐさま男性が何者かと争っているかのような音が聞こえてきた。異変を察知した鳳仙は、幽奈を連れてアマネの実家に急行した。
アマネの実家は友人町にあった。
町には『
そして山頂よりも手前。標高二百メートル辺りにアマネの実家はあった。
鳳仙の探偵事務所から、車で飛ばして十五分ほどの距離であることが幸いした。二人が両開きの門扉前に車を滑り込ませると、誰かと誰かが取っ組み合っているような姿が窓越しから小さく見えた。
アマネの実家は豪邸だった。人の頭を裕に飛び越える高さの門扉を押し開け、鳳仙と幽奈の二人は、二十メートルはあろうかという広大なアプローチを疾走した。玄関扉に近づくにつれて、言い争う声が大きくなった。走ることに夢中で、なにを言っているかまでは聞き取る余裕がなかった。
鳳仙はこれまた両開きの玄関扉を勢いよく引き開けた。
玄関口から先は大広間になっていた。
二人の目の前には、使用人らしき服装の男性と女性の死体がごろごろと転がっていた。
その大半は四肢がひしゃげ、首がネジのような螺旋を描くまで、何度も捻られている姿だった。そのままねじり切られて、首と胴体が離れている死体もある。
おびただしい量の血液が大広間から溢れ出て、玄関に立つ二人の靴にまで達した。
むせかえるほどの臭気が二人を襲う。血、尿、内蔵などから放たれる臭いが混ざりあった空気を、鳳仙は味わったことが無かった。彼は、くの字に身体を曲げて嘔吐した。
例えるならば、くさや、チーズ、牛乳を生ゴミにかき混ぜて腐らせたようなものだ。人の死に関わることの少ない鳳仙が耐えられないのは当然のことであった。
幽奈は鳳仙に目もくれず、靴が血に侵食されていくことも厭わず、広場の中心をキッと見据えていた。
そこには、血の滴る臓物を顔の横まで持ち上げて、それをピチャピチャと舐めている人型のナニカがそこにいた。
タコのように膨れ、禿げ上がった頭、剥き出しになった丸い眼球、紫色の皮膚は明らかに人のソレではない。眼球は黒目部分が大半を占めており、遠くにいるにも関わらず、こちらをじぃっと見つめていることがよく分かった。
顔を四十五度傾けて、ぴちゃぴちゃと一定のリズムで音を奏でながら、こちらを見やる姿は、まるで鳳仙と幽奈を品定めしているかのようだ。
しかしその部分を除けば、人の姿となんら変わりは無かった。全裸であるために、性別が男だということも分かった。薬物実験に失敗した被検体という印象である。
そのアンバランスさが、むしろ不気味さを助長していた。
鳳仙が口をシャツで拭いながら身体を起こした。視線は幽奈と同じくバケモノに向いている。
「幽奈、頼めますか」
「あたしの専売特許よ。任せなさい」
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