第10話 迫りくるマグマ

暗い地下世界を、とつぜん下から突き上げるような衝撃が襲った。

自分はいつもの地下洞窟を、冷たい地下水の流れる陰気な暗い世界を、いつも通り惨めな気持ちで歩いていた。

この洞窟の最深部には例のアイツがいる。アイツを倒せば、この惨めな旅は終わる。

アイツを倒せば、オレは自由になれる。そうすればオレは、あのみすぼらしいあの先行者、彼女の亡霊の息の根を止められると信じていた。

だが現実はなんだ?

この大きな地響き。足元をぐらつかせる大きな揺れ。

胸の内から、いや、腹の底から熱い情熱が汗とともに噴き出してくる。


とつぜんだ。とつぜんなんの前触れもなくアイツがやってきた。

大地を震わせる黒いオオムカデ。地下に棲み、人の自尊心や怠惰な心を貪り食って高笑いしありもしない知恵を吹き込んでくる、腐れ木腐肉の王、オオムカデ。その頭に、あの彼女がいた。


彼女は生前の姿そのものだ。ゾンビじゃない。本物の、10年前に撃ち殺されて死んだ当時の彼女その人だ。

彼女は大剣を振るい、オレに食ってかかろうとしてくる。オレは逃げられなかった。

足が地面に食い込んでいるようで、一歩も動けない。けど彼女の一撃で、片足が僅かに動けるようになった気がした。


大ムカデの知恵は偉大だ。昔から、オレの精気を代償にあらゆる知恵をつけてきた。

闇の世界の歩き方。

月の呼び方、呼び出し方、雲に乗る方法。亡霊を自在に操る方法。言霊の封じ方。それらを、地底の洞窟深くからオレに授けては、代償として血と情熱を要求した。

彼女は大ムカデに取り込まれて帰らぬ人となった、オレの大切な人。あのとき止めていればと今でも悔やむ。

彼女はオレが殺した。彼女を大ムカデの住処へ誘ったのは、彼女を止めず、彼女とともに大ムカデの声を聞いていたオレ自身だ。

大ムカデがオレに問う。おまえに彼女が殺せるか。過去に固執し、今から目を背け続けるおまえごときに、彼女の魂が救えるというのか。


彼女の大太刀は本気の一振りだ。だが打撃を与えれば与えるほど、その脆さが表に出てきてその肢体にヒビを入れる。

強烈な一撃は、足の動かないオレを地面ごとぐらつかせた。


この一撃がおまえを殺す。そう信じての、この一撃。

怒りと恨み、絶望と、僅かな期待。

光り輝く偽物の剣がなんだ。嘘っぱちの、諦めがなんだ。

その胸の内側には衝動があるんだろう。火山のように激しく、熱い情熱があるんだろう。

忘れたとは言わせないぞ。

この大ムカデも、私も、山も、マグマも、森や小川も冷たく凍てつくようなこの腐れ沼も、そしておまえも、みんなおまえ自身だ!

書けないだと? もう自分にはムリだと!?

殺してやる、この大嘘つきめ!!

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