第8話 ゾンビ
木造りの地下回廊に迷い込んだ。
多くの人々が行き交い活気はあるように見えるが、人々の姿はどう見ても不自然で、丸みはなく、肩も指先もどう見てもただの四角い箱を組み合わせただけの物の集合体のように見えた。
それらがせわしなく前後左右に動き回って、規則正しく、あるいはなにかの法則性に従って大量に動いているのだから遠目に見たら騒然とした雑踏や人ごみのように見えただろう。口も無い目もないただ顔のような突起物と黒髪のような色のついたブロックは乗っているのでなんとなく人のようにも見えるが、それがなぜか本当に人混みの雑踏の音を再現しているのだからとても気持ちが悪い。
身長はたぶん数センチ。近づくことができないので目測。それら群衆の群れを見ているうちに、気がついたら私は夜の世界にいた。
夜の世界は静かだった。
木の上から木の実や枯葉が落ちてくるカサカサとした音、遠くから先ほどの雑踏によく似た音が聞こえる。
暗い室内。そう、ここは室内だ。高い天井には靄が浮かび、足元にも目の前もうっすらと靄が広がっている。
羽虫がそこかしこを飛び、ハーレムのつもりなのかただの蚊柱なのか、小さな群れを作ってそこら辺の空間にたむろしている。
ぼうっとした白い光の下には不機嫌そうなネコがいて、こちらを見るでもなく、横を向いてじっとしていた。
出店風の屋台にインド人がいて、カレーとナンを売っていた。
ひさしぶりだねとインド人がカタコトで話しかけてきたのだが、私は何も答えられずただで店の前に突っ立っただけだった。
なにたべるのとカタコトで聞かれたが、訳がわからないので何も答えられなかった。
ただ、何か聞きたいことがあるような気がしたので、話しかけようとした。でも声が出なかった。
インド人は好き勝手にペラペラと話しかけてくれたが、その言っていることはよくわからなかった。
メニュー表を見ると、どこかで読んだことのあるような文字がずらりと書いてある。
インド人は構わず陽気に話し続けたが、私はそのメニュー表を読み入ってしまった。
隣の席に誰かが座ったような気がした。ずしりと重い物が隣に来た気がする。
インド人はもういなかった。
店もない。明かりもない。
薄暗い石回廊の中で一人きり、石の腰掛けに座っている。
隣には誰かいる。
私はそれを振り返るのが、怖いと思った。
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