第17話

 「日比谷! お前.........くそっ!」

 今は、日比谷に構ってる場合じゃない。


 僕は、父の方に駆け寄り、腹部から出る赤い血を止めようと、ハンカチで患部を抑える。幸い、刺さりは甘く、致死量にあたる血は出てなかった。


 「おっさん、じゃあね。この死体はボクが処理しとくから、お父さんを死なせないように頑張って。じゃあ......」


 暗闇の中、日比谷は足を進め、闇に溶けていく。

 「日比谷! 待て、お前!」

 声を張り上げ、日比谷を止める。

 だが、虚しくも日比谷が止まることはなく、ただ声だけが森閑とした住宅街に響いただけだった。


 「父さんごめん。巻き込んで......」

 スマホを出して、救急車を呼ぶ。

 父は大丈夫、と口を動かしただけで、声が響くことはなかった。


 数分後、救急車が来た。


 僕は父さんと救急車に乗り、命の別状がないと分かった頃に、僕は家に帰った。

 

       * * *

 

 「母さんごめん、父さんが......」

 僕が家に帰り、母さんに謝った。

 しかし、母は何も言わず、僕を慰めるように肩を叩いただけで、いつも通りの家事に戻っていた。

 

 僕はテレビをつけて、好きなお笑いの番組を見ることにした。

 この重い気持ちを、軽くしたかった。


 『押すなよ.........絶対に、押すなよ............本当に押すなよ.........絶対だぞ! やめろよ............押すなよ.........絶対に押すなよ.....熱いからな火傷するからな、絶対に押すなよ』

 

 そうやって押し問答をしている芸人ですら、手が緑に光っている。

 いつか、殺すんだろうか。

 僕はその芸人が、いつか紫になったとき、今と同じように笑えるか、心配で仕方なかった。


 だから僕はチャンネルを変えた。


 次に映ったのは、ペンギンのドキュメンタリー番組だった。

 よちよち歩くペンギンを、なぜか可愛いと思ってしまう。

 

 飛べないのに、愛される鳥。

 他の鳥たちはどう思っているだろう。

 同じ種族にもかかわらず、一方は愛され、もう一方は食われる。

 それを鳥は、僕はどう思ってるのだろう?

 

 僕は考えた。

 でも、答えは出てこなかった。

 考え疲れたのか、いつの間にか出てきた睡魔に僕は、静かに身を任せて、眠った。

    

 その日、僕はペンギンたちの夢を見た。


 僕は、上空からペンギンを眺めている。

 飼育員から餌を与えられ、群がるペンギンがよちよちと餌に向かう。

 しかし餌は一カ所にしか置かれてない。


 群がって、他のペンギンを押しのけて、ただ欲望のままにペンギンは動いた。

 それは滑稽にもみえたし、僕には羨ましいとも思える。

 分け与えるという概念がないペンギンを、僕は軽蔑と羨望の眼差しで見ていた。


 なのに、ただ眺めていただけなのに。

 

 ペンギンの飼育員らしき人が、猟銃を僕に向けてきた。

 僕は飛んでいる。ペンギンと違って空を飛べる。なのになぜ、僕に銃を向ける?


 僕は必死に羽ばたき、射程圏から逃れようとするが、飼育員は容赦なく引き金を引き、僕を撃ち落とした。

 

 撃ち落とされた僕に、ペンギンはあざ笑うかのように飛べない翼をバタバタとさせた。

 

 この世界はおかしいと僕は思う。

 そして、僕は死んだ。


 ───

 ───────

 ──────────

 そこで、目が覚めた。

 クソみたいな朝だな、と僕は思った。



ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー

説明書 No.17


その他の法律はいままで通りである。

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