大器の右腕

 

 リカルドタカハシ。


 195センチ、100キロ。


 MAX158キロのストレート、150キロ近いムービングファーストボール、カミソリと称される140キロ台半ばの高速スライダー。

 春の仙台リーグではノーヒットノーランを二度もやらかしていた。


 2年にしてすでに仙台ゴールデンイーグルスが、二年後のドラフト一位指名を公言している大器の右腕。

 

 が、投球練習を始めた。


 やや立ち投げ気味だが、なかなかダイナミックなフォーム。

 大物感をプンプン漂わせている。


「コータは甲子園で対戦してたよな」


 西崎がヘルメットを斜めに被った弟分に訊いていた。


「初戦で当ったスけど、大したピッチャーじゃないッス」


 コータはバットを肩に担いで、ニヒッと白い歯を見せた。


「ボコったんか ?」


「5の2、2三振でした」


「うーん微妙、半分はお前がボコされてんじゃん」


「大丈夫ッス。トーヤさんなら掠っただけでスタンドインですから」


「テキトーか」


「ホントッス」



『1番、セカンド辻合』


 神宮にアナウンスが響き渡った。



「んじゃ、行って来やス」


 ・・・余裕じゃん



 コータが右打席に入って、アンパイアに軽く頭を下げてから構えた。


 リラックスした自然な構え。

 攻・走・守、どんな場面でも自然体。

 決してリキまない。

 それが辻合航汰だ。


 



 初球から狙った。


 いきなり158キロのストレート。


 コータがそれをきれいにピッチャー返し。


 打球が一直線に二塁ベースの真上を通過した。


「おぉぉ抜けたぁ !」


 ヒロがガッツポーズを振り上げて叫んだ。


 ・・・さすが


 一塁ベースに立ったコータが、応援席に向けてボディービルダーの決めポーズをしている。


 ダグアウトの気勢が一気に上がる。


 ・・・立ち上がりに、こんなんされたらピッチャー堪らんな



 2番、力丸。


 156キロのストレート・・・ボール。


 147キロのカッター・・・ボール。


 157キロのストレート・・・ボール。


 143キロのスライダー。


「ストライク !」


 ・・・やっと入った


 

 力丸はバントの構えから、4球連続の見送り。


 3 ー 1スリーワン


 リカルドの立ち上がり、球は速いがコントロールが安定しないか。



 5球目。


 コータがスタートを切った。


 155キロの外角高め。


「ストライク !」


 キャッチャーの動きも速かった。


 際どいタイミング。


 しかし送球が高い。


「セーフ !」


 ウォォォーッ !


 一塁側は、すでにお祭り騒ぎだ。


 90度に曲げた右腕を、コマ送りのように刻みながら、体を一周させたガッツポーズ。


 ・・・アホ


 応援席は大喜びだ。


 しかし、塁審に注意されて急に紳士的な態度に変わった。


「態度悪りーぞ。コータ ! 」 


 空かさず島が大声で突っ込みを入れた。


 ダグアウトは爆笑だ。


 ・・・いいムード


 ピッチャーを挑発しているつもりはないだろうが、こんなん誰だってムカつく。



 フルカウントからの6球目。


 159キロのストレート。


 ・・・怒りのMAX更新じゃん


 しかし、ど真ん中。


 力丸がコンパクトに振り抜いた。


 ・・・完璧 !


 リカルドがグラブを差し出すが、全然間にあわない。

 強烈な打球があっという間にセンターに抜けた。


 ・・・えっ !


 その打球がセンターまで届いた。


 センターの動きも速かった。


 コータはもう戻れない。


 すぐにボールがセカンドに戻って来た。


「アウトォー !」


 いきなりのゲッツー。


 応援席から苦笑い交じりのため息。


 気勢を削がれたダグアウト。


 ツーアウト。


 ・・・あちゃ~


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