進路
人生には “ 必要な負け ” というものがある。
もし中京大戦に勝利していたら
もし和倉を打ち崩していたら
この後の南洋大の躍進はなかったかも知れないし、水野、大沢、西崎もあれほどの選手には成れなかったのではないだろうか。
特に天才西崎には “ 僥倖のような屈辱 ”だったはずだ。
164キロのストレートと155キロのスプリットで世界の頂点に立った男の原点は、間違いなくこの試合にある。
このあと西崎は明らかに変わる。
あくまでも “ 今思えば ” の話である。
この時は当然、
試合に負けた事以上に、和倉の気迫に屈した事が悔しかった。
和倉は投手陣に強烈なインパクトを与えたようだ。
ヒロも三枝も、ブルペンで見ていた大石も、元々ストイックな男たちが、このあと更に目の色を変えて、自分を追い込んで行く。
半年ののち、全国に名を轟かす南洋の4本柱を生み出したのは、あの和倉のピッチングなのだ。
南洋大野球部はそれぞれが “ それぞれの負け ” と向き合い、それをステップアップの糧としたからこそ、春までの半年間でひと回りもふたまわりも成長していったのだ。
秋の大会が終わり、俺は進路を考えるようになった。
これも、和倉や南洋の仲間たちの影響だ。
おそらくプロに進むであろう天才たちを毎日のように見て、自分も彼らに対して胸を張れる男であり続けたいと本気で思う様になった。
単細胞な俺は、大学への出席率が急上昇した・・・ここにへんな下心はない。
と思う。
物心がついた時から、野球漬け。
急に将来を考え始めた俺の頭は、圧倒的に柔軟性が欠けていた。
ジョーが検察官を目指していると言う。
凄い、と思った。
ジョーに相応しいとも思った。
島が科捜研を目指していると言う。
いつの間に、と思った。
島らしいと思った。
俺はそんな二人の影響をモロに受けた。
元々授業はほとんど法律関係。
そして来橋ゼミでは、ありとあらゆる刑事事件の考察をしていた。
選択肢の乏しい俺の目は、自ずと警察関係に向いていかざるを得なかった。
この時期、俺の薄っぺらな正義感は妙に刺激を受け続けた。
・・・まあ、こういうのを運命って言うのかも知れないが
女子中学生の自殺 ?
「自宅マンションから飛び降り 」
祥華は相変わらずの
しかしもう臆する事はなかった。
「原因が思い当たらない ?」
「バスケ部で一番の親友だった
「自殺するような娘じゃないって事 ?」
「自殺するような娘じゃないってのは、私も
そう思うの。不自然って言うのは大事な大会を控えていたのに、タイミングがおかしいって」
「バスケの ?」
「そう、その大会の為に物凄い練習をして来て、さあ頑張ろうねって時に行方不明」
「気力が充実していた」
「もう何がなんだか」
かわいい教え子の突然の死。
話している内に、祥華の目力は弱々しく変化していった。
・・・ほっとけねー
そんな内面の脆さみたいなものを垣間見ると、俺はすぐにやられる。
・・・14歳か
突然の閃光。
フラッシュバック。
肉塊にめり込む靴先の感触。
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