いいよね、キャプテン

 

 八回裏。


 ジョーが打ち上げた打球が三塁側のスタンドに飛び込んだ。


 154キロ。


 ジョーに対する初球。

 和倉のストレートに驚くほどのノビを感じられなくなったか。

 初めてストレートを打ちに行って、タイミングも合っていた。



 2球目。


 アウトローのスプリット。


「ストライク !」


 コースギリギリいっぱい。


 しかしこれも驚くほどのキレは感じられなかった。


 やはり握力が落ち始めたか ?



「トーヤ、肩慣らし付き合ってよ」


 ダグアウトの外からヒロが西崎に声をかけた。


「おう」


 西崎が気軽に腰を上げた。


 九回に備え、ヒロが西崎相手にキャッチボールを始めた。



 ジョーは2ー2ツーエンドツーまで粘ったが、最後はまたアウトローのスプリットを見逃して三振に終わった。


 今日、ずっと低めに外していたスプリットでストライクを取りに来ている。


 142キロ。


 90パーのスプリットか ?

 抜群のコントロールだ。


 握力が落ちたなりの投球術ってわけだ。


 ・・・ヒロの影響力・・・これは大沢の影響力か



 ・・・ん ?  あいつら何やってんだ


 ヒロと西崎のキャッチボール。


 ・・・ヒロの方が受けてねーか ?


 ・・・西崎の方が真剣じゃん


 ・・・


 ・・・なるほどね




 鷹岡に対しては、徹底した高速スライダー攻めだった。

 そして最後はチェンジアップ。

 やはり抜群のコントロールだ。


 連続三振。

 これでツーアウト。



 西崎のボールに力が入りだした。


 表情は恐ろしく真剣だ。


 中腰になったヒロが、両手でしっかりと捕球している。



 ・・・そうだよな


 ・・・和倉にあんな投球を見せられたら


 ・・・俺だって


 あいつと投げ合いたかった。



 投げたい気持ちをじっと我慢して、慣れないファーストでみんなを助けて来たんだ。

 西崎がいなければ、おそらく大沢の一発もなかった。

 相手の打線を0点に抑え込めたのも、和倉を混乱させたのも全部、この天才のおかげなんだ。


 本当は投げたくてウズウズしている。

 こんな時、あいつは意外と何も言わない。


 そして、そんな状況をヒロが放置するわけない。

 もしかすると、ヒロも大沢も・・・監督も最初からそのつもりだったか ?


 

 島に対しては内角攻め。


 ・・・よく分かっているな


 島のウィークポイント。

 


 153キロのストレート。


 145キロのスライダー。


 140キロのスプリット。


 際どいコースばかり。



 1ー2ワンツーからの4球目。

 フロントドアのツーシーム。


 ・・・ここで初めてツーシーム


 これもコースギリギリ。


「ストラックアウト !」


 三者三振。

 これで15個目。


 ・・・投球術、制球力、精神力


 ヒロからの恩恵はフォーシームだけじゃなかったわけだ。



 チェンジ。



 ヒロが深町監督と話していた。


「いいよね、キャプテン ?」


 ヒロは水野にも声をかけた。

 水野は苦笑いを浮かべて頷いた。


 ダグアウトを出た監督が、主審の方に歩いて行った。


 

『九回の表、南洋大学の選手の交代、及び守備の変更をお知らせします。ファースト、西崎に変わりまして東山』



『ピッチャー、杉村に変わりまして西崎』

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