ヒロの影響力
ヒロが投球練習を始めた。
「スギムラァー !」
「ヒロォォォォ !」
「ヒロさあーん !」
「ナックル王子 !」
三塁側の声援が一段と高まった。
ヒロはいつも通り淡々と、飄々と投げていた。
1点をリードした八回。
相手は追い詰められた王者。
ここからのマウンド。
かかるプレッシャーは相当なものだろう。
しかし、それを感じさせないいつも通りのこの“ ほのぼの感 ”がずいぶんとチームを安心させる。
身長は中学生三年生の平均と同じくらい。
そこから繰り出される130キロのボールに初めてのバッターは必ず戸惑う。
そして恐ろしくスピンの効いたフォーシームに面を食らい、一級品の制球力と投球術に翻弄されるのだ。
一塁側のダグアウトでは、和倉が食い入るようにマウンドを見つめていた。
敵と言うより、いちファンのような感覚かも知れない。
あの愛工大名電戦のヒロ。
和倉も、延長十五回257球を楽しそうに投げ切ったヒロに魅了され南洋大にやって来たひとりだ。
“ ヒロの影響力 ”
それは同じユニフォームを着て、同じマウンドで切磋琢磨し合ったピッチャーにしかわからない感覚的なものだ。
西崎透也、三枝和彦、大石龍太郎、柿田智秋、和倉成亮。
のちに日本を代表する大投手となる、この5人も間違いなくヒロに魅了され、何らかのスキルを受け継いだはずだ。
八回表。
右にゆらゆら、左にゆらゆら、そしてヒラヒラ~ストン。
ヒロが投げた11球は全球、ナックルボールだった。
“ 軌道なくさまようボールが突然消える”
言葉にすればこんな感じか。
初めて見た時、俺は三半規管をやられた。
予測不能な動きに脳が揺さぶられる。
・・・大沢もこんな魔球、よく捕れるもんだ
1点ビハインドの八回に、いつでも打てそうなこんなスローボールを投げられたら、誰だって力むだろう。
ピッチャーゴロ。
キャッチャーゴロ。
三振。
ヒロはまったく危なげなく、3人を完璧に抑え込んだ。
勝利まで、秋の神宮まであとアウト3つ。
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