どっちだ
打球がグングン伸びている。
・・・左中間だ。長打になる。
・・・ ?
打球が !
・・・左回転のラインドライブ ?
レフトの正面 ?
慌てて両手でキャッチしたレフトが、後ろにぶっ飛んた。
・・・
尻もちを突きながら、高々とグラブを掲げ上げた。
「アウト !」
・・・マジか
場内が静まり返っている。
・・・なんちゅー打球
マウンドの和倉が固まっていた。
160キロのストレートをぶっ叩いた。
この試合、初めてストレートをカットじゃなく、フルスイングで完璧に捉えた。
しかも最速を・・・
「タイム !」
尾形が慌ててマウンドに駆け寄った。
スタンドが騒めいている。
二塁ベースに達していた西崎が、ベースを蹴っ飛ばした。
「君ぃ !」
早速、審判に注意されていた。
西崎は憮然としている。
・・・アホ
深町監督が主審に呼ばれた。
“ 厳重注意 ”と言う言葉が聞こえた。
監督も憮然としている。
“ そんな堅苦しい事 ”とか何とか、余計な事を言ってこじらせていた。
・・・落ち着け
ダグアウトに戻って来た監督が、西崎に「ナイスバッティング !」と大きな声をかけた。
・・・大人げねーおっさん
主審が顔色を変えた。
試合後にペナルティがあるかも知れない。
たぶん、監督も水野のアウト判定の時からストレスを抱えていたのだ。
しかし、こんな監督のガキっぽさが、逆にダグアウトの空気を落ち着かせるのかも知れない。
「監督、冷静にいきましょう」
一番冷静でなかったコータが、監督をなだめていた。
「お前が言うな !」
早速、島が突っ込んだ。
みんな笑顔だ。
西崎も、水野も・・・大沢も。
『5番、キャッチャー大沢』
ツーアウト。
・・・さあ、どーする ?
ウェイティングサークルにしゃがんで、和倉を見上げた。
動揺しているか ?
大沢は“ 歩かせ ”か ?
歩かせるようなら“ 俺が決める ”とは考えなかった。
自然体で臨む。
俺のあとにはジョーもいる。
初球。
・・・スプリットだ
アウトロー。
大沢はまったく動かない。
「ボール !」
尾形からの返球を受けた和倉が、一瞬僅かに首を傾げた、ように見えた。
・・・迷ってる
長打だけは避けたいの思いと、160キロをぶっ叩かれた残像が頭から離れないか。
・・・西崎の気まぐれが効果絶大だ
大沢の大きな構えが、和倉に覆い被っているように見えた。
和倉がサインを覗き込んだ。
・・・
一度クビを振って、すぐに頷いた。
・・・どっちだ
2球目。
・・・スプリット !
内角のやや真ん中。
ストライクを取りに来た !
・・・ぞっ
大沢の渾身のフルスイングが完璧に捉えた。
打球音がしなかった。
打球は滞空時間の長い、きれいな放物線を描いて、センターの巨大ビジョンを・・・
・・・越えた
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