ありゃ

 “ 所詮お遊び ”

 

 そう言えるのは、きっちり打ち取った時。

 打ち負かして初めて、こんなお遊びで勝ってもなんの自慢にもならん、と言える。


 これでは決してお遊びとは言えない。

 シャレにならない飛距離をかっ飛ばされている。

 しかも三本連続。

 もはや屈辱でしかない。


 正直、途方に暮れた。


 ・・・


 突然、ケージにもうひとりの大男が、もそもそと入って来た。

 キャッチャーをしている先輩に、何やら話している。

 先輩が笑いながら立ち上がった。

 キャッチャーが代わった。


 ・・・大沢

 

「ん? なんだ?」


 西崎も自分のような大男には不慣れなのだろう。

 戸惑っているようだった。


 大沢が座りながら、西崎に “ 通り過がりの新入生 ” とマジ顔で言っていた。


 西崎が首を傾げながら、バットを構え直した。


 大沢がミットを構えた。


 ・・・うん、これだ

 

 すうーっと平常心に戻った。


 

 ・・・なに ?


 大沢からサインが出ていた。

 力を抜いたストレート。

 

 大沢とはかなり複雑なサインが決められていた。

 このサインは130キロ程度のストレートを意味する。

 大沢は真ん中高めに構えている。


 俺は何も考えず、その通りに投げた。

 西崎は完璧なタイミングでボールを捉えた。

 まるでメジャー級のバットスイング、が空を切った。


「ありゃ」


 西崎が頭を捻っている。


 俺も“ ありゃ ”と思った。


「いい球過ぎて力んじまった」


 西崎が苦笑いしている。

 俺もそう思った。


 次も同じサイン。

 今度は外角高め。


 西崎の豪快なスイングがボールを掠めた。

 しかし前に飛ばなかった。

 

 西崎の表情が堅くなった。

 

 大沢がサインを出した。


 内角低めのスライダー。


 俺のウイニングショットに、西崎のタイミングはまったく合っていなかった。


 また、西崎の表情が変った。

 何だか嬉しそうに見えるのは、気のせいか?


 10球目。

 外角高めのストレート


 おそらく145キロほどの俺の全力投球に、西崎のバットが振り遅れ気味に空を切った。


 

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