読書始めました
その感触は一瞬だった。
あっと思った時には、消えていた。
遅れて甘い香りに包まれた。
ふと、心地よい薫風を感じた。
「神技だな」
「先々の先。剣の基本です」
照れ隠しか、らしくない気取った声だった。
「機先を制されたか」
「わたし、軽くて力も弱いので、機を逃したらダメなんです」
「立派なもんだ」
「失礼しました。・・・ホントは“わたしはずっと主任の味方ですからね”って言いに来ただけなんですけど・・・今のはオマケです」
「・・・そうか、豪華なおまけだった」
「レイモンド・チャンドラー」
「ん?」
「主任は誰よりも、強くて優しいと思います」
「・・・マーロウか。早業だな、もう読んだのか?」
「いえ、ウィキで調べただけです」
「・・・そうか」
・・・そうだよな
「読書始めました」
「えっ」
「友達に教えてもらって、いいサイトを見つけました」
「オンライン小説ってヤツか」
「はい、好きなジャンルがあるんです」
「剣豪ものだろ」
「ピンポン、すごいですね。大正解です」
「宮本武蔵か」
「ブッブー、わたし子供の頃、マンガで読んで坂本龍馬のファンなのです」
「坂本龍馬って、剣豪のイメージではないが・・・」
「固い事言わないで下さい。それより聞いてくださいよ。今読んでるの凄く面白いんです。現代の警察官が警察犬と一緒に幕末にタイムスリップするんですから」
「じゃあ、新撰組なんかも出てくるな」
「実は新撰組が舞台なんです。そこに剣豪とか、有名な人斬りが次々と現れるんです」
「それ聞いただけで読みたくなるな」
「ええ、きっとハマりますよ」
普段、めったに見せない弾けるような笑顔。
こんな暗いところで見るのは勿体無い。
「梨木」
「・・・はい。なんでしょう」
「ここに来てくれてサンキュな」
「そう言ってもらえて嬉しいです」
本当に嬉しそうな笑顔。
「つまらん事が全部ぶっ飛んで、ずいぶん気分が軽くなった気がする」
「よかったです。じゃ、これからご飯行きませんか?」
「ん?」
「オススメの中華のお店があります。ここからなら歩いて行けます」
「おっ、いいな。実はハラ減ってたんだ」
「行きましょう、行きましょう。そこのシューマイ最高ですよ。あと炒飯も」
・・・なんか最近食った組み合わせだな
「よく、最近の冷凍食品でシューマイとか餃子を、すごく美味しいって言う人いるじゃないですか? ホントそんなふざけた事は、ここのシューマイ食ってから言えって感じですよ」
「そっそうなのか・・・」
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