優しくなければ ……

『ホワイトベアーズ下村稔成、1軍登録抹消』

 この時、としは第七肋骨を骨折していた。

 全治一ヶ月。

 

 優深は暴力的な光景を目の当たりにすると、過剰に拒否反応を示す傾向があった。

 〜 軽度の強迫性障害 ~

 身が竦んで動けなくなってしまう。

 幼い頃からそうだった。

 隔世遺伝なのか、祥華の母親もそうだったらしい。

 

 その事を知っているとしは、デッドボールを受けて、すぐに優深の心配をした。

 そして、出来るだけ優深に心配させないような行動をとった。


 としはこのあと試合終了まで普通にプレーし、誰にも怪我を悟らせなかった。

 俺もとしの軽快な動きに騙された。


 しかし優深は逆に、としが自分の為に無理をしているのではないかと疑っていた。

 

 

 

 11年前〝 優深 〟の名に込めた親の思い。

 俺は今、その名をただの耳障りのいい〝 響き 〟としてしか捉えていなかった。


 としは自分に厳しく、弱い者に対しては随分と優しい、タフな大人に成長した。


 ・・・俺は?

 

 

〝 男はタフでなければ生きていけない 〟


〝 優しくなれなければ生きていく資格がない 〟


 俺が生まれた頃、こんなキャッチコピーの日本映画が流行ったらしい。

 十代の頃、そのセリフを知って、キザで透かしていて、いけ好かない言葉としか思わなかった。

(実際はフィリップ・マーロウのセリフのパクリで、それもどうやら日本人受けするアレンジがされていたようだが・・・)

 

 しかし今、この言葉は重い。

 

 そして俺にとっては辛辣過ぎる。

 

 ・・・俺はどこがどう変わったのだろうか?

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