ショータイム #1

 ゴウウゥゥゥゥンッ

 地響きが会場を襲った。何人かが転び、天井のシャンデリアが激しく揺れる。


 始まったか。


 揺れに足を取られまいと耐えながら、自分の目標を探す。


「爆弾だ! 下の階で爆発が起こった、エレベーターも階段も使えない!」


 入ってきた何人かが叫びながら、自分達の主人の手を引いて行く。


「社長、屋上にヘリポートがあります、ひとまず上へ」


 目標の一人が会場から出て行く。

 凉平が怪しまれないように追っていこうとして――


「!」


 跳躍する。0コンマ一秒前まで立っていた床に銃弾の雨が突き刺ささった。

 着地をして、銃弾の出所を向く。


「えー……どちらさまですか?」


 サブマシンガンの銃口を向けてくる大男に身構えた。


「久しぶりだな」


「アイサツ代わりに鉛弾をくれるダチなんかいないと思ってたんだけどな」


 狙った男は黒鬼晶だった。


 タキシードの中からデザートイーグルを取り出す。そしてこの状況を理解した周りの人だかりが二人の周囲を囲む。


 足元で火花が散った。周囲の人だかりから銃を構えた男達が現れる。

 やべえな…。

 と――


「手を出すなああああ!」


 黒鬼から怒声が放たれる。銃を抜き出した男達がたじろいだ。


「サシで勝負だ!」


 二人の邪魔は、黒鬼のプライドが許さないのだろう。

「……今のセリフ、後悔するなよ」


   ――――――――――


「始まったわね」

「ああ……」


 ビルの上三分の一のあたりのフロアから煙が上がっている。隣のビルの屋上で、ブレイクとダークサイズこと鈴音が待機していた。まもなくヘリポートに目標達が集まってくる。その時にブレイクの火炎龍と鈴音の風の能力で一蹴する。


「本当にこれでいいの?」

「ああ……上からの命令だ」

「闇の死神(ダークサイス)は、狂戦士(バーサーかー)ではないのよ」


 ふわり、と鈴音浮き上がる。大きく深呼吸して。


「血の臭いは、いつも私の胸を焼いていく……」

 遠い目をしてビルを眺め、

「私達がああなるのは、いつになるんだろうな」


 ブレイクが銜えていたタバコを摘んで、紫煙を吹いた。


「私は、やっぱりあの子を応援するわ……あんたは本当にこれでいいの? フレイム=A=ブレイク」


「決まっている、ソーサリーメテオの意のままに……だ」


 そのセリフを聞いて鈴音は呟いた。

「……そう」


   ――――――――――


「社長、こっちです」

 廊下の通路を、社長を中心に左右後ろに一人ずつ付いて進む。


「用意されていた部屋のいくつかで、招待客の死体が出たそうです。おそらく爆発騒ぎもそいつらの仕業でしょう……ヘリポートへ行きましょう。会社からヘリを呼びました」


 早足で廊下を歩いていると一人のボーイが立ち塞がった。こちらも立ち止まる。


「あんたも早く逃げろ。これをやった奴はテロに近い行為だ」


 ボーイが無言でベストのボタンを外し、肩に下げていた複雑出大きな金属の塊を、こちらに向けた。


 ガガンッ!

 間髪いれずに発砲してきた。

 社長に命中し、のけぞりながら社長が絶命する。


「この!てめえ!」


 三人が持っていた銃で、一斉にボーイを狙う。

 だがそれよりも速く、ボーイの方が大型銃器を発砲してきた。

 ガガガガガガガガガが

 突然の弾丸の雨に、三人ともなすすべもなく倒れる。


「さて」


 大型銃器を持ったボーイ……アックス1の誠一郎が、胸ポケットから仮面を取り出した。


 その仮面を自分の顔に取り付ける。


「虐殺の始まりだ」


 その声音は、少しだけ楽しげな声音だった。


   ――――――――――


「オラオラオラァ!」


 獣の如きその素早さで、一人、また一人と倒されていく。


「相手は一人だぞ! 何をやっている! 撃て! 仕留めろ!」


 黒いスーツの男達のリーダー格が大声を張り上げる。砂漠色のマントと覆面、唯一見えるのはボサボサの金髪と獣じみた眼光。特徴的なのはその人物の腕、肘まで覆う銀色の大きな鉄甲。右の拳には四本の鋭い爪が伸びている。


 ジャキンッ


 左の拳からも爪が出た。常人離れした俊敏な動きで、一人また一人と上下斜めから爪が切り裂く。

「集まれ!一気に仕留める」

 リーダーの周りに残った部下達が集まり。それぞれが銃を構える。


「めんどくせえなぁ……」


 シュウジが苛ついた声で呻いた。


 バチリッ


 爪から紫電が走った。加速的にその紫電の量が増えていく――

 鉄甲から発生した雷光が通路の照明の光より強く輝く。片手を振り上げて。


 バチリッバチリッバチバチバチバチバチ――


「ウラァ! 雷撃波(サンダーボルト)」 


 声と共に腕を振り下ろすと、雷鳴が轟き、雷の奔流が黒いスーツの男達めがけて放たれた。


 網膜を焼く光と巨大なエネルギーが押し迫る。


「な、何いっ! あっああああああああァア!」


 リーダー格の男の絶叫を、爆発の衝撃がその身ごとかき消した―― 


   ――――――――――


 麻人は遠くの騒ぎ声とせわしない足音を聞く。

 左右の通路に誰もいないのを確認して部屋の中へ素早く入ると、肩で荒い息をついてドアに寄りかかった。


 思ったよりも多いな……。


 爆発の合図で、俺と、凉平、誠一郎、シュウジがビル内で目標を狙いつつ暴れまわり、屋上へと残ったターゲットたちを集める。それが今の自分のやるべきこと――


   ――――――――――


「もしだ――」


 ミーティングが終わりかけて、凉平が呟くような声でブレイクに話しかけた。

「この作戦を実行して、その中に麻人の妹がいたらどうする」


 凉平の視線がブレイクを威嚇するように射抜く。


「桐生啓介の前回のパーティーには麻人の妹が居た、今回も来ていておかしくはない。」


「桐生の妹が麻人の妹だという証拠はない」


「それは……」


 凉平が口ごもって麻人を見やる。凉平と同じような眼つきでブレイクを見ていた。


「桐生の妹の正体など関係ない、パーティー会場のほぼ全員がターゲットなのだ。この命令は上からの指示。俺達はそれに従うのみ。従えなければ――」


   ――――――――――



 ソーサリーメテオの指示に従わないことは反逆の意。ソーサリーメテオを出ればただの殺人鬼。そしてソーサリーメテオの抹殺対象となる。


 ドアから離れて室内に入る。


 ――実咲、探し出してみせる。


 室内に違和感を覚えて立ち止まる。どの部屋にもあるはずの木製の脚の長い電気スタンドが無い…………背後に気配を感じて振り向いた。反射的にコートの袖から黒刀を抜く。


「ちいっ!」


 スタンドの足が麻人の眼前に襲い掛かってきた。黒刀の横刃で受け止め、後ろへ飛び退って黒刀を構える。見ればスーツを着た老人が電気スタンドを逆さに持って構えていた。


「お嬢様には指一本触れさせはせんぞ! 賊め!」

 老人が叫ぶ。その後ろには、顔は見えないが純白のドレスを着た女性がいた。

「香澄美様。ここは私めに任せて早くお逃げください」


 ――香澄美!


 香澄美と呼ばれた女性が、老人の横から顔を出した。


「でも水村さん」

「私に構わずにっ!」


 金の髪留めで髪をアップさせて、大人っぽい印象が見える。当たり前だ、あれから何年たったのだろう……どんなに着飾っていても、どんなに時が過ぎようとも、間違えたりなんかしない。


 そう、彼女は――

「実咲……」


 ポツリと呟くようなその声が、室内を静寂で満たした。


「え……」


 実咲と呼ばれた女性、香澄美が驚いた顔をして麻人の方を向く。二人が視線を交わした。


「…………麻人?」


 麻人が女性に名を呼ばれ、顔下半分を覆っていたマスクを取る。


「やっぱり……実咲なんだな」


 実咲が老人の前に出た。未だに信じられないといった表情をしている。


「麻人なの……生きてたの……」

 一歩、実咲が前出て、麻人も前に出る。

「実咲も……よく生きてて――」


 バンッ!


 弾けるようにドアが勢いよく開いた。

「いたぞ! こっちだ!」

 複数の大きな足音が近づいてくる。麻人が反射的にマスクをつけた。

 くそっ!ここでは実咲を巻き込んでしまう


 黒刀を足元の床に突き刺して切れ目を入れる。


「麻人!」

「必ず、必ずまた会いに行くから!」


 切れ目の中心にいた麻人が、破壊音を立てて床ごと下の階へと沈む、下の階の部屋に出ると、実咲の自分を呼ぶ叫び声をそのままに部屋を飛び出した。


   ――――――――――


「大丈夫か!」

 入ってきた男の一人が実咲に声をかける。


「ここは危険だ、屋上にヘリポートがある、そこへいこう。さあ」


 男が実咲の腕を掴んで引っ張る、実咲は麻人の開けた穴を見つつ素直に従った。


「アンタも来い」

 男が水村に声をかけた。

「いや……」


 水村が男の手に持っている拳銃を奪い取って。


「私も賊を仕留める、香澄美様、いいえ実咲は先に屋上へ」

「水村さん……」


 実咲の頭を、水村の皺だらけだがしっかりとした手で撫でた。

「……大丈夫です。先に行っていてくださいませ」

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