ミッション#5
準備
桐生啓介の主催する社交パーティーは、ただの社交場ではない。薬物、銃器火薬毒物類、曰くつきの金品宝石骨董品から人身に至るまで、それらの売買が会場の裏で行われていた。
「啓介君」
パーティーの主催者の啓介が、背後から声をかけられて振り向く。
「尾田原さん。お久しぶりです」
「しばらくぶりだね。この前のには出られなかったが、この日を楽しみにしていたよ」
尾田原が近くにいたボーイを呼び止め、空になったグラスと新しい飲物を取り替えた。銀縁のメガネに背が高めで無表情なボーイは会釈をして立ち去る。
「香澄美、尾田原さんが来てくれたよ」
少し離れた所で、同年代の女性達と話していた女性が振り向いてやってくる。
「尾田原さん。お久しぶりです」
スカートの裾を摘んで広げながらお辞儀をする。純白のドレスに真珠のイヤリング。プラチナカラーのネックレスに、長めの髪を金に輝く髪留めでアップにしている。
「しばらく見ないうちに可憐さが増したようだね」
「尾田原さんも、相変らずお上手です」
クスリと笑って啓介に寄り添う。
「本当のことを言ったまでさ」
「今夜はゆっくりと楽しんでいって下さい」
啓介と尾田原がグラスで乾杯を交わす。
「ああ、そうするよ。早速私のお客も現れたようだからね」
そう言って尾田原が啓介に別れを告げると、少し離れた所で待っていた栗色の長髪に黒いタキシードを着込んだ青年と会場を後にした。
〈その二人の男が出て行くのを別の人物が見ていた。ニメートルを超える大柄で、サングラスをかけた、頬に三つの傷がある男――〉
「見掛けない顔だね」
尾田原が青年に、廊下を歩きながら話し掛ける。
「ええ、社長が今回のパーティーに出られなくなりまして、私が代わりに来たのです」
青年が爽やか笑って愛想の良い返事をする。途中で料理の載った台車を運ぶ、背が低い金髪のボーイと擦れ違った。
「ここだ」
尾田原が部屋に青年を招き入れて、部屋の明りを点ける。
「さて…何が欲しい。クスリなら大麻と覚醒剤、銃器ならトカレフが大量に入っている。そうそう、年代物の宝石も――」
尾田原が振り向いて言葉を切らされた。振り向いた先には、デザートイーグルの銃口が顔の間近で舌なめずりをしていた。
「アンタの命さ――」
弾ける音がして、デザートイーグルがまた一つ喰らった。
「目標、尾田原を抹殺」
凉平の方ではこれで三人目。麻人からの通信も入る。
『こっちも出品川を抹殺した』
更にもう一つ。アックス1からだ。
『葵山を抹殺』
これで七人。この会場のターゲットは全部で五十七人。あと五十人。
――――――――――
「どうも桐生啓介殿」
「おお、大崑崙の方ですか」
「その通りでございます。幹部の一人、臥クジンと申します」
クジンが桐生啓介に会釈をした。
「ただ今大崑崙の主、青虎様は多忙ゆえ、ご挨拶だけでもと私がはせ参上いたしました」
「この界隈では、武器の開発と販売以外にも、かなりの武道派でなかなかの戦士たちがいると聞いています……そうですか、それは残念です」
「我らが生きる裏社会、アンダーグラウンドへようこそ、桐生の名がこの裏社会によりいっそうのご活躍を祈っております」
そしてクジンは、もっていたシャンパンの入ったグラスを毛桐生啓介のグラスとカチンと合わせて、くいっと飲み干した。
そしてそのグラスを、近くにいたメイド……金髪で背の低く。そしてどこか凛とした立ち振る舞いを感じさせる人物の、もっていたトレーの上に乗せた。
「それでは私はこれで」
「パーティはまだまだこれからですよ?」
「ええ、わかっていますとも。どうかご武運を」
そしてにやりと笑ったクジンは、桐生啓介の目の前から去っていった。
――――――――――
「任務を説明する」
ブレイクがディスプレイにパーティー会場で使われる建物を映し出す。都内に位置する超高層ビルだ。屋上にはヘリポート、下には広い駐車場とプールがあった。先代の桐生清介が建てた超高層ホテル。
「パーティーはこの建物の上、三分の一を貸し切って使われる。目標(ターゲット)は――」
ディスプレイが変わり、ターゲットのリストが映し出される。
「ターゲットは主催者、桐生啓介を含む五十七名」
それを聞いた凉平がうわぁ……露骨に嫌な顔をする。
「……多くねぇ?」
大きなため息とともに声を漏らしたのはシュウジだ。
「だから俺達がアックスと組むんだろう?」
「んで、そんな大勢をどーやって抹殺するんだ?一人一人やっても、時間がかかるしそんなに人間が死ねばいずれ見つかる。抹殺した人数が増えていく度に殺りづらくなるぜ」
麻人、凉平、誠一郎がそれにうなずいて同意する。
「作戦はこうだ」
――――――――――
セイバー1と2、アックス1が会場でターゲットを抹殺しつつ、アックス2がパーティー会場に使われているエリアの最下層に爆弾を仕掛け、一時的に下界と隔離する。フロアを破壊して上の階の倒壊を起こさないように火薬の量は慎重に――
「さぁて、ショータイムだ」
ホテルの内装の裏、そこでメイド服から戦闘服へと着替えた、アックス2ことシュウジが爆弾のスイッチを入れた。
これでパーティ会場は下界から隔離された。
パーティ会場が、戦場となった。
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