第100話 好奇心とクイーンと緑の絨毯

 夏休み最終日、黄金週間最後の日、年明け。様々な長期休暇の最終日がやってくるといつの間にそんなに日数が!? と何度もスケジュールやカレンダーを確認したり、俺タイムリープしてね? など現実逃避を良くしていた。


 来るなよ来るなよと現実逃避を続け、気付けばトロルの大発生当日。

 さらにポッド予報によれば本日の夕方頃から夜にかけて一層激しくなるでしょうという事。


 相手の活発になる時間帯がこれまた面倒だな、と感じながらも百名を超すようになった拠点の住人達の士気は高く、この拠点を穢されてなる物かという言葉があちらこちらから聞こえてくるのは嬉しい物だ。この時の為に、スペイン人も真っ青のシエスタを決め込んだ我々に眠気という隙はない。


 俺達はありとあらゆる場所にかがり火を焚き終わった後ポッドの横に勢揃いをしており、来る決戦に向けての最終確認を行っていた。


 男性と女性を混在させ、トロルのオスメスを誘い込めるようにしているケンタウロスチーム、そしてそれとは別にカーリン達が四匹で森中を駆け巡りトロルを挑発して誘い込むわんわんチーム。


 健脚、快速を誇るケンタウロスとわんわん達がまず第一の要、そしてそれによりどれだけの成果が出るかはわからないが肝となるトロル処刑班、これはレイ達ミノタウロスチームにしか出来ない事が有るので、彼等が担当となった。


 第一作戦を行う彼らの結果次第で、混成チームが森へトロル討伐に向かい殲滅という第二作戦の手筈になっている。

 それまでは第二作戦のチームは交代で警戒と待機が主になっているが、第二作戦の森殲滅戦チームはとにかく第一作戦の要のケンタウロス、わんわんチーム、ミノタウロスチームを激励し続けている。


「おいオレグ、頼むから残らず誘い込めよ! 俺は嫌だぞ夜の森にトロル討伐など!!」

「オレグ殿、後生ですから我々の名誉とオスの尊厳をお守り下さい」

「お二人とも落ち着いて……。こういった物は時の運もあります。うまくいけば儲けものくらいに思っていて下されよ」


 ゼルシュやペイトンに懇願されて困っているオレグ、そしてそのすぐ近くではまた別のやりとりが行われていたり。


「アナスタシア、貴方はどうなってもいいからァ、ホリだけは守りなさいよねェ。それと、貴方がグチャグチャに穢されてもいいからァ私が出張らないようにしておいてェ」

「お前な……。あえてアラクネの巣の前まで走り抜けてやってもいいんだぞ? アイツラならお前が糸に使っている匂いを辿って巣に入っていくだろう? そこで共生したらどうだ?」


 憎まれ口の叩き合いをしている二名がいたり、そう思えば別の方からは武器をしこたま背負ってどれか一つでも壊れたら俺に何かしら作らせようと思いついた者達が、どこの弁慶だよというスタイルでまるでハリネズミのように武装をしていたり。


 士気は高い。……多分。


 ポッドが一つ咳払いをして、あちこちで騒いでいた声が静まる。その目が俺達に開戦の時間が迫っている事を告げてこようしているのは察せられた。

「数は大凡おおよそじゃが、三百から四百といったところかのう。それに恐らくじゃが、もう少し増えるじゃろう。お主らが森へ入った頃には奴等も動きを見せる。頃合いじゃ」


 アナスタシアや、オレグと視線を交わすと彼らも一つ頷いてくれた。

「よし、作戦開始しよう。それじゃあ皆、皆の心の平穏の為にも、この拠点の為にも頑張りましょう!」


 武器を掲げて俺の言葉に返してくれる全員がやる気に溢れている。そして第一作戦を決行する為、俺が背に跨るのを確認して満足気に頷くアナスタシアが最後に、全員の前へと躍り出た。


「よし、これより我らは森へ向かう! 各自、与えられた仕事は迅速にするのだ! では行くぞッ!!」


 彼女がいつもとは違う槍を手に走り始めると、様々な方向へ走り始めていくケンタウロスチームとわんわんチーム。


 アナスタシアもかがり火があちらこちらに点在している中を縫うように走り抜けて、森を目指し快調に飛ばしている。


 何故俺が彼女の背中にいるのかと問われれば、それは彼女がワガママだからであると俺は即答をするだろう。


 ケンタウロスという種族は自分の背に乗せる相手を選り好む。男性陣はまだ許容範囲が広くていいのだが、女性陣が特に問題だった。

 その理由を聞いても詳しくは教えて貰えない物の、拠点に住む男性で体格や重量の関係上乗せられる男性がまず少ない。そして乗せられたとしても乗せたくはないと必死に訴えて来られたのには困ったが、エロい事をしなければ俺は乗ってもいいと言うのが大多数のケンタウロス達の意見だった。


 しかし、何故かどのケンタウロス達もそれを発言して俺を乗せようとした傍から何かを見て顔色を変えて一転、拒否される始末。


 一緒に説得に回っていたアナスタシアに何故かと聞いてみても、知らぬ存ぜぬと一蹴された。


 アナスタシアは最初ケンタウロスチームのリーダーだったが、自分に着いてこれる奴がいないという理由で単独で動く気満々だった。だが、それではメスのトロルが誘き出せないだろうと声高に主張し、最後に瞳を輝かせて放った一言。


「仕方ないなぁ! ホリを乗せてくれるケンタウロスがいないなら私に乗って二人で行動するしかないなぁ! いやあ仕方ない! これは仕方ないなー!!」


 その一言が最大の要因となり、何も言っていないのに作戦に参加する事は疎か、一番危険なポジションについてしまった俺。それでも何か反論しようとすると、表情は変えないのに青い双眸が少し揺れて何も言えなくさせられる。美人はズルいと思います。


 こうして、あちらこちらからアナスタシアを糾弾する声とその声を聞いて彼女が勝ち誇る中で決まってしまった俺の作戦参加。


 だが、今日この日の為にと言っても過言ではないくらい、シーに頼んで弩の練習もしている。鞄の中にはどっさりとボルトも入れてある。一撃を入れるくらいは出来る筈だが、問題はそれではなかった。


 馬上の訓練を一切していない俺は両手を彼女の腹部に回して振り落とされないようにすることにまず必死。


 俺の努力が水泡に帰したのを悲しんでいる間もなく、森の中へと入る。

「ホリッ! 奴等の臭気がかなりするぞ! 覚悟しておけよ!!」

「はーい、頑張ります!!」


 空気が変わる、まさに森を包んでいる空気が酷い物になっている。それは男子高校生の部屋にあるゴミ箱、それは海岸線に打ち上げられた海産物、ぶちまけた酢酸やチーズをダメにした時に発する匂いなど例えればキリがない。

 その悪臭に包まれている森のあちこちから、動物の悲鳴にも似た声や木々がへし折れる音が風切り音の中から響いてくる。


「ホリ、来たぞ!! あれはどっちだ!?」

「どっちって言われても、知らないよ俺!!」


 体のバランスを崩さないように、彼女の走りを阻害しないように周りを確認していると茂みの奥や木々の間に何かが赤く光っている。それも一つ二つではない、数多の光がこちらへと大きく揺れて近づこうとしている。目を凝らして見なくても大体わかる、アナスタシアが言っているのはアレの事だと。


 更に悪臭が酷くなる。

 酸っぱい臭いが一層強くなった時、その赤い光から声が響き渡った。

「オジュゥゥゥゥウウウウウッ!!」

「オズガイルゾォォォォオオッ!!」


 怖い物見たさか、何なのかはわからないが俺はその声を張り上げて地面を揺らしている相手をちらりと視界に入れる。

 目に入ったその瞬間に、自分を殴りたくなってしまった。好奇心はナントヤラも殺すと言うが、一瞬で海馬に焼き付けられたこの映像を何とか出来ない物かと後悔の念で胸が張り裂けてしまいそう。


 後ろから追ってきている相手には醜悪という言葉を当てはめる事が生易しいのだと理解した。


 赤く光る飛び出さんばかりの目、人をそのまま飲み込んでしまいそうな程大きく開いた口にはまともに歯がない。そして肉で覆われていると一目でわかる果てしなく下膨れした顔周り、俺の胴より太そうな首、そして……。


「なんで、なんであいつら全裸なんだよぉぉぉっ!!」

「知らなかったのかッ!? 常識だぞ!!」

「誰も、誰も教えてくれなかったッ!!!」


 奴らの胸元で大きく縦横無尽に揺れていたナニカ。OPI特別鑑定顧問の俺としては、今すぐ何か別のOPIを用意し心を浄化させなければ、生命活動が止まってしまう! 更に瞼の裏にあまりの衝撃でほぼ強制的に、無理矢理焼き付けられた腹から下のブラックホール、まずいぞ、このままでは今にも命の炎が消えてしまう!!


「ターシャ、しからば御免ッ!」

「なっ、お前何しているんだこんな時にッ!!?」


 今日の彼女は防具を着用している。だが、命からがら何とか胸当てと胸の間を突く事に成功し、手を滑り込ませる事を強行した!


「ふぅ、危ないところだったぜ……! こんな攻撃をしてくるなんて」

 以前に風呂場を覗いた時に見た芸術品を思い浮かべる事でまず心に水を与え、その芸術品を思い浮かべながら手をにぎにぎする事で光を与える。

 するとどうでしょう、今日を生き抜く活力という芽が生まれたではありませんか。更に涙を浮かべてこちらを睨む美人という肥料を与えると、その芽は一気に大樹へと成長した。


「ホリィッ!! こんな場所でお前ッ……!!」

「仕方ないんや、堪忍やでぇ!! 堪忍やでぇっ!!」


 真っ赤になりながら森を駆け抜ける彼女のペースが更に上がり、それでも俺達を全力で追い続けてくるトロルに諦める様子など一切なく、それどころか先程よりも数が増え、いきり立たせた股間をブンブンと振り回したオスと更に増えたメスの両方が溢れるようにこちらへ走って来ている。


「ターシャ、一旦あいつらを呼び込もう! あちらにドンドン送っていかないと後が面倒だよ!」

「後でたっぷりとこの礼はさせてもらうからな! 捕まっていろ! そこじゃないところにだ!!」


 離す、それは出来ない。何故なら今この手の中は幸せ空間、やっと出会う事が叶った織姫と彦星を引き離す事は僕にはとてもできない。


 あれこれとお互いに叫びながらも、走るペースを落とすどころか更に上げていく彼女の背中に抱き着いていると、気付けば森を抜け数多のかがり火がある場所へと戻ってこれた。

 作戦の本丸の一つ、その場所をまた縫うように走り抜けるアナスタシアと素晴らしい感触を確かめ続ける俺。

 その足を止めて振り返った彼女が、強く光る眼差しをトロルに向けたので俺も彼女の肩からその先を眺めつつ手を動かした。

「ッ……、ホリぃお前なぁ!」

「あ、ほらターシャ、あいつら来てる来てる!」


 涙を溜めてこちらを睨んでいる彼女が掲げたランタンや、あちこちのかがり火が照らす数十に及ぶ巨体達が闇の中へと消えていき、その巨体が消える度に地面に生まれてくるのは全てを吸い込むような穴。

 俺達の近くまで寄って叫び声をあげていたトロル、その巨体が目の前で闇に溶けるように消え去るとその場にはまた大きな穴が生まれている。


 こちらの作戦、いとも簡単な落とし穴。

 シンプルなそれに手を加え落ちると数メートル下の底にあるのは棘の鉄板、更に魔法や道具で固めた壁には油を塗って昇る事を許さないという仕掛けの物を無数に設置。

 そして落とし穴がある場所にはかがり火を目印にしている上に、誘導班は今日この日の為に練習をして落ちないように細心の注意を払ってくれている。

 誘導班にはそれぞれにハーピーを複数人つけて、穴に落ちたらすぐに助けられるようにしているし、穴の中でトロルと二人きりという絶望的な状況になる事はないだろう。


 試しに手近な穴の中を覗くと壁をがりがりと削り、呪詛を込めるように呻き声を上げているトロル、更に俺やアナスタシアを見つけると汁をまき散らしながら叫び声が穴の底から聞こえてきた途端に臭気が襲ってきた。臭い!! ガツンと殴られたくらいクラクラとしてくる。


「作戦成功だね! よし、拠点に戻って一旦処理班呼ぼうか!」

「うむ! その前に……、この手をどけろ! 全く、状況を考えてだなぁ!?」


 あれこれと言いながら彦星が織姫から引き離されてしまった、ああ悲しい。悲恋とはどうして生まれてしまうのか。

 ほんのりとしている自分の手を眺めていたら、つい好奇心が沸いてしまう。

「何を黙って……、おいやめろ匂いを嗅ぐな!!」

「いい仕事です、ああ、トロルで傷ついた心が癒えていく」


 汗を掻いている筈なのに良い匂いのする彼女の力で、トロルの放つ悪臭漂うこの空間、その穢れた空気を浄化してくれる異能を授かった両腕。

 流石にこれだけやったら、全てが終わった時に大変な目に遭わされるのではないかという考えが生まれてくるのだが、俺を背中に乗せると勝手に決めた彼女にも責はあるので情状酌量の余地はあるだろう。


「ふう、強敵だなトロル……。恐ろしい相手だ、視覚聴覚嗅覚、どれも多大なダメージを与えてくるなんて。しかし俺に隙はなかった」

「隙だらけだろうがッ! もう、やめろと言っているっ!」


 現実を忘れるように顔を両手で覆いながら、自身の心と体を落ち着かせる為の深呼吸を涙目の彼女に止められた。


 その足で一度拠点に戻り、敵が罠にハマった事を伝えるアナスタシアと俺。赤面している彼女を見てレイが首を傾げていたが、その肩には今回のトロル討伐班筆頭の彼女にしか扱えない途轍もない大きさのハンマーというか、餅つきの時に使うような杵が軽々と乗っている。


 そのハンマーの先からは既に悪臭と血、この巨大な得物を使い穴に落ちたトロルを潰すという刑を執行してきたのだろう。仕事が早い。


 そしてもう一つ、彼女達ミノタウロスの膂力でしか成せない事が……。

「ボス! あっちの横穴、そろそろ良い数ですぜ!」

「よぉし! ブッ潰すわよぉ!!」


 目を赤く光らせている男性がある方向を指差し、俺達の元へ走り込んできた。その報告を聞いてハンマーを軽々と放って走り始めたレイ、実験が成功するかを確認したいところなので、アナスタシアに頼んで追随してもらった。

「メズダァァァァアアアアアッ!!」

「ヤラゼボォォォオオオオオッ!!」

「オジュウウゥゥウウウウウウッ!!」


 アナスタシアの背から降りて壁の一面に棘のついた落とし穴を覗き込むと、見なければ良かったと頭を抱えてしまいそうになるほど底で蠢くトロルの集団、メスを求めるトロルは巨大なを天高く張り詰めさせて汁という汁をまき散らし、オスを求めるトロルと共に穴の底はよくわからない液体が滴り、それに顔を覗き込んだだけで意識が遠のくほどの酷い悪臭。


「お前達、我らが力を見せる時だ!! 行くぞォッ!!」


 煌々と赤く目を輝かせているレイが体に光り輝くロープを巻き付けて穴の反対側にいる他のミノタウロス達に叫ぶと、同じ光を持つロープを握り締めているイダルゴ達もそれに大きな声で応え、合図と共に全力で走り始めた。


「うわぁ、虐殺……」


 その言葉をつい口から漏らしてしまう光景が繰り広げられ始めた。

 誘導により大きな穴の中に落とされたトロル達。その穴の一面、棘がついた壁がレイ達の握っていたロープで曳かれると凄まじい勢いで迫り生命力溢れるトロルの命をまとめて潰していく。

 この作戦により、耳を塞ぎたくなるような叫び声と何かが砕ける音、破裂するような音が続いて聞こえ、レイやイダルゴ達が手を緩める頃には静まり返り、その後には棘のついた壁を戻す地響きの音しか聞こえなくなっていた。


 穴の中を確認すればどす黒く変色している壁と肉片のついた棘の壁、無残な死体の破片が散乱していたり、中にはまだ動いているトロル達もいるが、既に満足に身動きは取れないだろうという四肢がねじ曲がっていたり、捥がれた状態だった。

「ホリさーん! 見た見た? 私達もやるものでしょ!」

「レイ、凄かったよ。うん、凄かった……」


 胸を張ってとても自慢気な彼女、今日はとても軽装。汚れてもいいようにと薄着な上に装着している防具も胸当てのみという出で立ちからして、先程のようにはしゃいでいる様を見せると、たゆんたゆんどころかばるんばるんである。

「まだまだやるわよ! 見ててね!」

「うん、お互い頑張ろうね」


 荒んだ心が二人の女性によって癒されたところで、彼女達に別の場所でもトロルが罠にハマったと続々と走りこんでくる誘導班達。

「アナスタシア、俺達も負けてられないね。いこうか」

「うむ、よしそれでは捕まっていろ。いくぞ」


 再度アナスタシアの背に乗り込み、俺と彼女はまた先程の道を通り森へと戻る。その道中、あちこちの穴の中から荒れ狂う声や何かの悲鳴にも似た声が聞こえるのが恐ろしい。もし落ちたら、そんな事にならない為にもしっかりとアナスタシアに抱き着いておこう。


 森やあちこちの荒野、臭いがとにかく鼻につくが俺でこうなのだから魔族達は尚酷い感覚に襲われているのだろう。それでも身近に迫る危機の排除に向けて全員が一丸となってあれこれとやっていると、時が進み空が白み始めてきた。


「この辺りの粗方のトロルは恐らく穴に落として捕らえたか、殺しただろう。一度拠点に戻るとしよう、他の者達の経過も確かめねば」

「そうだね、戻るとしようか。……あれ? なんか、揺れてない……? 地震かな?」


 いつもは昼夜構わず騒がしい森から音が無くなり、虫も動物の声もせず、その静かな空間に時折響く地響きのような音とそれに関係してか、木々が小さく揺れている。

「まだ何か……、いるようだな。ここでは視界も悪いし、悪臭で何がいるかわからん。一旦森から出てハーピー達に話を聞こう」

「そうだね、急ごう」


 拠点へと戻る為に俺達が動き始め、それから僅かな時間が経つとランタンの灯りしかなかった真っ暗闇の世界も、木々の輪郭がはっきりと見えるような明るさになる。その明るさが見せる森の内部は悲惨も悲惨、目を覆いたくなるような事になっている。


 あちこちで汁塗れで死んでいる動物、何かが大量に付着している茂みや木々、そして口から何かが出ていたりするならまだしも、腹部から下が破裂して死んでいる魔物など、様々な物が散見している。


「うう、気分悪くなってきちゃった……。吐きそう……」

「大丈夫か? もう少しで拠点だからな、もう少しだけ頑張ってくれ」

 前に回した俺の手を握り締めてそう元気づけてくれる彼女、優しくされると先程までの自分がやった変態行動が心に突き刺さる。いや、あれは延命活動だから仕方ない。


 森を抜けて、その移動の最中にもあちこちの落とし穴からはまだ呻き声が聞こえる。だがその呻き声をかき消すように俺達が通り抜けようとした時、別の方向から呻き声とは違う叫びにも似た声が俺とアナスタシアの耳に入ってきた。


「オレグ様! 急いで、急いで!! 来ておりますよ!!」

「わかっている! だがこいつだけは逃せん! 確実に罠にかけねばならない! 私はいいからお前達は先に行き、拠点にいる者達にコレの存在を教えてくるのだ! それまでの時間を稼ぐ!」


 大きな声を張り上げている一団が森の中に整備した道の一つから飛び出してきた。その正体はケンタウロスの女性達、彼女達は表情を青ざめていたり、息を切らして赤面していたりと普通ではない事が伺える。

 森から飛び出してきたところで目の前にいた俺達を視界にいれて足音を強くして即座に近寄ってきた。


「う、ウォック様!! オレグ様が!」

「わかった! お前達はオレグの言う通りにしろ! ここは私とホリに任せておけ!」

「わかりましたっ!!」


 何が起きているかはまるで分からないが、その少しだけのやり取りでオレグが危ないと察したアナスタシアはそのまま槍を構えて走り出した。


 バキバキという音が止む事はなく、そして先程よりも大きく揺れる地面から伝わる振動が更に強くなり始めた時、視界の中にオレグを捉える事が出来た。


「何じゃありゃ……、あんな堂々とした公然猥褻ありかよ……」


 問題なのはオレグのその背後。明るくなり始めた森の中で、薄緑色の山が動いていると錯覚してしまいそう。


 彼を追う物、それは巨大な山のような全裸のトロル。薄い緑の肌が特徴的な、森の木々よりも大きな体躯をしたバケモノがあらゆる物をなぎ倒し、地響きを起こしながら死体が在ろうと構わず踏み潰して目的のオレグを見据え、凄まじい形相と勢いで追い続けている。


「オレグ!! こっちだ! 援護するぞ!」

「ウォック様! 感謝しますぞ!!」


 アナスタシアが全身を躍動させて投げた槍、俺が作った彼女愛用の槍は絶対汚したくないからとフォニアに寝ずに作らせ続けた槍が風を纏って凄まじい勢いのまま巨大なトロルの激しく踊る贅肉の胸に突き刺さったのだが相手はまるで意に介していない。


「くっ、ホリ、次の槍!」

「はい、次!」


 鞄から出したソレを手渡し、二本目に投げた槍の勢いもまさに弾丸のように胸を抉っているが、やはり相手は気にせずオレグを追いかけ続けている。

「ターシャ、目! 目を狙おう! 出来るよね!?」

「ああ、任せろ! 次ッ!」


 三本目の槍を構えて、先程よりも狙いすますように力と魔力を込める彼女。その邪魔にならないように体を縮こませて眺めているとトロルと目が合った。

「オジュギャアアアアアアッッ!!」


 オレグを追うのを止めてこちらに向き直り、喚き散らし何かを噴出しながら走り出してきたトロルの左目に、先程よりも強い威力の槍が深々と突き刺さった。視界が奪われても尚、こちらに叫びながら走り続けてくるその公然猥褻物。もう既に心が砕かれそう、タマヒュンの連続である。


「オレグ! このままこっちが誘い込むから、そのまま逃げるんだ!」

「わかりました! 二人共、感謝しますぞ!!」


 こちらに目標を、この場合俺なんだろうけど……、それを絞った巨大な山が悪臭漂う液体をまき散らしながら地響きを立てて追ってくる。

 流石に早々上手く行く筈がないというのもわかってはいるのだけど、ボウガンで出来る限りまだ視界を取っている残された相手の目を狙い続けるが動く相手、大きさや振動、様々な要因があってうまくいく筈もなかった。


「ターシャ、大丈夫!? 疲れてない!?」

「問題ない、もう少しで拠点だ! あそこの大穴なら、こいつもギリギリ入るだろう!」


 トロルプレス機のあの大穴ならコイツも入るかもしれないが、少し相手が大きすぎる。難なく昇って来られては意味がないというのはアナスタシアもそれは理解しているだろうが、このままというのも埒が明かないのも解っていて拠点へと戻っているのだろう。


 朝焼けに染まる山、遠くの拠点と目と鼻の先にあるポッドやトレントの並木道が見えてくると、ずしんずしんと響く音とは別に俺とアナスタシアを迎えるような遠吠えが聞こえる。それも一度だけではなく、二度、三度とその雄叫びが続き、音の出処を探してあちこちを見ているとその声の主が山の頂上付近に構えていた。


「リーンメイラ……? 一体何してんだろう」

「ホリ! こちらには普通の落とし穴しかない! ポッド様の前を経由して穴のある場所まで行くぞ!!」


「その必要はないわよ二人共!」


 後ろから叫ぶようにこちらへ声をかけて並走してきたのはフロウ、そして俺達を囲むようにカーリン達が疾走してきた。


「母上にお考えがあるようだ! このままあのトレントの付近まで走れ!」

 カーリンが叫んだ声に、アナスタシアが強く頷きそれに応えると速度を一段階速めていく。


「了解した! お前達はそのまま離れていろ! ホリ、飛ばすぞ!」

「バッチコーイ!」


 俺としてはこの拠点の中で一番簡単なお仕事、美人に抱き着いて離れないようにするという全男性が憧れるような作業を黙ってこなすだけである。

 より一層速度を速めたと風切り音と体にかかる圧力が教えてくれる中で、先程よりも強く大きく聞こえる遠吠え。朝焼けの空に溶けるような青い毛並みを靡かせて空へ吠える老犬。


 こちらを見下ろして、もう一度拠点全体に響き渡らせるような遠吠えが聞こえると、あの巨大なトロルが生み出していた足音が無くなっている事にアナスタシアが気付いて速度を緩めてそのままゆったりと相手の状態を確認しようと振り向き、俺もそれを彼女の肩から覗き見た。


「な、何アレ……? グ〇コ?」

「いや、なんだそれは? 私にも何が起きているか分からないが、途轍もない魔力をあの一帯に感じるぞ」


 俺と彼女の視界に入った物、それは時間が止まったように動きを止めた猥褻物。両手と片足を上げた状態で止まっているトロルが何かに縛り上げられるように身動き一つ取らずに鼻息だけを荒くしてこちらを見ている。

 色々と丸見えすぎて正視に堪えないので、この現象を生み出したリーンメイラのいた場所を眺めると山の上に既に姿はない。


「ん?」

「どうしたのターシャ」


 彼女の声に反応してみた先で次に起きた不思議、それは〇リコポーズで固まっているトロルの頭部がすっぽりといつの間にか現れた水の球で覆われてしまったのだ。


 こんな事が出来る人物は一人しかいないだろう、そう思って辺りを見回してみるとポッド達の元に杖を掲げて空に文字のような物を書いているリザードマンが見え、そこには他にも先程拠点へ帰還させたケンタウロス達と、他にもアラクネやミノタウロス達、ゴブリン達もこちらへ手を振っていたり。


 俺達を待っていたように並んでいる彼等の元へ行くと、ラヴィーニアが前へと出てきて俺とアナスタシアを労うように肩に手を置いてきた。

「お疲れ様ァ、二人共無事ねェ。ちょっと待っててねェ。私も少しは働かないとォ、怒られちゃうからァ」

「ラヴィーニア、一体何を……? あれどうにかするの大変だよ?」


 不敵に笑い、パーカーのポケットに手を入れてカツカツと音を立てるようにして俺達から離れていく彼女。トレニィアやレリーアが何も言わずに見守っているし、俺も倣って見守っておこう。


 赤い髪を風に靡かせて佇む姿を眺めていると、おもむろに切っ先鋭い足を一本高々と上げてそのまま地面に突き立てた彼女。

 その突き立てた足から淡い青い光が地面に生まれ、いくつかの線が突き立てた足から伸びて地面を走るように円と文字が描かれる。その魔法陣を描いた線の動きが収束すると、淡かった青い輝きが一層激しくなった。


 数回その激しい光を放つと、青い輝きが治まりラヴィーニアは大きく息を吐いた。


 何が起きたんだ? と首を傾げていると、横からは騒めきと一部のシスコンから嬌声のような声が。

 騒いでいる一団が見ている先、トロル。

 グリ〇ポーズを続けていてまともに視界に入れたくないな、と思っていたので全く見ていなかったがどうやら何をしたのかを知りたいのなら見なければならないという事だろう。やだなぁ……、何を好き好んでブラックホール覗き込まないといけないんだよ、深淵を覗く時どうたらこうたらってエライ人も言ってたから見たくないなぁ。


 ゆっくりと自分の心臓を落ち着けて、体をリラックス状態にするために深呼吸を挟んで視界にトロルを入れてみると、そこにはなるほど確かにこれは凄い。


 先程、ト・ルースがやったであろうトロルの頭をすっぽりと覆う水球、今それは遠目からでもわかるほどに様変わりしている。

 薄いブルーの膜が覆っていたトロルの頭は、今真っ白と言っても過言ではない程に凍っていてその醜悪な顔もあまり見えない。〇リコポーズはそれでも止めないのは、あのトロルにはナニワの血が流れているのだろうか。


「ホリィ見た見たァ? 凄いでしょォ、褒めて褒めてェ。あァ、あと槍持ってるでしょォ? 一本出してェ」

「う、うん凄いね。槍ね、ちょっと待ってて」


 普段と違う目線の高さなので、褒めろと言ってきたアラクネ長女を撫でながら鞄に手を突っ込んで一本取り出しておいた。


「これ、どうするの?」

「アナスタシアが頑張ったんだからァ花持たせてあげるのォ。思い切り頭目掛けてェやっちゃいなさァい」

 俺から受け取った槍をそのままアナスタシアに渡して、撫でられ続けているラヴィーニア。あまり見る事のない類いのいい笑顔をしている。


「フン、それなら私も全力でやってやる。ホリ、もう大丈夫だろうから降りていいぞ」

「うん、わかったよ」


 俺がいると全力で投げられないだろうしなぁ、と考えながら彼女の背中から降りると一夜中揺られていたからか体、というか足腰に違和感を感じる。クッションと鞍を準備しておいたけど、これだけ長時間乗っていたら仕方ないか。


 受け取った槍を持ち、引き絞るように体を捻じり先程よりも強く力と魔力を感じさせながらアナスタシアの手から放たれた槍は一直線にトロルの頭を目掛け、凄まじい速度のまま突き刺さるとその頭部を粉々にして空の彼方へと飛んでいった。


 あっという間に文字通り吹き飛ばされた頭蓋、赤と白の粉雪が朝陽を浴びてキラキラと輝いていてとても綺麗だがよくよく考えたらこれアイツの頭だし、その背景が全裸で〇リコポーズをしているのがなぁ……。


 首から上が無くなってしまった猥褻物。そして頭部が無くなったと同時にそのポーズを取る理由が無くなってしまったようにそのままゆっくりと後ろに倒れ、最後に大きな地響きを持ってこの戦いが終わった事を知らせてくれた。


「これで終わったのかな……? なんかとんでもないのがいたんだね……」

「まさかトロルクイーンがいたとはねえ。ホリさん、コイツは結構珍しいんだよ。股座またぐらにオスを頭から捻じ込んで……」


 何時の間にか隣に来ていたリーンメイラ、全く聞きたくもないあの巨大な物体の説明を始めているので聞き流そう。


 股座またぐらをこちらに開いて倒れているトロルだった物、おぞましいのであまり視界に入れたくはないのだが巨大故に目に入ってしまう。


 手を叩いて埃を落とすような素振りを見せるアナスタシアや、トロルの頭部をカチコチにした魔法を披露してベルやレリーアに称賛されて胸を張っているラヴィーニア、他にも戦闘が終わった事を喜ぶ声があちらこちらから漏れ出ている。


「大変なのはここからだろう。戦後処理をせねば、あっという間にこの辺りも悪臭に包まれるぞ。各自疲れているだろうがさっさと済ませてしまうとしようか」

「アナスタシア、休ンデテイイヨ!」

「うむ、こちらは我々でやっておこう。ケンタウロス達はそのまま休んでおけ、俺達も少しは何かしないとオババに怒鳴られるしな!」


 スコップを片手に飛び跳ねているアリヤや腕を組んで頷いているゼルシュの言う通り、夜通し駆けずり回ったケンタウロス達などの誘導班は休ませておこう。


「そうだね。第一作戦に参加した人は疲れているだろうしちゃんと休んでもらって、第二作戦のメンバーを中心に穴ぼこを埋めちゃおう。皆、もうひと踏ん張りしようか」

「ヨーシ! ヤルゾー!!」


 ベルが一番に駆け出し、それにアリヤとシーが続いて飛び出していった。ほのぼのと楽し気に穴を埋めているが、その穴の中からは何やら声が聞こえるのですが……。

 彼等に負けまいと気合を入れてゼルシュや他の者も続いたので、俺もそのままアリヤ達と穴埋め作業を始めた。


 荷車を出し、鞄の中から出した山のように積み上げた土を使っての穴埋め作業。たまにリザードマンやオークが槍を穴の中に突き刺したり、シーやオーガ達があちこちの穴の中に火を放ったりとして作業も順調。


 やはり数が多いだけあり、埋め立て作業も時間がかかってしまったがいよいよ最後の、文字通りヤマを迎えた。

「コレ、動かすの大変だけど皆もう少しで終わりだから頑張ろうね」

「ハイ!」

「一番近くの大穴まで、頑張って引っ張りましょう!」

「それにしてもコイツは一段と臭いな! 鼻が捻じ切れそうだ、これはあとで風呂に入らねば夢に出てくる臭さだぞ!」


 ゼルシュの言葉に笑いながら、大多数の者が足に繋いだロープを牽引をしてトロルクイーンの巨体を引っ張り、リザードマン達数名が引き摺って生まれた血の跡を魔法で洗い流している。全員がお互いを鼓舞するように声を張り上げて少しずつ引っ張り込み、その甲斐あってとうとう目的の穴に到着した。ここは一番トロルが罠にかかった場所なので、他にも潰されたトロルがわんさかと……。うう、吐きそう。


 深さ数メートルはある大穴の中へ首のないトロルを落とし一度中を燃やしてみたのだが、やはり規模が規模だけに鼻の良い種族はそこから地獄だったようだ。目に涙を浮かべ、あちこちで鼻や喉を手で押さえながら嗚咽を堪えている。

「ウグゥウウゥウウウ!!」

「臭い! ウググ、臭いぃ!!」

「目が! 目がァアァァアアア!!」


 俺ですら鼻と喉が焼けつくような臭いに襲われているのだし、地面を転がるように苦しんでいるペイトン達オークにはまさに地獄のような状況だろう。リザードマン達の中には失神して倒れている者も出ている。


「ん……? アリヤ達、その状態は……?」

「対策バッチリデス!」

「シーガ準備シテクレテマシタ!」


 頭にほっかむり、更に布を顔に当てて対処している面白扮装しているアリヤ達。事前にフォニアから炭を貰い、それを布に作ったポケットに入れる事で匂い対策も準備していたらしい。賢い。

 俺もたまらずにグスタールで購入した魔道具を顔に巻き付けて対策を取ったが、苦しんでいる者達の顔に押し付けて呼吸を助けてあげた方がいいかもしれない……。


「ホリ様、これ以上は我らでも燃やしきれません。埋めてしまった方が良いでしょうね。土を出してもらってもよろしいですか?」


 顔を布で覆っているが、それでも目にクるこの臭いによって険しい表情を浮かべているオラトリがやってきた。用意していた土を出すと、シーがその土を触って何かを確かめてからこちらを見て首を傾げている。

「埋め立てに使ってるのは全部森の土だよ。あの辺りの腐葉土を使った方がいいかな? っていう思いつきで持ってきたけど、道を整備したり落とし穴作ったりして土も余ってたから俺一人でここの土と入れ替えられるように採集してたんだ」


 こんもりといった具合に出した土を眺めて眉をひそめているオラトリや、早速と作業を始めているアリヤとベル。動き出しが早い。

「御一人でそのような事を……? 仰って下さればいいのに」

「まあ、俺の思いつきで皆の手を煩わせるのもアレかなって思ってさ」


 シーの頭を撫でながら説明をすると合点がいったように頷いた彼やアリヤ達、俺などはまだ臭い対策が出来ているので大丈夫だが、それ以外のほぼ全員がまるでトロルとの別れを惜しむようにも見える程、刺激臭でぼろぼろと涙を流しながら作業を穴埋め作業を続ける。


 全ての穴埋め作業が終わると、作業をしていた全員がお互いを褒め合うように抱き着いて歓喜の声をあげていたりスコップを掲げていたり。その声を聞きながら苦しい作業も終わった事だしと帰還の準備を始めると、多少足元がふらついてきた。

 流石に夜通し揺られてからの肉体労働は多少キツイかな……? とスコップを支えにしていると疲れもあっての事だろう、吐き気もぶり返してきた。


 抗う事も出来ず胃の中の物を数回吐き出し、すっきりとしたところで顔を上げると険しい表情を浮かべているカーリンがこちらを睨みつけるように見ている。

 その険しい表情を浮かべたまま、俺の隣へやってきて鼻を擦りつけるようにして何かを確認した後、顔をふいと横に振った。


「……乗れ」

「臭いけどいいの? 助かるよ」


 カーリンの助けもあって、ゆっくりとあまり力が入らない体を緑の毛並みの上に乗せると彼女はそのまま静かに歩き始める。


「臭いがついちゃったらごめんね、ありがとう」

「もし臭さがついたら、そのあれだ……。母上やフロウのように香り付きのオフロとやらに私もいれてくれ」


 あの匂いが気に入ったのかはわからないが、その言葉に約束を持って返して柔らかい緑の絨毯で今は寝かせてもらおう。目が覚めたらとにかく風呂、文字通りふやけるまで風呂に入ってキンキンに冷やした豆乳で一杯やってやる。


 そう決心してカーリンの息遣いを子守唄代わりに俺は意識を失った。

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