第76話 精霊の在り方

 気が重い時、現実を見ずに何か別の事を考えたり、普段しない事が楽しく感じられたりするものだと思う。今がまさにそう、普段はそれほど楽しい訳ではない掘削が辛い事を忘れさせてくれる。


 俺は確かに悪い事、覗きをしました。

 ですがその罪の代償が帰ってきた例のポーション、ハイパークリエイターパッサングレート、通称HCPGというブーストポーションを飲むというのは余りにも酷だと思います。

 そう訴え続けた結果、俺が何かしらの必要な設備が思い浮かぶまでは使わなくて済むが、必要に迫られたら容赦なく飲まされるという事で落ち着いた。

「欲しい設備か、何かあるかなぁ?」

「そうですね……。農業地を作られたとしても今のままでは持て余しますし、魚の水槽の拡張などを行うとしてもわざわざソレを使う必要も感じませんよね」

「あるとすれば防衛設備とかですかね? ここ、殆どその類の物がありませんし。投石機が何故かたくさんありますけど……」


 とりあえずこれを一度使うという事になったのだが、何が欲しいか。

 それを決めておかないと意味もないだろう。水槽の時は、まず水路が欲しいという前提があった上で魚の水槽が設置された。他にもリザードマン達やアラクネの家の時もそう。前提がない分には、これを飲み込んでも掘削だけになってしまう。

 パッサンの技量を使ってのそれは余りにも勿体ない。掘削された地も、鉱石の山に雨がどれだけ降り注いでも大丈夫なように排水路をしっかり巡らせてくれる心配り。出来るモヒカンマッチョだ。


 こうして手元のお手伝いをしてくれるオーガの侍女達と話をしながら掘削作業をしているが、いい案は出ない。

「皆の住んでいる家も、それぞれが頑張って建てた物だしね。住み心地は良さそうだから問題ないし。うーん……、やっぱりもうアレかな。別区画を作ってそこにポッド達を移してみるとか?」

「でも、まだまだこの山の周辺の土の再生は追い付いていないんですよね? それなら山の中に移すよりもまだ外で土を見て頂いた方が良いのでは……」


 俺達のすぐ傍で座っているウタノハが指摘してきてくれる、まさにその通りなんだよなぁ。どちらにしろあのポーションの使い道はまだない、キープという状態で俺は一安心である。


「まぁ、ほら。焦って決めても良い事はないって事で! 絶対大事になる設備や、建物にこそパッサンは輝くよ!」

 この話をしていると、どういった設備をと考えるよりも、次の罰ゲームがとにかく怖い。この前の恋愛劇場三部作を思い出すと身震いが止まらない。


 今は次にくる筋肉の祭典に怯えながら、ひたすらにつるはしを振り下ろしていた。


 フォニアがやってきてから数日、彼女は自由人と言う言葉がハマるような考えと行動でまさに自由奔放にしている。俺についてきて掘削を手伝ってくれたり、ペイトンやペトラについていき農業をやったり、狩猟についていき狩りをしたりと。やはりオーガのポテンシャルは素晴らしくどの作業でも役に立つし、戦闘能力も高いという。


 流石にまだ猫人族や、一部の者達からは敬遠されている点も見受けられるが、彼女自身明るい性格な事もあり徐々に慣れていくだろう。


 その点に気遣って日々を送っていると、ある日の朝にペイトンとペトラが俺達の洞穴へと血相を変えて飛び込んできた。

「ほ、ホリ様大変です!! ポッド様が! ポッド様に!! ポッド様の!!」

「いや落ち着こうよペトラ。はいお茶、ペイトンも息整えて」


 ペトラは俺から渡されたお茶を呷り、ペイトンは荒い息を整えながらスライム君からカップを渡されている。

「ハァッ、ハァッ……。ありがとうございます、スライム殿。ホリ様、ちょっと来て頂けますか? ポッド様の元へその、お客様が……」

「客? わかった、それじゃあ走っていこう。頑張れペイトン」


 オークはパワーがオーガ並み、だが何故か足はあまり速くない。戦闘や訓練の時は素早いのだが、走るだけというと話が変わる。

 もしかしたら俺やゴブリン達よりも遅いかもしれない。なのでペイトン達は基本歩いている事が多いのだ。はやる気持ちを抑えながら歩く彼らはどこか少し可愛い。走っている最中も、どう見ても足速いだろうという足の動きからは想像も出来ない程遅い。それがまた見てて癒される。

 だがその彼らがこんなになる程急いできたという事は、何か大事があるのだろう。


 洞穴にいた俺達、スライム君を除いて全員がポッドのところへと駆け出した。

 そしてポッドの元へと辿り着くと、ああ確かに珍客というか……。その姿を見て納得した。


 俺達の前でポッドと話している二人。

 その顔は見えないが、その内の一人には見覚えがある後ろ姿、髪が新緑の草木のように鮮やかな緑で体には木の皮のような物が見える。

 片方が夏の青々とした木とするならば、もう片方は秋に染まる楓をイメージさせるようなオレンジの髪色。背丈も緑髪の者より大きい。

「ア! アアァ! 人間!! やっと見つけたよ人間!!」

 緑の髪が目立つ女性、その緑の髪よりも深い緑の双眸。そして下半身が完全に木で出来ているように見える彼女、樹の精霊ドリアードを自称していたな。


「ああ、どうも。大分長い事掛かりましたね。忘れてましたよ」

「これのおかげで大変な目に遭ったのよ! でも美味しかったですありがとうございました!!」


 そうして怒りの表情を見せながら、丁寧に頭を下げる彼女。渡された水筒には何故か何かのツタが巻き付いている。そういえば言動と見せる感情が少し食い違っていた子だったな。

「ホリよ、こいつらと知り合いか? お前さんはまた面倒な連中を連れてきたのう」

「ポッドこそ知り合いなの? 俺はほら、大分前の事だけど初めて人里へ行った時の帰り道にそこの緑髪の女の子と会って、ポッドから貰ったブローチを奪われたんだよ」


 ポッドの質問にそう答えると、彼はいつもと少し違う様子……。周りのトレント達も少し空気が違う事を示唆するように葉を揺らしていて、何だろう? 恐怖に似た気配を感じさせる。

 俺とポッドが話をしていると一歩前に出てきた秋の紅葉を感じさせる女性。

 隣の子とは背の高さも違うし、色々と大きい。何とは言えないがこれは大きい。だが残念だったな、つい最近我が拠点の誇る戦士達の風呂を覗いた俺に隙はない! 


「初めまして、私は樹の精霊ドリアード。人間、ここを治めているのは貴方ですか?」

「どうも初めまして、ホリと言います。私が治めているという事ではないですが、とある方々に頼まれてここを開拓しております。ドリアードさん達はそのブローチの事でいらっしゃったんでしょうか? それは友人から貰った大事な物、確認が取れたのなら返して頂けると嬉しいのですが」


 正面に居る二人のドリアード、色々大きい方の女性も纏う空気と佇まいが見た目通り幻想的。瞳の色が鮮やかに赤く、体を覆っている恐らく樹皮のような物や腹部から下が木の根のようになっていたり、オレンジの長い髪がその木の根の部分まで届いている。

 その暖かな色合いの物とは対照的に俺を見る目はとても冷ややかという印象を受けるのが気になるところだが。


「ええ、話をちゃんと聞きもせずにこれを奪ってしまった事、謝罪させて頂きます。どうやらこのトレントが渡した事は間違いないようですし、それはお返しします」

「あっ」


 久しぶりにみたブローチは緑髪の女性の胸元に落ち着いている。そしてそれを着けている本人は、不意に口から出てしまった言葉を両手で押さえつけるようにしている。


 随分と長い間着けていて慣れてしまったのだろうか。口を押さえていた手を離すと今度はブローチに手を添えて少し悲し気な表情に変わってしまった。愛着が沸いてしまったのか? うーん……。


 隣のトレントに向かって少し小声で囁いてみた。

「ポッド、あのブローチなんだけど……」

「あれはお前さんにやった物じゃ、好きにすりゃええぞ。今度似た様なモンを作ってやるわい」

 さすが年の功、こちらの言いたい事を察してくれたようだ。


「そちらのドリアードさんはそれを大事にしてくれているようなので、差し上げますよ。これからも大事にしてもらえると幸いです」

「えっ……、ホントに? いいの?」

 彼女は俺の言葉に小さく声を出し、首を傾げながらそう返してきた。


「いいよ。気に入ってるんじゃないの? それ」

「うん、話もちゃんと聞かないでっちゃってごめんなさい。ありがとう」


 それを黙って眺めていたもう一人のドリアードが小さく喜んでいる女性を眺めて少し視線を強めた。その視線と敵意のような物をこちらに向け直し、軽く頭を下げてきたのだが……。


「いえ、それには及びません。人間から私達が何かを施されるなど、この大地に根付く者として到底受け入れられる物ではありませんから。ドーリー? お返ししなさい」

「え、いえでもお姉様……」


 俺を見つめていた冷たい眼が、今度はドーリーと呼ばれる緑のドリアードに突き刺すように無言で見つめ、有無を言わさぬようにしている。

 ううん、最初にこちらを見つめてきた時から感じていた敵意のような物がチラホラと顔を出していたけど、何故だろう? 俺この樹の精霊に何かしたのだろうか……。


「ホリ、ホリ……。相手は樹の精霊の中でも、この世界の創生から存在していたと言われる最上位の奴でな。何故かは知らんが、兎角とかく人間が嫌いなんじゃ。精霊と呼ばれる存在の大半は人間を好んでおらんが、その中でも彼女はそれが際立っていると聞いたことがある。言葉と行動に注意せえ」

「ゲッ、あの片割れそんなやばい存在なの……? ていうか俺、彼女達にペトラの薬草汁渡しちゃったぞ、ブローチ奪われた腹いせに……。やばくない?」


 ヒソヒソと話してきたポッドに、こちらも声を抑えながら事情を話すと俺の言葉を聞いて呆れている森の賢者さん。お爺ちゃんやめて、その表情は洒落にならない罪悪感を生み出しちゃう。俺の異世界ライフもここまでか……。


「私は当初これを返しにきただけでした。それと、我らを暴走させる薬を与えてきた人間の顔を見ておきたかったというところでしょうか。あちらこちらで木々を暴走させてしまって、とても楽しい思いをさせて頂きましたから」

 俺とポッドの会話が聞こえたのか、遠回しにチクリと皮肉をされた。


 ……ん? 木々を暴走……? 何処かで聞いたような覚えが。


「あの、すみません少し伺いたいのですが、その暴走というので何か巣のような物を潰したりとかってありましたかね?」

「さて、どうでしたかしらね。大規模な物から小規模な物までありましたから」


 彼女は俺の質問に真面目に考えたり、答えてくれる感じではないな。それ程までに憎まれる理由もただ薬草汁のせいってだけではないみたいだし。

 ドーリーがその時に小さく声を出して何かを思い出したように顔を上げた。

「あったあった! 鳥の巣とか大きな蜘蛛の巣を潰しちゃったんだよね! もー、この薬ちょっと効力強すぎて困っちゃったよ!」


 んー、これは掘り下げるとヤバイ奴。確かラヴィーニア達もイェルム達も巣を潰されたって言ってたような気がする。これは墓まで持って行くべき情報、あれだな、知らんぷりをしよう。


「そうですか、御答え頂きありがとうございました。それで、お二人はどうされますか? 他に何か御用件があるなら伺いますが」

「最初は貴方と、貴方にこれを渡したトレントの顔が見てみたかっただけなのですが、トレントの中でも随分と古株な者がこれを渡した物ですね。ねえポッドさん?」


 視線をぶつけられ、うめくようにして返答しているポッド。流石長生きしているだけあって名前を知られている、凄いなこのお爺ちゃん。


「ですがこの山の惨状、これを見て気が変わりました。人間如きがどうしてあの山をあのように出来るのか知りませんが、あの山をけがすような沙汰は見過ごせません。出来る事ならば今すぐにでも退去をして頂きたいですね」

「はい?」


 想像だにしない言葉が飛んできた、退去? マジですか。

 冷ややかだった視線の中に、憎悪のような物が混り更に強く俺を睨みつける彼女。その空気に怖気づいてしまう心を奮起させるように一息吐いて、自分を落ち着かせながらチラリと見た周りの者達は唖然としていたり、多少震えていたり……。


 その空気を生み出している本人は俺を睨み続けながら、更に続けた。

「あの山は、原初の大精霊と呼ばれる者にとって大事な場所です。そこをあのようにされて黙っている訳にはいきません。その上それをやっているのがよりにもよって人間……、これ程怒りが込み上げてきたのは何時振りでしょう」

「それは申し訳ありません。……お言葉を返すようですが、先程も申した通り、私もここをこうするように頼まれている訳でして。そのお怒りもお察ししますが、いきなり退去をと言われましてもここで生活をしてしまっている以上、簡単には出来ません。貴方が大事に思うのは理解できますが、こちらもやむにやまれぬ事情がございます。退去を、というのは御勘弁願えませんか?」


 そういって頭を下げたところ、彼女のいる方から重苦しく見えない何かが流れ込んできていると錯覚するほど張り詰めていく空気。


「なりません。この地に人間がいるというだけでも不愉快です。どうしてもと言うのならそうですね……、これより数日の猶予を与えます。その間に人間、貴方だけでも準備をしてこの地より去りなさい。ここよりも住みよい人里などすぐに見つかるのではないですか? 人の世の事など私は知りませんがね」

「なっ……!? 精霊様! それはあまりに……っ!」


 後ろから聞こえてきた声に手で制止を掛けておく、声を出したペイトンは大人しく黙ってくれた。

 いやパンチ効いてるなぁこの人。あ、人ではないか。


「それじゃあ、もし私がこの地より去れば他の魔族は残ってもいいという事ですか? そこは大事なところなので、ちゃんとお聞きしたいのですが」

 ふん、と鼻で笑うようにしたドリアード、彼女は少し考えた後俺を見下すようにしながら軽く頷いた。


「ええ、貴方がこの地より去るのなら魔族は見逃しましょう。ここに滞在する事も。人間としても無駄な事ですが、約束しましょう」


 もう溢れる敵意を隠す事もしなくなったなぁこの精霊さん。隣の緑髪の方はあたふたと俺達を交互に見ているし、横にいるゴブリン達も心配そうに俺を見ている。


「わかりました。今すぐに、というのは不可能ですので数日後にもう一度来て私がここより離れる事を確認してください。それを見届けたら魔族がここへ滞在する事に口出しはしないで頂きたい。これを守って頂けるのなら私はこの地より去りましょう」

「いいでしょう、我が父に誓って。それでは……そうですね、二度程太陽が昇った朝にもう一度ここへ来ます。その時までに身支度を用意しておきなさい」


 二日後にもう一度来ると言い残したそのお偉い精霊さんはそのまま足元の根が動き出し行ってしまい、困惑していたもう一方のドリアードがこちらへとやってきた。

「ご、ごめんね。何か大変な事になっちゃってるよね、私がコレを奪っちゃったから……」

「いや、いいんだよ。あの精霊にも何かそれだけの事情があるんでしょ。そのブローチ、大事にしてね?」

 泣きそうな表情になっている彼女の頭を撫でつけると、小さく何度か頷いてから先を行ってしまった精霊を追いかけるように足元の根を動かし始めた。


 頭を掻きながらその様子を見守っていたが、少し離れたところで彼女達は姿を消し、この場の緊張感が多少和らぐように感じる。

「ふぅ……。こりゃちょっと急がないといけないかな……」

「ホリ様! ドウイウ事ナノ!!」

「ソーデス! ココカラ出テイクッテ!?」

「ホリ様、余りの事で口を出せませんでしたが、あのような条件を鵜呑みにするのは間違っていますよ!」

「そうです! 木の精霊だか何だか知らないけどいきなり来て勝手すぎますよ!!」


 ゴブリン達やペイトン、ペトラがまくし立ててくるがとりあえず落ち着いて貰おう。


「まぁまぁ、あちらにはあちらの事情があるんでしょ。他の子達はここに居れるんだし、あっちも文句言わないよ。あの態度は凄く腹立つけどね」

「それでもホリ様がここよりいなくなるという事実は変わりありません。他の種族の方達にどう説明すればいいのでしょうか!?」

 ペトラが声を震わせるようにしながら俺にそう聞いてくる。

 そこなんだよなぁ、荒れそうな気配がプンプンする。暴れ出すくらいなら未だしも、精霊に喧嘩を売るような人はいないと信じたい。


「まぁ、それは俺の方から言うとするよ。悪いんだけど皆、拠点に住んでいる人達に声を掛けてきてくれる? 場所は……、ここでいいか。ポッドの場所に集合って事で」

「わかりました、行ってきます!」


 ゆるりと走り始めたペイトン親子と、脱兎のごとく駆けだしたゴブリン達。彼らを見送ると隣にいるポッドが語りかけてきた。


「おいホリ、どう考えてもここにいる者達もワシも納得出来んぞ。あんな急に現れて好き放題言われて、お前さんが出て行かにゃならん理由がわからん。一体どうしてあの条件を飲んだのじゃ?」

「ほら、前に木の成長促進について話をした時にポッドが言ってた奴らでしょ? アレ。『話を聞かない連中』って言ってたからね、最悪あの場で暴れられても困るじゃん」


 彼は思い出すように唸り、葉を少し揺らす。

「おお、そういえば話したのう。そうじゃ、あいつらなら間違いなく芽吹いたばかりの樹だろうと一気に長い時間を生きた大木にすることも可能じゃろう。じゃがあの性格がの……。話を聞かないというのがわかったじゃろ」

「うん。それにああいうタイプには従っておいた方がいいでしょ。何より大精霊っていうくらいだし、暴れられた方が恐ろしいよ。折角色々出来たのに、それをぶち壊されても困るしね」


 それにしても、あの様子からだと相当根深い恨みがありそうだ。その事情は知らないけど一体何をされたのだろう、話を聞いてみたいけど喋らないだろうなぁ。


「それにさポッド、忘れちゃならないよ」

「何じゃ?」


 俺の言葉に疑問を浮かべている彼についついニヤケ顔を向けてしまう。

「俺は退去するとは言ったけど、戻ってこないとは言ってないから。はいセーフ」


 そう、別にあの精霊の言葉など鵜呑みにしていないし、ふらっと現れた奴の言葉を忠実に守る必要もない。ただ数日、グスタール辺りに滞在して物資を補給して帰ってくる気満々だった。


 それを聞いたポッドが大きく体を揺らし、周りの木々も騒がしく葉を揺らしていて、先程まで重苦しい空気を放っていたトレント達だったが、今は妙に楽し気に見える。


「ファッファッファ! そりゃそうじゃ! せーふせーふ! ククク……、あいつらも確かにそのような事は言っておらんかったわ!」

「ポッド、静かに。こういうのはあんまり周りに言っちゃうとバレるからね。俺の知っている言葉に『敵を騙すならまず味方から』って名言があるんだけど、ポッドに話したのは最低限それを知っている者がいないと、俺がいなくなった後、もし暴動みたいになったら大変だからね。周りのトレント君達もそこらへんは任せたよ」


 そういうと先程まで楽し気に揺れていた木々が落ち着きを取り戻すように静かになった。意外と感情表現が豊かだな……。

「あいよ、そこは任せておいてもらおう。ククッ、自分勝手なあの連中にはいいクスリかもしれんのう」

「それでも拠点の皆を騙す訳だしね、心が痛むけどこれが最良でしょ。あの様子じゃ何が原因で人間嫌いなのか話す事はありえないだろうし」


 俺達がそうして話をしていると、拠点の方から光の矢が飛び出すようにこちらへ向かって来ている。

 普段纏め上げている銀髪が下ろされていて風に揺れている、こちらへ凄い勢いでやって来る白銀のケンタウロスとその大分後方から彼女に続いているその他のケンタウロス、彼らの姿が見えた事で隣のトレントに声をかけておいた。


「じゃあポッド、バレないようにね。ある意味彼らを騙す方が大変だよ? あんな勝手な言い分をする奴よりもずっとね」

「ホイホイ、まぁワシは黙ってればいいしな! 頑張れよホリ」


 気まずいが今回は致し方ない。

 急ぎでやらなきゃいけない事が増えてしまった、それにここを離れている数日中にグスタールで新たな何かを見つけてこないと、戻ってきた時に鬼のような訓練をさせられるなぁ……。


 とりあえず今は、泣きそうな表情でこちらに走ってくる彼女をどうなだめるかを考えねば……。気が重いなぁ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る