第47話 真実は人を傷つける

 猫人の力を借りる事により風呂というこの拠点では娯楽と呼んでも差し支えない設備がもっと身近に使えるようになる。残念ながらゼルシュ以外のリザードマンはあまり興味を示さなかったが、大多数の者達にこのニュースは衝撃を与えたようだ。

 様々な種族が生活をしている要因と、以前に言われていた『大浴場が欲しい』という意見が重なり、計画の内容が途方もない。

 浴槽の大きさ、深さ、広さ、脱衣所など、必要な物をどのように作るか? と各種族に聞くと意見が確実に分かれるので、議論がそこで止まってしまうのだ。


 アナスタシアが始めた意見交換という名目の会議も、ゴブリンやオーク、ハーピー、アラクネと続々と参加し、猫人や利用する気がないリザードマンにも何故か意見を出させていた。


「ホリが怪我を完治させるまでは、どちらにせよ時間がある。明日また会議をここで行う、各自それまでに仕事を終わらせ、自分の思い描く最高の風呂を発表するがいい」というアナスタシアの言葉により、会議は解散の運びとなった。


 その日、種族入り乱れて意見を交換し、最終的にペイトンの家に集まるような形で会議をしながら食事をしたり等、どれだけ力を入れているのか……。



 翌日に開かれた会議も、纏まるような事はなくむしろ更に熱を帯び混沌としている。

 仕方のない事とは思う。お湯の温度一つとっても、ちょっとお熱いのが好きなケンタウロスとオーク。ぬるま湯派のゴブリン、ハーピー、アラクネ。水がいいリザードマン。

 最後の水は論外として、管理する猫人の負担になりえそうな物は却下しといた。


「滝に打たれると気持ちがいいぞ」

 恍惚とした表情でそう意見をあげたリザードマンと、熱いお湯派のケンタウロスの意見が混ざり合い『熱いお湯の滝に打たれると最高』という化学反応はどうやって起きたのか? こういった途方もない物は全て不採用である。


 打たせ湯というのも確かにある、あるにはあるが、それをやるには猫人族にどれだけの負担を強いる事になるのやら。

「わかった。特殊な物が欲しいなら、俺が一つ作る。今回はそれで各自我慢をして頂きたい」

 俺がそれを言い出したら、どよめきが起きる。

「ホリ、言っては何だがこれ程様々な意見が出ている中でそんなことをいってしまって大丈夫か? 後から増設したりも可能ではあるだろうが、大変なのでは……?」

 ゼルシュが俺の肩に手を置き、疑問を投げてきた。

「ああ大丈夫だよ。リザードマンには厳しいかもしれないけど、ゼルシュは気に入るかもしれないね。楽しみにしててよ」


 特殊な設備は俺に一任され、そこから意見も纏まり始める。

 管理人というか番台にはお湯の管理を任される猫人達が就任し、あとは俺の怪我が治るのを待つばかり。

 その間、各種族の男性達がそっと俺に貢物を置いていった。ペイトンが山のように重なっている木の実や魚を抱えるようにして持っている。

「ホリ様、またプレゼントが来てますよ。『あの』頼み事で……」

「またか……、いい加減諦めてくれないかな……」


 彼らの望みはただ一つ。

『ちょっと男性が嬉しくなるスポットを作って欲しい』という物だ。

 誰が言い出したのか、特殊な設備を俺が一人で監修するという事で、そのようなポイントを是非! と頼まれたのだ。


 バレたら俺が死んじゃうでしょうが! と心は揺らいでいたが、即座に拒否をしておいた。だがエロは男性の原動力、彼らは諦める事なく三顧の礼でもするのかと言わんばかりに毎日何かを持ってくる。


 出来なくはないかもしれないが、バレたら俺も彼らも危ないではすまないのだ。公開処刑をいとも容易く行う連中に挑むのなら個人でやってくれ。

 そう思いながらも、自分の頭の中で少しプランを修正しておいた。彼らの礼に対するものなのだ! 仕方ないのだ!


 ポッドから怪我についても「もう大丈夫じゃろ」とお墨付きを貰えたので、お礼に最近メキメキとパワーアップしているペトラの健康飲料を木の根にかけておいた。前のお礼も兼ねて二本セットで。


 ポッドが上げた悲鳴により、付近のトレント達が怯えるように葉を騒がしく揺らしていたが、きっと気のせいだろう。


 久々に体を動かすという事で、調子を見ながら慎重に工事が始まった。

 各種族総動員で始まった大規模な工事は、まず俺が嘆きの山の外壁部分で一番厚みのある場所をくり抜き屋内の空間を作る事から。

 かなり高さも確保してある。排水を考えての事だが使った水をどうしようとはまだ思いついていない。付近の川まで排水ラインを通して流してもいいが、距離があるので現実的ではないかもしれない。まずはこちらを完成させてからだな。


 ここの壁は外までの長さが直線距離でもかなりある為、出入口のトンネルもない。俺が掘削作業をサボっていたのが功を奏した。

 充分な広さを確保するのに数日、そこからあらゆる場所を隅々までハンマーでコンコンと叩き基礎的な物が出来上がる。


 怪我が治ったら宴会しようぜ! と話をしていたのだが、どうせなら浴場建設も終わらせて纏めてやろうという意見で一致したのでみんなのやる気の見せ方が違う。


 俺が壁の中で悪戦苦闘をしている間、外からのアクセスである階段などを他の人達に任せておいた。どんな種族でも使いやすい道にしたいという事なので、かなり大掛かりになってしまっているようだ。


 それからまた数日が経ち、大体の内装も終わったのだが、鉱石のおかげで既に浴場全体が輝くような贅沢空間になっている。

 後は俺が作る施設である。建てようと思っている物は、浴場内からのみ行ける個室。入り口近くなので風通しが良さそうな場所だ。作ってみたら意外と大掛かりだし、部屋の広さも中々の物になってしまった。


 大事なのはここから、パメラに頼み俺が作った室内に木材を敷き詰めて腰を掛けられるようにした。そして丁度中心の辺りにいくつか物を載せられるような台を設置しておく。

 俺の作業を手伝ってくれているリザードマンが話しかけてきた。

「ホリ様、これは……蒸し風呂ですか? 意外と普通の物を作られましたね」

「うん、こちらだと一般的にこれが普通らしいけど、リザードマン達の要望で浴槽の一つに水風呂追加したでしょ? サウナで汗をたっぷり掻いた所に水を被ると最高に気持ちいいからさ。俺がやりたかっただけなんだよね。どうせ意見まとまらないし」

 ――みんなには内緒ね! と付け加えておいた。


 リザードマンの彼、リ・アギラールは不思議そうにしている。

「私は蒸気風呂を使用した事はないのでわかりませんが……。どういった感覚なのでしょうか?」

 彼は尻尾を左右に振り、興味深げに聞いてくる。と言っても彼らリザードマンの感覚と人間の俺との感覚を一緒にするのもなぁ。

「うーん、例えばアギラールが火の魔法で熱い思いをするじゃない? その後に冷水を頭からかけられた事はない? そういう気分だと思うよ」

「おお、それなら想像がつきましたよ! なるほど、訓練施設ですね!」

 パシンと床面を尻尾で叩き、納得出来たようだ。違うんだけどまぁ、否定するのもアレだし。大体合ってるという事にしよう。


 猫人の人達の魔法はどれも戦闘向きではない、火もお湯を作るくらいだし、風もそう。ただ風呂場の換気をするのにも丁度いい感じなのでまさに最強の番台さんだ。


 階段を設置していた人達は、各種族が無理なく使いやすいという条件をクリアした物を完成させ、次は俺が作った排水の設備を活かす為に排水管を川に向けて作り始めている。

 こちらも大掛かりになり、更に主に使用している材料が木材なので時間がかかる。

 土魔法を使い、傾斜を作ってから水路を作り、そこに排水すればいいのではという意見もあったのだが、今いる種族に土魔法が扱えるのがこれまた猫人族のみ。

 流石に、彼らにこれ以上負担を強いる訳にもいかないので木材を。という事になり、使っている内に腐食するだろうけど、新しく土魔法が得意な種族が来たら改築しようという話にしておいた。


 そうしてかなりの距離を木材のアーチが繋がり、見ている分には面白い。排水テストを行ったところ綺麗に流れていくので、水平器もないのにこの完成度は素晴らしいと思う。ただ……。


「これ傍から見たらヤバくない? 俺らの存在が敵にばれちゃうね」

「そうですね、やはりこうしてしまうと想像以上の規模になってしまいます。恐らくですがモンスターなどにも壊される事も多いでしょう」

 同行しているアギラールも懸念を抱いている。やはり、これはあまりいい状態じゃないよな……。うう、やっぱり排水専用の水路が必要かな。


「アレ、使うべきかな……」

「ホリ様? アレとは……?」

 なんでもないよ、と苦笑で応えるが脳内にちらつくのはあるポーション。パッサンGの力を頼るか……? いやまだ早い、体も病み上がりなのだし! 頭の中を占領するように筋肉の褌モヒカンが顔を覗かせる。


 その水路も、常時水が流れるように出来ればまだ使えるかもしれないけど、使うとしても風呂の排水だけだしな……。

 改善案があるわけじゃないから、当分の間は維持管理に気を配らないといけないな。

 一度浴槽に水を溜め排水のテストを行ってみたが、大きな問題もなかったのでそちらは概ね良好といっても大丈夫だろう。


 それから、また数日間を掛けて完成された浴場のチェックをし、最後に俺が排水の設備をぐるりと確認するように見回り、期待に満ち溢れた顔を見せてくれる彼らにサムズアップをすると、拠点中に響くほどの大歓声が上がった。

 様々な種族がこれほど協力して事を成すというのも中々面白い。

 浴場完成の祝宴、猫人の歓迎会、その他にも理由はあるがその日は宴会をやる事になり、まずは人数の少ない男性側が風呂を使わせてもらえるとの事。


 そして猫人族のおかげで広い浴槽に入ったたっぷりとしたお湯に全身を伸ばすように入り、呻くような声が出てしまう。この入浴時に漏れる声は人間だけかと思っていたが、ケンタウロスも上げるようだ。

 この浴場には三つの浴槽があり、一つ目は奥に行くと深くなる少し熱いお湯の物、二つ目も奥に行くと深めになるぬるま湯の物、三つ目は最初からかなり深い水風呂だ。三つ目の水風呂にはリザードマン達が主に使う。


「ホリ、蒸気風呂に全然人がいないぞ。どうするんだ?」

「ゼルシュ、それはまぁいいんだけど冷たい水のコーナーからいきなり熱い湯コーナーに入ってこないでよ。ぬるくなっちゃうでしょ」

「いや、この一瞬で火照る感覚が堪らない快感なんだ! わかってくれ!」


 このリザードマンの好みがわからない。

 それにしても、蒸気風呂というかサウナの人気がそこまでないとは残念だ。そろそろ仕掛けてみるとしよう。

「よし、サウナの力を見せつけるか。命知らずな挑戦者! ペイトンとゼルシュは強制参加だが、他にいるか!」

 よくよく考えなくても少し無理をすれば全員入れる大きさなのだが、こういうと彼らはノリがいいので全員参加してくれる。ちょろい。

 ペイトンとゼルシュは「えっ」と声を漏らしていたが、強制である。


「うぉ、久々に味わうとくるな」

 仕切るようになっている密閉空間。扉を開けると、即座に数名のリザードマンがギブアップしそうになった。室内では、木の桶に張った水から湯気が出続けている。これは猫人族のヒューゴーがコツを覚えて温度維持が簡単になったらしい。つまり常に熱いこの空間、更に……。

「ホリ様、この台座は一体何なのですか? 何か置くのでしょうか?」

 ペイトンが興味を示している台座、これの出番はもう少し後だ。

「まぁ、今は皆サウナを楽しもうよ。すぐ使い方もわかるよその台座」


 意外とリザードマン達が脱落しなかったが、全員かなりキテる。歯を食い縛るようにお互い我慢し合っているのが面白いな。そして、コンコンと扉が叩かれ猫人族の人達が鍋を持ってきた。そしてそこに入っている物とは……。

「ホリ様それは……? 石ですか?」

「フフフ、これに耐えられる者がどれだけいるかな?」


 俺は三つの台座にそれぞれ持ってきてもらった焼いた石が入っている鍋を設置し、水をかけた。途端に凄まじい音を上げながら、蒸気が部屋に充満していく。既に先程よりもキツイ、リザードマンはゼルシュ以外既に水風呂に駆け込んでしまった。


「よしゼルシュ、頑張ったご褒美に熱波の第一号をプレゼントしよう」

「よ、よし! 何をするか知らんが、かかってこい!」

 布を使い、焼いた石から放たれる蒸気を彼にぶつけるように扇ぐと、彼は流石にきつかったようでフラフラとしながら退出した。

 その後も熱波を耐えきれる者は現れず、一通りサウナを満喫したところで俺がサウナ室から出ると、再度ゼルシュが鱗を艶々とさせてサウナ室の前に戻ってきた。

「たまらん!! 熱波を味わった後に入る水風呂が最高すぎるぞ!! ホリ、もっと熱くしよう!!」


 中毒者になってしまった。


 他の人達にも意外と好評だったようで、ケンタウロスにも熱波の虜になってしまった者が数名いたらしい。昔いったサウナ店でやっていた熱波サービス、まさかこんなところで役に立つとは。

 


「蒸気風呂をこのように使うとは思いませんでしたよ。私もこれほど頭から水を被りたくなった事はありませんでした」

「オレグ、今日は次にメス達の番だからあまりゆっくりできないが、明日は我らが後だ。そうなれば存分に味わえるのではないだろうか?」

「おお、ゼルシュ殿。それなら明日は体がヘトヘトになるほどやってもいいですな!」と二人は言っているが、少し注意しておこう。


「サウナから水風呂は三回くらいまでにしておきなよ? 時間も少し置いてね、温度変化で体を壊しちゃうかもしれないし。これ破ったらサウナ禁止にするから」

 俺の発言を聞き、愕然としている彼らに少し教えておこう。

「でも二人共、いいのかな? 水風呂だけで済ませちゃって。あの火照った状態で飲む冷たい飲み物は最高だよ」


 彼等はそれを聞くや否や即座にサウナに閉じ篭ってしまった。他にも聞いていたケンタウロスやリザードマンが挑んでいく。

 蒸気風呂、まだまだ人気。現役ですね。


 後ろから猫人の男性、ヒューゴーが声を掛けてきた。

「焼いた石をああいった形で使うとは、こちらも好評になりそうですね」

「ヒューゴーさん、お疲れ様です。色々とさせてしまってすみません」

 サウナ室に飛び込んでくる者が後を絶たない中、俺達はそのまま浴場から退出した。もう楽しめる時間はあまりないのに……。女性陣からクレーム来たらどうしようかな?

 俺が着替えを済ませ、ヒューゴーと二人で浴場前で話をしていると、フラフラと体から湯気を纏いながら出てきた数名がリザードマンの魔法で給水して水を飲んでいる。氷も欲しくなるな。


「お湯の管理は大変じゃありませんでしたか? こちらとしても対応出来る事はさせてもらうので、何かあったらすぐ仰ってくださいね」

「ええ、大丈夫ですよ。我々猫人族も交代でお風呂を頂けておりますし、問題は蒸気風呂の空間が私には少し辛いくらいです。あの蒸気の湿気が少し苦手でして……」

 くしくしと顔を掻き、苦笑している。猫人族の男性は彼を含めて三人、負担になるような事は極力避けてあげたい所だな。

「そうですか、厳しいようなら蒸気風呂はやめて頂いても大丈夫ですので、言ってください。無理して続けるような物でもないですし」

「いえ、大丈夫ですよ。楽しんでいる方の為にも、出来る限り頑張らせて貰います。我々は建築などの力仕事であまり役立てませんしね」

 彼はそう言ってくれるので、少し甘えておくとしよう。


 女性陣が次々と集まり始めている、猫人達がサウナの使い方を教え合っているし、俺達がここにいると迷惑かもしれないな。

 随分前から、宴会場となってきているポッドの場所まで歩き始めるとしよう。


 今日の狩猟で獲れた巨大な肉の山が並んでいる、どうやら焼肉パーティーのようにするみたいだ。鉱石の板が並べられている。

 食事の用意をしてくれている人達に声をかけて、ポッドにも挨拶をしておこう。

「やあポッド、今日も場所借りるよ」

「おうホリ、別に勝手にすりゃええぞ。猫人の、体は大丈夫みたいじゃな」

「ええ、ポッド様。皆怪我の影響もなく元気にやらせてもらっております」


 おじいちゃん同士の会話か、邪魔しない方がいいのだろうか? 長くなりそうだし、別に良いか。

俺の体調面と猫人の状態、例のポーションの使用についてなど彼に聞いた。

 それぞれの健康面に問題はないが、ポーションはまだあと二、三日は使用するなと言われた。急に回復させた体を、まず馴染ませるように慣らしそれから使えという事らしい。


 ポッドの根に腰掛けて彼らと話をしながら暫くすると、お風呂を済ませた女性陣が満足そうな顔を浮かべてどんどんやってくる。料理班の女性達は後程入るらしいので、そろそろ宴会が始まる頃合いか。いくつか大きな火を灯し、宴会の時間が迫っているのがわかる。


 スライム君がいつの間にか用意していた酒を皆に配り、全員に行き渡ったのを確認したところで、ペイトンが俺に話を振ってきた。


「ホリ様、代表で挨拶を」

「ペイトン、また俺なの? ポッドでいいじゃんポッドで」

「ホリ、はよやれ」

 ポッドの言葉に、近くの者達が頷いている。やはり今回も逃げられないようだ。数回経験をしているが、やはり緊張する。深呼吸しておこう。

「ええ、本日はお日柄もよく……」

「お前さん、それ以外ないのか?」

 ポッドにいつものように突っ込まれた、やはり堅苦しくない方がいいようだ。猫人族もいるのに……。

「オホン! ええと、また俺が怪我をしてしまった事の全快祝い、猫人族という新たな仲間の歓迎、そして何よりその猫人族のおかげで風呂に入りやすくなった感謝を込めて、乾杯!」

 グラスを一気に傾けて、ゼルシュが……、あれ? 倒れない!? 彼自身驚いており、隣のト・ルースに興奮を伝えている。


「おぉ、蒸気風呂の効果か!? 酒を飲んでも眠くならないぞオババ!」

「ヒッヒッヒ、そりゃよかったねぇ。ほれ、もう一杯」


 任せろ! と言わんばかりにカップの酒を傾け、バタンと仰向けに倒れた彼をポッドの根に寝かせておいた。一杯飲めるようになるのか、サウナすげえ。

 風呂上りだからなのか? 皆の飲酒のペースが速い。肉もかなりのペースで無くなっている。

「ト・ルース、なんか皆、特に女性陣の酒の飲むペース早くない? どうかしたの?」

「ヒッヒ、あの子らは直前まで蒸気風呂で汗を流して、そのままここに来てるので喉が渇いとるんでしょう。あたしらリザードマンは流石に水を飲みましたが、ケンタウロス達なんて酒と飯の為に蒸気の中で鍛錬しとりましたよ」

 そういえば彼らはあまり肉を食べないって言ってたのに……。酒の入ったカップを片手にモリモリ食ってるぞ。いいのかそれで。

 だがやはりケンタウロス達の一番人気はスライム君の作るサラダだったようだ。スライム君が作る傍で順番待ちをしている。

 猫人族も馴染んでいるようで、リザードマンと談笑していて楽し気だ。


 ハーピー達と争うように肉を取り合っているのはアラクネ達か。仲が良いのか悪いのかわからない光景だな。ん……? ラヴィーニアとアナスタシアが二人でぐったりしている。珍しい光景だな、どうかしたのだろうか? 彼女達を介抱しているパメラに聞いてみた。

「蒸気風呂でお互いに我慢勝負をしていたようですよ。それで限界を超えてしまったようで……」

「あらら……、大丈夫? 二人共。どうして勝負なんてするのさ。それに、ラヴィーニアは暑いのダメだったでしょ? よくそこまで粘れたね」


 息も絶え絶えに、アナスタシアが口を開いてきた。顔の血色も良く少し色っぽい。

「こいつ……、氷魔法で体を冷やしながら勝負していたんだ……! それに気づいた時には私も限界だった、卑怯だぞラヴィーニアぁ……!」

 ラヴィーニアは顔色が変わるような事はなっていないが、気怠そうに顔だけ動かしてアナスタシアを見据えている。

「フン……、そうなった原因は、人の胸を指差して『化け物』って言ってくるからでしょォ……? やだわァ……、嫉妬するなんてェ……」

「貴様……! 先に言ってきたのはそっちだろ……!? 『尻の大きさに比べると胸が小さい』という言葉、忘れんぞ……」


 どうやらケンタウロスは種族的に走り回る事が多いから、胸がそこまで大きくなる人はいないらしい。むしろアナスタシアは種族の中でも大きい方だとか。説明してくれたアナスタシアの部下にお礼を伝え、心のメモ帳に書き加えておこう。


 そこからお互いに回復して、白熱するように言葉を交わしながら酒を飲み始めたので大丈夫だろう。

 皆が酒を片手にワイワイとやっている時、ふと少し前に見せて貰った芸を披露してもらおうとペトラを呼んだ。

「え! みんなのマネを……ですか!?」

「そうそう、前に見てて似てたから、他にもあるのかなって思って」

 以前に少し見せてもらった物真似を見てみたくなったのでやってくれないかと頼んでみた。お酒の席だし、ペトラはあまり飲まないから関係ないかもしれないけど。


 ペトラは少し悩むようにして、顎に手を当てている。

「他にも……ですか。あるにはあるんですけど……」

「おお、それじゃあ見せてよ。結構似てるし」

「わかりました、それじゃあ……」


 ペトラはキョロキョロと周囲を見回し、目的の人物に声を掛けた。

「トレニィア、少し協力してくれない?」

「……? いいけど……、どうしたの……?」

 トレニィアを連れ添い、俺の前にやってくる両名。彼女達が何か始めるとわかったのか、ギャラリーが囲むように彼女を眺めている


「ではまず……『ラヴィーニアさんによくやるエッチなホリ様』の模写をします!」


 えっ。


 そういうと彼女はトレニィアに飛びつき、しがみついた。そして大きく声を上げた。

「ヒィイイイン! ヒィィィイイン!」


 彼女が俺がよくやる小泣き爺の真似をすると、俺以外の者達が大爆笑をしている。爆笑せずに赤面してこっちをチラチラ見ている者もいるが……。そして、それを見ていた一人のシスコン次女が怒りを露わに俺の背後に立っている。

「ホリ……! 貴様どうやら死にたいようだな。安心しろ、苦しんで死ぬように加減してやるぞ」

「待って! 誤解だって! いや実際やってるけど待って!!」

 俺の手首にシュルシュルと糸が巻き付いてきて、その糸はレリーアが握り締めている。やばい、これはやばいぞ!


 俺とレリーアのやり取りを気にせず、ペトラは次の演目に移った。


「次に、『姉、ラヴィーニアさんに気付かれないよう変態行為をするレリーアさん』の模写をします」

「おいバカやめろ!!」

 俺は全力で手首に巻き付いてきた糸を引っ張り、レリーアの動きを制限してペトラに注目する、死なば諸共なのだ。彼女が模写する行動のド変態ぶりが生々しくて、パメラが即刻辞めるように割って入ってストップをかけて終了したが。


 初めて姉にドン引きされたレリーアが、失意のあまり何故か俺に八つ当たりをしてきた。理不尽である。


 俺もかなりの被害を被ったんですが……。

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