第43話 あやしいやつめ!
オレグを先頭に亜人の捕らわれているという森の、人間が野営をしている場所の近くにまでやってきたのだが、ここからが肝心だ。
まずあまり全員で距離を近づける訳にはいかない。こういう所に現れるくらいだ、相手にもそういう探知に長けた者がいるのは明確なのだから、安全マージンは取るべきだろう。
森の中で夜とは言え、慎重に事を運ぶんでおいて損はないと思うし、これからやる事を考えたら怪しまれたら即アウトなのだ。
警戒心が最高のところに俺が現れたら即座に「怪しい奴め! しね!」と槍でつんつんされるか、「身ぐるみ剥いでやる! しね!」と剣でつんつんされてしまう。
「さてと……、そろそろ別行動しようか。ゼルシュ、悪いんだけど少しついてきてくれる? 頼みたい事があるんだ」
「うん? それは構わないが……。よし、それじゃあ行くとしようか」
今この場に十人程、もう十人が別行動をとりイェルム、エンツォの二名がそれぞれのチームの上空でこちらを監視してくれている。
合図は空へ、彼女達に見えるように行うという手筈だ。
集団から離れ、俺とゼルシュは二人で森の中を歩いていく。
かなり遠くに炎の灯りが見え、微かにだが笑い声のような物も聞こえる。
「ゼルシュ、そろそろ行動を開始しよう。頼むよ」
「ホリ……、本当にやるのか?」
俺は地面でゴロゴロ転がった後に鞄から布を取り出したが、ゼルシュは俺に頼まれた事に気が重いのだろうか、苦虫を噛み潰したような表情を見せている。
「やるなら徹底的にやっておこう、それにこれだけやっておけば仲間が他にいるとも思われ難いでしょ」
俺はそういって、布を口に含み気合を入れて大きく息を吐き出した。そして、これからやってくる衝撃に備えて全力で歯を食い縛る。
視線でゼルシュに訴え、彼も同じ様に歯を食い縛りながら腕を振り上げ、俺に向けて振り下ろした。
「~~~~ッ!!!」
肩口から左腕にかけて、思い切り爪で肉を引き裂かれ、その焼かれるような痛みに必死で耐え、俺の頼みを聞いてくれたゼルシュが即座に腕の止血をやってくれている。
「こんな事、させないで欲しいと言いたいところだが……。俺の事を信頼している裏返しだと思っておくぞ。ホリ」
頷いて返しているが、少し荒々しく腕に布を巻きつけられている為、再度激痛に襲われ涙目になってしまう。優しく、優しくして! 痛すぎる! 慣れるまで少し時間がかかりそうだ。
そこから暫くして痛みに慣れ、少し余裕が生まれてきた。
「イタタッ……、ありがとうゼルシュ。悪いねこんな事頼んで。それじゃあそろそろ始めようか? いいかい? 俺も危ないけど、これからやる事を考えたらゼルシュもかなりやばいんだからね」
「ああ、逃げる事を最優先する。大丈夫だ、いざとなれば追ってきた奴らを全員殺す」
ゼルシュは現在、普段使う事が殆どない剣しか持っていない。機動力を確保する為なのだが、この自信はどこからくるのか。
「大丈夫そうだね。よし! それじゃあ始めようか」
「ああ、了解した」
俺とゼルシュは一つ頷き配置についた――
――人の輪の中心で、焚き火の炎が揺らめいている。
「ママ、今回は運がなかったすね、こんな連中しか獲れねえって」
痩せぎすな、だが眼を異常なまでにギラつかせる男が、自分達の収穫の成果を見て愚痴を零す。それを聞き、まるで対照的な丸々と肥えた男が口を開く。
「こんなんじゃ、食費にもならないよ。ちくしょう」
その二人のやり取りを聞き、舌打ちで返す女性。リーダーの彼女はかなり大柄で、くるくるとした長いそして少し傷んだ髪をガシガシと掻き、苛立つ感情をそのまま猫人族の少女にぶつける形で蹴り飛ばした。
呻く声と、蹴られた痛みを耐えるように歯を食い縛り、静かに泣いている少女はその理不尽な暴力を振るってきた相手を倒れて尚、睨みつける。
「フン、こんなんでも欲しがる奴はいるさ。それに中には若いメスもいるんだ、世の中には魔族や亜人を抱きてえって変態がごまんといる、そいつらに高値で売っちまえばいいんだよ!」
そう口にしている自分でもわかっている、そんな面倒をしても高が知れていると。力のある種族なら奴隷として価値があり、需要も多い。だが性奴隷は趣味嗜好、好みの問題や状態などで値段がかなり変わる。却って手間がかかり、損をしてしまう事もある。商品として、亜人の価値はかなり低いのだ。
苦労して手にした成果も奴隷商人に買い叩かれてオシマイだと。そう経験している為、彼女は苛立ちを隠す事なく捕らえた亜人達を睨みつける。
睨みつけられた亜人達も悲壮感を漂わせ、俯き、捕らえられた際に人間達に嬲られた体の傷に手を当て痛みを堪えていた。
「フン、いっその事面倒だから殺してしまうか? 荷車もないから時間もかかる事だしな」
白髪混りの、額の傷が特徴的な髭の男がそう口にし、捕らえられている者達に一層の絶望が襲ってくる。
「せめてミノタウロスやケンタウロス、オーガとかなら使い道も多いんだけどね。この前私が捕まえた奴は闘技場で人気らしいよ! 同族同士で戦わせる奴!」
少年のような出で立ちをした若い女性が、その話を始めようとした時に森から叫び声が木霊した。
「人間!! 見つけたぞ!! さぁ殺してやろう! 大人しく食われろ!!」
「た、たすけてくりぇー!」
震えるような、気の抜けるような悲鳴が聞こえてくる。
いち早くその声に反応をした白髪の男と若い女性。
「敵か? どうする?」
「見に行ってみようよ! もしかしたら獲物かもよ!」
「ボウイ、デェブ、ガァリ、見て来な! 獲物だったら逃がすんじゃないよ!」
それぞれが気の抜けた、面倒だなというのを隠しもしない返事をした事で、リーダーの女性は苛立ちを強め再度急いでいくように声を荒げた。
指名された三名は気配を殺しながら、叫び声のする方へと急ぐ。
「あれじゃないかな? リザードマン……だね」
「姉さんどうしやしょうか?」
「リザードマンなら高く、売れると思うな。食費になるよ」
「ガァリ、お前は少しは痩せないと。また太ったでしょ? そうだね、リザードマンの素材で作るバッグ欲しいし、やっちゃおう」
三人はそのまま飛び出し、今にも襲い掛かろうかとしているリザードマンを強襲した。
「へへへ、バッグ素材頂きぃ!」
「なんだ貴様ら!? この人間の仲間か!? 糞!」
巨漢な男が真正面からリザードマンを押さえ付けるように槍を振り下ろし、その槍の横から別の槍が飛び出してくる。
その攻防の間に、一人が常にリザードマンの死角、死角へと移動しながら弓を射る。
二回、三回と撃ち合い、二つの槍で隙をつくようにしても、そして弓で視界の外から狙いをいくらつけても、目の前のリザードマンはまるで全ての攻撃を読んでいるように剣で受け、身を捻るように躱し、時に尻尾で矢を叩き落とし、有効打には繋がらない。
だが多勢に無勢だったのか、リザードマンは旗色が悪いと察したのか。
「クソが! 覚えていろ!」
機を見ていたように、夜の闇の中へ逃げ込むリザードマン。
「あ、まてバッグ素材!」
声を出し少年のような女性が後を追いかけ……ようとしたところへ邪魔が入った。
「た、たすけてぇ……!」と腰にへばりついてきた
チッとホリにも聞こえる大きさの舌打ちをした女性は、即座に二人の仲間に声をかけ、リザードマンの後を追わせる。
「おい! あんたのせいで逃がしちゃったじゃないかよーもぉー!」
「す、すみません。怖くて怖くて……」
腰を抜かしているのか、中々立ち上がらない。その遅々とした動きに苛立ちを見せている女性は腕を引っ張り無理に起こした。
「あんた、こんなところで何してんの? まあいいや、とりあえずママのところ行って後は任せちゃおう、面倒だし!」
「は、はい。すみません……」
連れられてきた男性は周囲をきょろきょろとして落ち着きがないように見え、その男を睨みながら、リーダーの女性が口を開く。
「そいつは何だい? デェブとガァリはどうした?」
「んー? こいつがリザードマンに襲われててさ。革欲しかったんだけど逃げられちゃったんだ。んで、デェブ達に追わせてるー」
リーダーの女性が連れられてきた男性を、頭の先から爪先までじっくりと調べるようにしている。
「おいお前、何でこんなところにいるんだ?」
髭の男性が睨みつけるように質問を口にした。即座に戦闘に入れるように武器から手を離すような事はせず、警戒心を露わにして。
「は、はい。実は行商でこの近くを経由していたのですが、近くに潜んでいたリザードマンに襲われまして……。この森を必死に走って逃げてきたんです」
ホリは頭に手をやり、ぺこぺこと何度も頭を下げながら状況を説明する。
「行商……? 随分と変わった経路だね、この辺りを通るなんて馬鹿のやる事じゃないのかい?」
「は、はい。私も嫌だったのですが、商会の主に無理を言われまして……。荷車も壊され、手荷物のこの鞄くらいしか持ち出せませんでした」
鞄を見せるように手で前に出した時、隣にいた女性があっというまにそれを奪ってしまった。
「へぇー? かなり高級品じゃないの? 作りがいいのもあるけど、魔道具だよねこれ。何入ってるのさ?」
「た、大した物はありません。お酒と食料が少々と、グスタール硬貨しかありません」
金を持っている、と聞き鞄に手を突っ込んだ女性。そして教えられた中身を出し、財布と思われる袋を開いた。
「お、金貨あるじゃん。貰っとくね! 助けてあげた駄賃ってことで!」
「酒も貰っておいてやるよ。駄賃って奴でね」
「食料も貰っておこう。駄賃でな」
つまりは持っている物を全部巻き上げている訳だが、ホリはそれよりも別の事を頼み込んだ。
「は、はいそれは差し上げます。だからどうか、助けてください!」
リーダーの女性が、小さな酒の入った樽の蓋を壊し持っていた器で掬い口にした。上質な酒だと一口でわかるもので、その味に機嫌を良くする。
「うひょー、うまい! たまんねえ、こりゃかなりの上物だろ? おいお前、街まで連れて行ってやるからこの酒と同じもんを報酬に樽でよこしな! あと金もな! それなら助けてやるよ!」
それを聞いたホリは、頭を下げ頼み込み、条件にも了承した。
「因みに、いくらくらいになりますか……? 払えればいいんですが」
「そうだねぇ、このまま聖王国に帰って奴隷を売り飛ばしたいしね。あんたグスタールの人間なんだろ? それならグスタール金貨で二十枚ってとこかね!」
「ちょ、ちょっとお高いんじゃ……?」
法外な金額かはわからない、だが高級品の武器や大量の食料を購入できるほどの金額をサラッと提示されて、つい口から出てしまったホリ。
髭の男性が酒を飲みながら、軽く呆れるように鼻で笑った。
「フン、ならば何処ぞへ行くがいい。俺達はお前がどうしようがどうでもいいしな、そこらへんで野垂れ死にしてモンスターの餌にでもなるがいい」
慌てて謝罪をした後、条件を飲んだ彼に酒の力もあり上機嫌になったリーダーの女性。かなりふっかけたその金額が通り、今回の旅の収穫が乏しく、不運に苛立ってもいたが、ツキが回ってきたなと笑いが止まらなかった。
そして酒のおかわりをしようとした時に、がさりと茂みから二人の男性、デェブとガァリが戻ってきた。
「あ、デェブ! リザードマンはどうだった!?」
「へい、姉さん。すいやせんが逃げられました。やたらと速ェリザードマンで、深追いも危ねえと思い帰ってきやしたよ」
なんだよもー! と憤慨している女性に頭を下げている痩せた男性。
そして、髭の男が太った男に労うように声をかけた。
「ガァリ、お前達が助けたそこの男が食料を持ってたぞ。少し腹の足しにしとけ」
「ホントに? 運動したからお腹減ってたんだ。ラッキー」
ホリが持っていたパンや肉をそのまま頬張るガァリと呼ばれる男性。
彼らの名前と体格のギャップに目を見開き、「え、そっち?」と小声で呟いているホリは目的を思い出し、彼女達に質問を投げかけた。
「あ、あの……。皆さんはどういったパーティーなのですか? 後ろに捕まえている亜人は一体……?」
「うちらは
「ハハハ! その顔に産んでくれた親に感謝しろよな!」
リーダーの女性とデェブと呼ばれる男性にそう蔑まれるホリは、苦笑で応え心で泣いていた。
ホリが持っていた硬貨を自らの腰につけてある小袋に全て入れ、リザードマンを逃がしたという事にむくれている女性が口を開いた。
「まぁ、この森にリザードマンがいるのもわかったし、一回王国に帰ってこいつをグスタールに送ったらまた戻ってきてもいいね。リザードマンは高く売れるし!」
髭の男性が痩せぎすの、デェブという男性に酒を渡している。
「それはいいが、こいつを送り届けた金で団員を補充すべきだろう。先のオークの村を襲撃した時にそこそこの数を殺されたしな。使えない奴でも盾にはなるんだ、頭数は多い方がいい」
貰える報酬の使い道を考えている一同、だがホリは一つ息を吐いた。
こいつらが国から仕事を振られた人間ではない事、まずその一番ネックとなっていた不安要素が排除された。これで何が起きても国が動くような事はない。
だがそうなると、今度は捕まっている亜人をどうにかせねばと、ホリは怪しまれないよう、盗み見るように亜人達の状態を確認する。
怪我は人により程度がかなり異なる、軽く殴られているだけの者もいれば切り傷を布で巻き付けて手当をされている者もいる。一人突っ伏すように倒れ、様子が伺えない奴もいる。
そして全員共通しているのは、手足をロープのような物で拘束されていて、まともに動くことはできそうにない。
「おいお前、腰に下げてる剣を見せてみろ」
デェブという男がホリの腰の剣に目をつけ、それを自分によこすように手を出している。ホリは渋々とそれを渡すと、デェブはその浮き出るような目で剣を調べ出した。
「こりゃ割といい剣だな、手入れもかなり細かくやってやがる。おい、これもよこせよ」
ホリがいつも使っている剣はアリヤが丹念に手をいれている、どんな事に使っても切れ味を損なう事がないよう配慮の行き届いた剣を強奪に近い形で奪われるが、今はとにかく耐えるよう、ホリは笑顔でどうぞ、と彼に告げた。
「あ、これキレーじゃん! ねえこれも頂戴よ!」
「あ、いやこれは……」
少年のような女性、ボウイが目ざとく見つけた物はホリが剣を差し出した際、目についたのはその手首。
そこにつけられていたのはゴブリン達がお守りにとくれたブレスレットだった。
それを改めて見る為にホリの腕を掴み、捻り上げるようにして見やる。怪我をしている腕をそのようにされている為、かなりの激痛にホリは脂汗が滲み出している。
「痛ッ……、すいません、これは思い入れのある品なのでお渡しはできません。他の物は差し上げますので……」
「ハァ?」
ホリはその声を聞くと同時に、頬に衝撃が走り視界が暗くなるような錯覚を覚える。
自分の要求が拒否をされ、一瞬で沸騰したような怒りをそのまま拳に乗せ、ホリの顔を殴った女性はバランスを崩し尻もちをついているホリに再度詰め寄る。
「ねえ、頂戴よ! いいじゃん! お前がつけるより私みたいな女の子が着ける方がこれも喜ぶよ! ね? ちょーだい!」
「いや、すいません。これはどうしても差し上げられません。申し訳ないんですが……」
明確にされた拒否に、女性は一つ息を吐き尻もちをついているホリを見下す。
そして目の前にいるホリの、怪我をしているとみれば理解できる巻かれた布の箇所へ、蹴りを見舞ったのだ。
痛みに慣れ出し、刺激を与えなければどうにかという所まで落ち着いていたのに、新たに加えられた強い衝撃に、ホリ自身は涙目になりながら歯を食い縛り声を抑えた。
「ボウイ、やめな! そいつは金ヅルなんだ、報酬貰うまでは生きてて貰わないとだろ? なぁに、金が入ったらそんなブレスレットなんていらなくなるさ」
「それもそっか、手首切り落としてブレスレットつけれなくしてやろうって思ったんだけどなぁ。まぁいいや、ごめんねおにーさん」
そう言いながら、デェブがホリから奪った剣をいつの間にか手にしている少年のような女性は、笑顔でホリに謝罪した。
とりあえず難を逃れたホリだが、その後もとにかく殴られたりなど何をされても耐え、機を待つ。
奪った食べ物と酒で気を大きく、緩んでいる内にホリは捕まっている者達に少しでも近寄る事を狙っている。
「すいません、ちょっと用を足してきますね」
「ああ!? ケッ、呑気なもんだな。これだから商人ってのは嫌いなんだ」
痩せた男性にそう言われ、頭を下げながら茂みに入るホリ。そして用を足して戻り、捕まっている者達に近い位置に腰を下ろす。
「すみません、少しフラフラとするので、先に休ませて頂きます」
「ああ、勝手にしな。どうせうちらももう寝る」
リーダーの女性が手をひらひらと躍らせるようにしてホリにそう告げ、ホリもそれを聞き深々と頭を下げて焚き火から少し離れるような位置で体を横にした。
ホリは目と鼻の先程にいる捕まっている人達、一人一人に視線を向ける。
誰も彼もが下を向いていたり、ホリ達を視界にいれないよう別の方向を向いていた。
ただ、リーダーの女性に先程蹴り倒され、そのまま起き上がる事もしなかった一人の少女がホリと視線を交わす。
少女は視線を外す事もなく、ジッとホリを見続けている。
ホリは内心ガッツポーズをし、その子に少しアクションを見せる。まずは静かにするように口元に指を一本立てた。
ホリが見せた仕草に気付いたのか、尻尾を少し動かす少女。
ホリはそれから風に掻き消えるような声で、小さく小さく彼女に語り掛けた。
「聞こえる? 聞こえてるなら頷くだけでいい。どうだ?」
そう消え入るような声で呟くと、
「君達の仲間に頼まれて、助けに来たんだ。もうすぐ、あいつらは眠る。そうしたら逃げよう」
少女は小さく頷く。魔族の特性か、猫人の特性か。ホリの声を他の数名も聞こえているように、尻尾が反応している。
「あまり、派手に動かずに。一番近い人、これから貴方に短剣を渡す。それで奴らが休んだら、ロープを切るんだ。そして合図をするまで待っていて。できる?」
ホリの声に気付いた数名は静かにゆっくり頷き、ホリの行動を見守っている。
「いいかい? 絶対に声を出すな」とホリが口にした次の瞬間には、ホリはマントを頭まで被り、その効果により姿を消していた。
焚き火をしている所から少し離れ、光源の少ない空間で消えたホリに捕まっている者達は少し息を漏らすが、言われた通り声は出さない。ホリはただマントを頭まで被り、魔力を込めているだけなのだが知らない者からしたら不思議な光景だろう。
そして出来る限り音を殺し、這いつくばるようにして一番近くの女性の足元にナイフを置き、元の位置に戻る。戻った際にマントを裏返し、再度狸寝入りを決め込む。
「ん?」
「どうした? デェブ?」
という会話が聞こえてきた。それを聞いたホリは心臓が飛び出るんじゃないかという程高鳴っている。小市民には過ぎた行為なのだ。
先程用を足しておいたのも、場所を変える意味もあったがこれからやる行動の際に、恐怖により大人の尊厳を損なう事のないようにしておいたのだ。
「なんか翼の音が聞こえたような気がしてよ……? 気のせいだったか」
もしかしたらハーピー達が状況を見て援護してくれていたのかもしれない。とにかく何とか難を乗り切ったと大きく、だが静かに息を吐いた。
ホリから渡された短剣を静かに足で手繰り寄せ、そのまま隠すように手に持った女性を確認したホリは、再度消え入るような大きさの声をかける。
「いいかい? 焦っちゃダメだよ。大丈夫、絶対助けるからね」
何度も頷く少女、ホリを見ている数名の亜人達。
焚き火を囲み、ホリの持ってきた酒に酔いしれている集団が寝るまでの間に、ホリは小さく消え入るような声で何度も亜人達に語り掛け、励ましながら作戦を説明していく。
後は奴らが寝静まるのを待つばかり。
ホリと亜人達の夜はこれから本番を迎える――
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