第173話 二人の書~【ケビン】とコレット・5~

 俺からすれば、2人のせいだと思うがな……。

 ファルベインが死霊魔術ネクロマンシーを使ったのが事の発端ではあるが、ナシャータがそれを乱す行為を取ってしまったから不死モンスターが暴走して、結果グレイ達に迷惑をかけたんだからな。

 ただ、気持ちよく寝ている時に不快な起こされ方をされれば怒るのもわかるが……。


『……ん?』


 死霊魔術ネクロマンシー

 ナシャータの魔力?

 暴走?


『……まさか……おい! ナシャータ!』


「いやいやいやい……ん? なんじゃ? ……って、ああ! 急に呼ぶから今何回「いや」と言ったのかわからんようになったのじゃ!」


 そんなのどうでもいいし!


「うっし! 俺の勝ちっス!」


「くそ~……」


 なんでいやいやの言い合いに勝ち負けが存在しているんだよ。

 つかファルベインは喜びすぎだし、ナシャータはめちゃくちゃ悔しがっている。

 意味が分からん。


「……で、なんじゃ? 勝負の邪魔をしたのじゃ、くだらない話じゃと怒るのじゃ」


 そんな事で怒られても……なんか理不尽だな。


『あー……なんだ、俺がスケルトンで復活したのって……』


「何じゃそんな事か。わしもお前の存在は不思議じゃったが、あいつが話していた事でわかったのじゃ」


 あいつ、つまりファルベインか……。

 ああ……俺の予想通りっぽい。


「あやつの 死霊魔術ネクロマンシーとわしの魔力で起きた暴走で、ケビンが生まれたんじゃろうな」


『やっぱりか!!』


 俺ってそんなアホな事で、この姿になったのかよ……。


「じゃあ、俺らはそこのスケルトンの親みたいなもんっスね」


 こんな父親と母親は嫌すぎる!!


「わしは骨の子供はちょっと……」


『俺だって、ウロコの生えている母親は勘弁だ!』


 あと、あんな悪臭を放っている父親も!


「何を!? このウロコの質を保つのに苦労しておるのじゃぞ!」


 そんな事知らねぇよ……ウロコはウロコだろ。


「そうだー! まいにち、ポチがなめてきれいにしているんだぞ!」


『ちょっ!?』


 いやいやいやいや! 確かにダイアウルフの姿でならそれでいい!

 だが、人型の状態でそんな事をしているのはビジュアル的にやばくね!?


「……」


 まずい、コレットはポチの元の姿を知らないから額にしわを寄せちゃっているよ。

 俺が教えたとか、変に勘違いされる前にちゃんと言っておかないと!


『コレット! ポチは犬なんだ! だから……』


「いぬじゃない! おおかみだ!」


 どっちでも変わらんっての!

 というか、俺も犬ってなんだよ!

 ますます、誤解されそうな表現を言ってどうするよ!


『いや! 違っ! だから――』


「……あの、ケビンさんがその暴走でスケルトンになったのなら、他のスケルトンやゾンビも同じような事が起きているはずですよね?」


『――つまりだな……へ?』


 コレットの考えていたとこは、そこだったんか。良かったー変に勘違いされなくて。

 でも、確かに言われてみればこいつ等……。


『うああああ……』


『俺の様に、自我がある様に見えんな』


「そうなんですよね、声も聞こえませんし……」


『カタカタカタ』


 もし自我があれば、俺みたいに操られる事もないし、しゃべる事もできるはずだ。

 ……にしても、声が伝わる前って俺もあんな感じで歯を鳴らしているだけの状態だったのか。

 そりゃ全然みんなに通じない無いわけだ。


「そこの操られていない、しゃべるスケルトンは存在自体が特別なんじゃよ」


 俺が特別な存在だって?

 確かに俺は自我をもっているし、しゃべれるし、全然違うものな。


『俺が特別な存在……じゃあ、俺には何かすごい力が眠っていたり?』


 実は英雄の血筋だったとか?

 なーんてな。


「そうかもしれんのじゃ」


『……え? マジデ?』


 あれ? 普通ならここで、そんなわけないのじゃ! とか言われるのがオチなのに。


「本来、不死者は何かしらの理由で霊界から魂が出て来てしまい自分の体に戻ってしまった者じゃ。じゃが魂が戻ろうとも、肉体はすでに朽ちているから自我を持てずただ彷徨う者になるのじゃ。じゃが、何故かケビンは自我を持っているのじゃ……実におかしいのじゃ」


 そう言われると、確かに特別な存在なんだな、俺って……。

 しかし、霊界ねぇ……んー全然その時の事は覚えていないな。


『俺、その霊界にいた時の記憶がないんだが……』


「さすがそこまでわからんのじゃ……まあ大方、何も考えずにぼけ~っと無の状態でいたんじゃろ」


 ぼけ~って……いや、待てよ。

 そういえば、やたら綺麗な花畑の上をふわふわしていたような……そんな気がする。


「なんにせよ、こやつらは死霊魔術ネクロマンシーで無理やり霊界から魂を引っ張ってこられた上に、操られておるのじゃ。声なんぞ聞こえるわけがないのじゃよ……」


「そう、なんですか……」


「確かにすげぇ力だが、死霊魔術ネクロマンシー……気分のいいものじゃないな」


 だがそのおかげで、俺がここに居る……。

 複雑な気分だな。


「なんか、俺って悪者みたいでひどい言われようっスね」


 人間を滅ぼそうとした魔神が、それを言うか。


「こやつらも無理やりこちらに呼ばれたから不憫じゃの、送り帰してやりたいが……」


 送り帰す?

 霊界に?


『お前そんな事が出来るのか?』


「一応は出来るのじゃが、ここじゃとな……仕方ないのじゃ。皆、わしについてくるのじゃぞ!」


『「「「え?」」」』


 ナシャータは、何をする気――。


「エアーショット!」


『があああああああ!』

『カター!』


 後方のゾンビとスケルトンをナシャータが魔法でぶっ飛ばしたよ!

 さっき不憫だとか言ってなかったか!?


「ほら、ぼさっとするな! 行くのじゃ!」


『よっよくわからんが、ナシャータに付いて行くぞ!』


「あっはい!」


「何なんだ? ああ、もう! ほれ、ジゴロ爺さん行くぞ! ……って、なんか静かだと思ったら喚き疲れたのかぐったりしているよ。まぁその方が運びやすいがな、――よっと!」


「……ハッ! 突然の事で茫然としてたっス! お前らさっさと追うっスよ!」


 ナシャータは一体、何処に何をしに行く気なんだ!?

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