第102話 コレットの書~魔力の鎧・1~

 ◇◆アース歴200年 6月19日・夜◇◆


 よし、それじゃ後でさっそく明日遺跡に行く準備をしなくっちゃね。

 今日休んだ分、しっかり頑張らないとね。


「……あっ、コレットさん。ちょっといいですか?」


「はい、何ですか?」


「この漢方薬を作った神父様の事をお聞きたいんですけど……」


 神父様の事を? あ~さっきこの漢方薬をギルドに置こうかしらとか言っていたっけ。

 ん~別に話してもいいとは思うけど、この漢方薬は今までない色んな……そう、すごく色んな意味で飲んだ事がない。

 もし、私の思うように秘薬を作り出したのだったら簡単に話していいものかな……。


「無論、情報料は支払います。とは言ってもギルドからの支払いになりますから、今すぐには無理ですが……この位は出せるかと……後は事がうまく運べばさらに追加金が支払われると思います」


 キャシーさんが右手の人差し指を立てた。

 1千ゴールドか、神父様の事を話すだけで……。

 いやいや! お金で神父様を売るなんてやっぱり――。


「ちなみに、指1本は1万ゴールドになります」


「神父様の名前はホセ・パーカーです」


 ごめんなさい、神父様!

 今は、軍資金が少しでも必要なんです!


「で、妻の名前はマルシア・パーカー、シスターをしていまして2人は孤児を引き取っています。それが私、ヘンリー、マリー、ブレンで四人姉弟です。住んでいる所はアカニ村のボロい教会です。神父様の趣味は独学で薬を調合する事で、後はお尻に――」


「コレットさん、ストップ! そこまでは聞いてないですから、と言うかそれ以上は聞いちゃいけない気がする……あっ後、この漢方薬を少し分けて頂きたいんですよ。ギルドに報告するのに現物があった方が助かるんです」


 うっこれを渡すのか……。

 さすがに、そればかりはまずい気が――。


「さすがにこれは渋い顔になっちゃいますよね……。けれども、私も引けないので……では、現物の提供金として更にこれだけの追加どうでしょうか! ちなみに指1本は先ほどと同じです!」


「どうぞ、お納めください」


 本当にごめんなさい、神父様!

 だってキャシーさんってば右手の指を3本立てちゃうんだもの!

 これは、ケビンさんを探すための軍資金なの! だから許して!


「ちょっ! さすがに全部はいただけませんよ。……えと~あ、あの小瓶に頂いてもいいですか?」


 小瓶? ああ、聖水を入れてあった小瓶か。

 使った後、何か勿体なくて取って置いたんだよね。


「はい。別に構いませんよ」


 とは言っても、全然使い道が無くて何となく机の上に並べてあったしまつ。

 まさか、こんなところで役に立つとは思わなかった。


「それじゃこれに注いでっと……これでよしっと。ありがとうございます!」


〈……現物という切り札ゲット! これで神父様は言い逃れできないわ〉


「? キャシーさん、今何か言いました?」


「いいえ、何も~」


 確かに声が聞こえた気がしたんだけど、空耳かな?


「明日ギルドに話を通しますので、お約束の支払いは2~3日後になると思います」


「ありがとうございます!」


 やった、臨時収入だ。


 ――バーン!!


「「きゃっ!!」」


 何々!?

 いきなり部屋の扉が吹き飛んだんですけど!


「キャシー!! 今医者を連れて戻ったぞ! コレットの容態……は……え?」


 グレイさんが扉を蹴り飛ばしたのか。

 まったく、入るなら静かに入ってほしいよ。びっくりしたじゃない。

 というか、この壊れた扉の修理費ってグレイさんなのか私なのか……もし私だったら臨時収入分が消えちゃう。


「何で……コレットが立っているんだ……?」


 あ、そうか。グレイさんは私が倒れたから、お医者様を呼びに行ってくれていたんだっけ。

 ちゃんと元気になった姿を見せないと。


「私、病気が治っちゃったんですよ!」


「……はあ!? いや、泡吹いていたし……何がどうなっているんだよ、キャシー!」


「え~と……ですね、グレイさんが出て行った後に――」



「――と言うわけなんです」


 キャシーさんが今までの事をグレイさんとお医者様に説明したけど……。

 2人とも信じられないって顔をしているわ。


「なんじゃそりゃ!? そんな事があるのか! しかし、現にコレットは動き回っているし……わけがわからんぞ」


 ですよねー。

 考えたら、泡を吹いて倒れたのを見ているのに数十分で戻ってきたら元気になっていた。何て事が起きたら私も混乱しちゃう。


「間近で見ていた私も、最初は信じられませんでした」


 とは言っても、キャシーさん。

 すぐに冷静になってこの漢方薬を交渉してギルドに置くどうかって言っていませんでしたか?


「そんな薬があれば、医者は苦労しないんだがな……。しかし見る限り、確かに元気そうだが……すまないがコレットさん一度身体を診せてもらってもいいかい?」


 ええ、私は元気だって言っているのに。


「そうだな、念の為に診てもらえ」


「ですね、せっかく来ていただいた事ですし。ねっコレットさん」


 これは断れない雰囲気……仕方がないか。


「……はい、わかりました……」


〈よし、お医者様の診断書を頂ければより確実ね〉


「? キャシーさん、今何か言いました?」


「いいえ~。ほらグレイさん、外に出ますよ」


「押すなよ、わかっているって」


 おかしいな、また空耳かな?

 耳を診てもらった方がいいかしら。



「で、どうだった?」


 健康な状態で触られるのって、お医者様が相手だとしても何だか恥ずかしかった。


「……現状は健康そのものだな。耳にも異常は全く見当たらん」


「耳?」


「ああ、私個人的な事なので気にしないでください」


 異常なしか。

 じゃあ、あれは何だったんだろう。


「んー……しかし、どうも引っかかる……一晩様子が見たいから明日の朝一に私の所に来てほしい」


「えっ!」


 疑り深いお医者様。

 せっかく朝一から遺跡に行こうと思っていたのに、病院に行っていたら時間が……。

 よし、無視して遺跡に行っちゃえ。


「……おい、コレット。お前、今病院に行かず遺跡に行こうと考えただろ?」


「ギクッ――ヤッヤダナ~ソンナワケナイジャナイデスカ~アハハハハ」


 グレイさんってば何で私の考えている事がわかっちゃったの!?


「コレットさん。お医者様が言う事なんですから絶対に! 病院に行ってくださいね」


 キャシーさんってば笑顔なのに何で目が笑っていないの!?

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