第93話 コレットの書~薬・1~

 ◇◆アース歴200年 6月19日・昼◇◆


「……んん……ん~?」


 あれ? もう朝?


「……でもないみたい、日が高いから……お昼前あたりかな?」


 私ったらそんなに寝ちゃっていたんだ。

 我ながらよく寝たものね。


「うわ、すごい寝汗……」


 こんな時間まで寝ていたのとこの寝汗……通りで喉がカラカラになっているはずだわ。

 え~と……水、水。


「――よいしょ……おっとと」


 まだ立ち上がっただけでもふらついちゃうな。

 まぁ昨日の夜に比べたら立ち上がれる分少しは良くなっているみたいだけど。


「ゴクゴク――プハッ」


 あ~水がおいしいわ、体に染み込む感じがする。


「ふぅ……さすがにこの服は着替えないといけないわね。後、体も拭きたいけど……」


 今からお湯の準備して、自分で体を拭くと考えると辛いものがある。

 う~ん……着替えだけ済ませちゃおうかな……でも、昨日そのまま寝たのもあって汗臭いんだよね。


「ハァ、こんな時にシスターがいたらな……」


 こんな時って1人だと心細い……何だか教会に帰りたくなってきちゃった。

 うう……みんな~……。


 ――コンコン


「う?」


 ノック? 誰だろ。

 どうしよう、今はあまり人と会う元気がないし汗臭いのも……寝たふりでもしようかしら。


《――返事がないですね。コレットさん、まだ寝ているのでしょうか?》


 え? この声はキャシーさん?

 なんでここに?


《――かもしれんな》


 あら、グレイさんも一緒にいるみたい。


《まぁ合鍵はあるし、とりあえず入るか》


「えっ!?」

《えっ!?》


 ちょっ! 何、人の部屋に勝手に入ろうとしているのよ!?

 いや、それ以前に――。


《さすがにそれはまずいですって! というか何で合鍵を持っているんですか!?》


 そう! そこ!

 何でグレイさんがこの部屋の合鍵を持っているのよ!?


《これか? これは薬を届けに来た時、自分が寝ていたら薬を部屋に置いといてほしいってコレットに言われたから預かったんだよ》


「……あ」


 そういえばグレイさんが帰る前にそう言った様な……。

 意識が朦朧していたとはいえ、男の人に部屋の合鍵を渡すなんて……私の馬鹿!


《……》


《ん? 何だよ、その目は……あ、本当だって! この合鍵も薬を届けたら返すし……ってキャシー! 何をメモっているんだよ!?》


 今はそんな事を考えている場合じゃない。

 早く説明しないと――。


《今度の会議でちょっと……気にしないで下さい》


《気になるわ! ちょっとなんだよ!?》


「今、開けます! 開けますから!」


 グレイさんが今後まずい事になっちゃいそうな気がする!



「――という訳で、私が合鍵を渡しました」


 2人を部屋に入れたけど、今の騒動でまた熱が上がったかもしれない……。

 結局またベッドで横になる羽目になっちゃった。


「そうでしたか、コレットさんが仰るのならグレイさんの言っていた事は本当の様ですね」


「何でコレットの話なら信じるんだよ……」


 良かった、どうやら誤解は解けたようね。

 それにしても、キャシーさんもグレイさんも私服だから物凄く新鮮だわ。


「あっと、突然来てごめんなさいね。コレットさん、容体はどうですか?」


 今更、容体を聞きますか!? そう思うなら病人の部屋の前で大声を出さないでほしいですよ!

 おかげで熱が上がっちゃいました!


「あ、いえ……体は昨日よりはだいぶ楽になりました」


 ――とは言えるわけもない、原因の1つは私自身なんだし。


「……えと、それで2人一緒なのは」


 ギルドで2人が話してるいのは見るけど……。

 ハッ! もしかして2人って付き合っ――。


「ああ、宿前でばったり会ったんだ」


 何だ……がっかり。


「俺は薬を届けに来たんだ」


「私はお見舞いに来ました。今日は非番なので」


「え? お休みなのにわざわざ……すみません」


 すごく申し訳ない気分。


「気にしないで下さい。それにコレットさんはリリクスに来たばかりですから、お1人じゃ心細いかと思いましたし」


 まさにその通り、キャシーさんの優しさが本当に嬉しい。


「さてと、それじゃ準備をしますからちょっと待っていてくださいね」


 へ? 準備?


「あの準備って、何を?」


「コレットさんの体を拭く準備です。1人だと色々辛いでしょうから、私が手伝います」


「えっ!?」


 すごくありがたいけど、さすがにそこまでしてもらう訳にはいかないよね。


「あの、お気持ちは嬉しいですけど……そこまでご迷惑をおかけする訳には……」


 お見舞いだけで十分ですよ。


「いえいえ、困った時はお互い様です。それに病気の時だからこそ体を綺麗にしないと治るものも治りませんよ」


 そしてこの笑顔である。

 この人は女神様かな? もう涙が出ちゃいそう。

 ここまで言われると、逆に断る方が失礼だわ。


「……じゃあ、お願いします」


「はい。と言うわけで、申し訳ありませんがグレイさんは部屋から出てもらえますか?」


「言われるまでもなく、今から出ようと思っていたよ」


 あ、グレイさんの存在をすっかり忘れていた。


「えと、すみません……」


「別に謝る事じゃねぇよ。薬はここに置いておくから、キャシー後は頼んだぜ」


「は~い」


「それじゃ、また夕方くらいに様子を見に来るからな」


 ――バタン


 行っちゃった。

 何だかんだでグレイさんも色々してもらっちゃっているから、今度お礼をしないといけないわね。

 って……あれ? 待てよ。グレイさんに対してまだ何か貰わないといけない物があったような……なんだろ、薬はそこにあるし――。


「ああああああああああっ!」


 とんでもない物を返してもらっていなかった!


「きゃっ!? どうしたんですか? 急に大声なんて出すと体に障りますよ」


「グレイさんから、この部屋の合鍵を返してもらっていない!!」

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