第80話 コレットの書~不調・4~

 どうしよう……どうしよう……。


「おーい、コレット。何しているんだ? 遺跡の中に入るぞー」


「あっはい!」


 ああ、呼ばれている。

 え~と……とっとりあえず残っている分だけでも飲んでおこう。

 ここまで来たんだから、今日はこれで乗り越えないと!


「――ンッ!」


 ……もはや口の中を湿らす程度なだけで、ただただ口の中が苦くなっただけ……全然効果が出なさそう。

 う~どんどん体が重くなってきている気がする。


「あっ! そうだ、思い出した。私が寝込んだ時、神父様はこんな事を言っていたじゃない」


《いいかい、コレット。病は気からと言って、病気は心の持ち方しだいで軽くもなるし、重くもなるんだ。だから今は苦しいだろうが心を強く持つんだ、必ず元気になると》


 そう! 病は気から!

 よし、それじゃさっそく。


「私は元気だ、私は元気だ、私は元気だ、私は元気だ、私は元気だ、私は元気だ――」


 こうやって、自分に言い聞かせてっと……。


「何か、コレットさんがブツブツ言いながらこっちに来たっスけど……」


「……本当に大丈夫なのか、あいつは?」


「私は元気だ、私は元気だ、私は元気だ、私は元気だ、私は元気だ、私は元気だ――」


 うん、言い聞かせていたら体が軽くなった……様な気がする。


「どう見ても、やばいと思うっス……」


「だよな……おい、コレット」


 ええ……今は話しかけないでほしいのに。


「なっなんですか?」


 せっかく気持ちが出来てきたのに、どうして止めちゃうかな。

 

「さっきといい、今といい、どう見ても様子がおかしいんだが……やっぱり体の調子が悪いのか?」


 まずい! そのキーワードを聞いちゃ駄目だ!


「いいえ! 私は元気です! なのでさっさと遺跡に入りましょう!」


 ここは強引に遺跡の中に入って誤魔化しちゃえ!


「ちょっおい、先に中に入るなよ! ……うーん、やっぱり調子が悪いようだな」


「どうするんスか?」


「あ? どうするも何も、すぐに追いかけて、捕まえて、強制送還だ!」



「はい、確保っス」


「よくやった。にしても中に勝手に進むなよ」


「うう……」


 マークさんに羽交い絞めされてしまった。

 ……やっぱり、グレイさんの目を誤魔化せなかったみたい。

 くっあの時、漢方薬さえ補充していれば!!


「まったく、調子が悪いなら最初から言えよな」


「……でも漢方薬を呑みましたし、病は気からという事で自分を元気だと言い聞かせていましたし……」


 対処は完璧だったはずなのにな。


「いや、漢方薬といっても万能薬じゃねぇんだから、すぐに良くなるわけがないだろ……後、ブツブツ言っていたのはそれが理由だったのか……」


「とは言ってもコレットさん全然効いてないみたいですよ? 体が熱いっス、熱が出てきたんじゃないっスか?」


 え、そうなの?

 う~ん……色々やりすぎて、もはや自分でもよくわからない感じ。


「確かに顔が赤いな。とにかく、街に戻――」


『カタ! カタカタカタ!!』


 この歯を鳴らす音は……毎回、鳴らさないと気がすまないのかしら?


「――させてはくれないようだな。入り口へ戻る通路を塞ぎやがった」


 はいはい、スケルトンが襲って来たんですよね。さすがにもう慣れてきたわ。

 それにしても、まだ入り口の近くなのにもう出て来るなんて始めて――。


「「「………へ?」」」


 何あれ……スケルトンはスケルトンだけど……。


『カタカタ! カタカタカタ!!』


 皮の鎧を着て、腰ミノを巻いてる物凄く変な格好したスケルトンが目の前に。


「あっあれは何なんですか!?」


 さすがにあれは不気味すぎる!

 なんだか、見てたら寒気がしてきたし。


「俺にもわからん! あんな珍妙な格好をしたスケルトンなんか見たことがねぇよ! おい、コレットを下ろして戦闘体勢をとれ!」


「わかったっス!」


「コレットは俺達が時間を稼ぐ間に転送石の準備を!」


「はい!」


 すごく嫌な感じがする、早く準備をしないと。


『カタカタ! カタ――ガッ!?』


 ん!? 自分の左手で自分の顎を下から上に押して、鼻の穴に指を入れた。

 口を押さえ込んでいる感じだけど、あの行動に何の意味が? 顎でも外れそうだったのかな?

 いや、そんな事はどうでもいいって! 転送石~転送石~はっと。


「あ、こっちに来たっスよ!」


 うああああああああ! あの格好でこっちに走ってきた!

 色んな意味で怖い、怖すぎる!

 今日は逃げた方がいい、絶対に関わっちゃ駄目だ!


「おらぁ! ――えっ?」

「この! ――えっ?」


「――えっ? うそ……」


 不気味スケルトンがジャンプして2人の攻撃を避けた、そんな事があるの? 信じられない……。

 ――着地して、こっちに走って来た……?


「しまった! 最初からコレットが狙いだったのか!!」


「コレットさん!! 早く逃げるっス!」


 え? 私が狙いだったの?


「――あ……」


 目の前に剣を振りかぶろうとしている、不気味スケルトンがいるのに……動けない。

 突然な事過ぎて頭が真っ白だし、体も反応しない。


「コレット!!」


「コレットさん!!」


 私、斬られ――。


『――カタカタカタカタカタカタカタ!!』


 ――パーン!


 ……へっ? 顎を押さえていた指が弾け飛んだ?


『カタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタ!!』


 何かものすごい歯を鳴らしているけど、それって自分の指を壊してまでする事なの!?


『カタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタ!!』


 今度は歯を鳴らしながら、変な踊りを始めたし。

 ……私は一体何を見せ付けられているのかしら。


『カタ?』


 あ、止まった。


『カタカター!』


 残った腕を上げて……何か喜んでいるみたい。

 そんなに踊りを見せたかったの? さっきまで私を斬ろうとしていたのに?


『カタカタカタカタカタカタカタ、カタカタカタカタカタ!』


 ……歯を鳴らしながら走って奥まで行っちゃった。

 もう何がどうなっているのか、まったく訳がわからないんだけど。


「……え~と……私は……助かった、の?」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る