第64話 コレットの書~宝箱・7~

 それにしても、この世界には私の知らない生き物が色々いるのね~。


「でも、そんな便利なものがあるんだったら何で普及していないんですか?」


「ああ、それな。理由は様々ある、まずは皮の入手が困難なんだ。捕まえても皮の性質上、剥ぐ事なんて無理だからな」


 そうか、刃物で剥ごうとすると硬化しちゃうんだものね。

 あれ? じゃどうやって皮を手に入れるんだろ。


「でも、剥がないと皮なんて手に入らないじゃないですか」


「トカゲだからな、脱皮した皮を回収するんだ」


 あ~なるほど、トカゲの習性を利用するのか。


「しかし、こいつは特定の場所に巣を作らずあちこちに移動するから探すの大変なんだ」


 それはまた面倒くさいトカゲな事で。


「ん? それじゃ、どこにも行かないように生け捕りにして、飼育すればいいんじゃないんですか?」


「ギルドも昔に飼育しようとしたらしんだが……予想以上に繊細らしくてな、捕まえて檻に入れたら2~3日で死んじまったらしい」


「……そうなんですか」


 皮はすごいけど精神的に弱い。

 生命力が強いのか弱いのかさっぱりわからないトカゲだわ。


「そして、脱皮した皮の性能は1度限りの使い捨てなんだ。使い回しが出来ないのも普及出来ない理由の一つだな」


 なるほどねぇ、それは確かに普及しないはずだわ。

 ……というか話を聞く限り、ミスリルゴーレムのコア並みにレアのような。


「あの、話を聞いていると……どうもプロテクションリザードの革って高級品のように思うんですけど……」


「そうだな、俺の店だと革付き防具は100万ゴールド前後から売っているぞ」


 あ、親父さんが戻ってき……えっ? はっ!? ひゃっ100万ゴールド!?

 やっぱりコア並みのレア物じゃない!!

 そんな物が私の鎧に付いていたなんて……ん? ちょっと待って、何でそんなレア物が特別割引とはいえ、たった10万ゴールド買えたの?


「え~と……親父さん、一つ疑問があるのですがよろしいですか……?」


「あん? 何だ?」


「どうしてそんな物を10万ゴールドで売ってくれたんですか? 特別割引にもほどがあるんですけど」


 むしろ何か怖い。

 タダより高いものはないって言うし、まぁタダじゃなくて割引なんだけど同じようなものだよねこれ。


「あーその事な。お前らから渡されたあの馬鹿弟子の鎧を見たら穴埋めの為に革が張り付いていたんだ、それがプロテクションリザードの革だったんだ」


 へ? あのゴミに!?


「恐らく知らずに普通の革として使ったんだろうな、縫い付けたらわかったんだろうが接着剤でくっ付けてあったし……別にそのまま回収しても良かったんだが、ケビン探ししてくれると言うし、まだ新米だから身の危険もあるだろうとあの鎧におまけとして付けたんだ」


 何て冒険者想いの人だろう。


「じゃあ、何で付けた事を言わなかったんだよ?」


 そういえば、あの時は何も言ってなかったっけ。


「そんな物が付いてる言ったら、気が緩んでしまうと思ったからだよ。何事も気を引き締めないといかんからな」


 あ~確かに……私ならありえそう。

 親父さん、私の中で好感度がドンドンと上がっているよ!


「っても、その革の加工が俺の知らない方法だったから、本当に効果があるか半信半疑だったんだ。それで効果がなかったって、コレットに化けて出てこられたからたまったもんじゃねぇしな! ガッハハハハ!」


 え? それって私を実験台にしたって事だよね?

 親父さん、私の中で好感度がドンドンと下がっているよ……。


「さて、冗談はさて置き……」


 本当に冗談だったんだろうか。


「ほれ、コレットの防具だ。ちなみに、革は付いてねぇから気を引き締めて探索するんだぞ」


 うっ親父さんの言葉が重いな。


「はい、十分気を付けます」


 ――それじゃさっそくこの鎧を装備してっと……うん、サイズもぴったりね。


「どうだ? 新しい防具の具合は?」


「はい、大丈夫です」


 新しいと言っても、前との防具の違いは革が付いていないくらいでほぼ同じだけどね。


「うし、それじゃそろそろ行くか。親父、俺の武器をよろしくなー!」


「あ、私の防具もよろしくお願いします!」


「おう、まかせとけ!」


 ああ、どんな防具が出来るか楽しみだな~。




 ◇◆アース歴200年 6月16日・夜◇◆


 って! もう外は真っ暗じゃない。


「あちゃー結構長い時間ここにいたんだな、キャシーの奴まだいればいいが……」


 ……ん? キャシー!? どう考えても女性の名前だよね。

 グレイさんの私生活は知らないけど、奥さんか恋人なのかな?

 よし、ここは。


「グレイさん、グレイさん」


「ん? 何だ?」


「キャシーさんってどなたですか? グレイさんの奥さんですか!? それとも恋人ですか!? どちらしにしても、一度お会いして挨拶をしておきたいんですが!」


 と言うのは建前で、グレイさんの相手の女性がどんな人なのかすごく気になる!!


「はぁ? お前は何を言っているんだ? どっちでもねぇし。そもそも会って挨拶したいって、コレットは普通に会って挨拶しているじゃねぇか」


 え? 何言っているんだろう?

 私、キャシーさんなんて知らないんだけど。


「いえ、私は知りませんよ?」


「……これは爆発のショックのせいか? 一度病院に連れて行った方がいいか」


 ちょっ!? 何でそうなるかな!


「私はいたって健康です! どこにも問題ありません! 話を変えないで下さい!」


「いや、変えるも何もキャシーはギルドの受付嬢の名前じゃないか」


 …………へっ、あの受付嬢さん?


「受付嬢さんって名前があったんですか?」


「いや、さすがに名前はあるに決まっているだろう……」


 そうだよね、【受付嬢】って名前なわけないよね。

 ……馬鹿じゃないの私!!


「本人から聞いていなくても、キャシー・エヴァンって名前が書かれたプレートを付けているし、書類のサインも名前を書いているじゃないか」


 その辺りをまったく見ていなかった……。


「……その感じだと、爆発のショックとかじゃなくて最初から名前を知らなかったみたいだな。おいおい、さすがにそれは失礼じゃないか?」


「――うっ」


 まさに、返す言葉もありましぇん!!!

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