第53話 ケビンの書~びっくり箱・6~

「で、ケビンの方は埋めたミスリルゴーレムに乗って何をしておったのじゃ?」


『ミスリルゴーレムのコアを取ろうとしていたんだ。まさか、これも駄目とか言わないよな?』


 駄目だったら、また1本の花しかコレットに渡せないじゃない。

 まぁその花もなくしてちゃんと渡せていないんだが。


「それは良いがミスリルゴーレムのコアなんて取ってどうするのじゃ?」


 よかった。

 やはりナシャータは【母】マザー以外の事は気にしないみたいだな。


『こいつのコアは魔力を宿した武器防具の素材に出来るんだ、だからそれをコレットのプレゼントにしようと思ってな』


 それにしても、何でミスリルゴーレム見た時にコアの事を思いつかなかったのか。

 まぁあの時は花の事で頭がいっぱいだったからかな? 一つに集中すると他が見えないクセはスケルトンになっても治ってないな。


「ふむ……ん? それじゃと同じ魔力を宿した魔晶石や魔石では駄目なのか?」


 人間が作り出した製法だからな、ナシャータが知らなくて当然か。


『どっちも合金の過程で混ざり合わないんだ。だがミスリルゴーレムのコアは魔石と同様の魔力を持っているが性質が違うみたいで、合金が可能なんだ』


「そうじゃったのか、ケビンは物知りじゃの」


『まぁな』


 と、えらそうに言ってはいるが実は全部行きつけの鍛冶屋の受け売りなんだよな。

 ……親父さん、元気にしているかな……後グレイの奴も今はどうしているんだろう? まだ冒険者としてやっているるんだろうか。

 あっそういえば、コレットに一緒にいたあの四つ星級の髭親父ってグレイに似ていたような――。




 ◇◆同日同刻・リリクス町のギルド内◇◆


「ぶえっくしょん!!」


「きゃっ!? ちょっとグレイさん! くしゃみをするなら横を向くか手で口を押さえてくださいよ! あ~あ……唾が報告の書類に飛んじゃっているじゃないですか~」


「おっと、すまんすまん」


 なんだ? 急に鼻がムズムズとしたが。


「あの、大丈夫ですか? 今冒険者で動けるのはグレイさんしかいないので、不調なら無理せず……」


「大丈夫だ。さぁ書類書きの続きをするぞ」


「はあ……では――」


 うーん、どこかの誰かが俺のうわさでもしているのか?

 それが若い娘達だったら嬉しいなーなんてな。


「何にやけ顔しているんですか……」




 ◇◆同日同刻・白竜の遺跡内◇◆


 ――そうでもなかったような……男2人なんて興味なかったからほとんど眼中になかったからほとんど顔が思いだせん……まぁいいか、男なんて思いださんでも。

 そもそもあのグレイが四つ星級なんかになれるわけがないしな、ハハハハハハ!

 それよりもコアだ、コア。

 

『だから、こうやってコアを出そうとしているんだ、がっ!』


 ――キーン!


 うん、やっぱり傷一つ付かん。


『見ての通り硬すぎて取り出せないんだ』


「なるほど、ではわしの爪とミスリルゴーレムの硬度……どっちが上かを試してみるのじゃ」


「がんばってください! ごしゅじんさま!」


 さすがのナシャータでもミスリルゴーレム相手にそれは無謀だと思うがな。

 まぁ傷くらいは付きそうな気もするが――。


「ふん!」


 ――ズン!!


『…………へ?』


 嘘だろ、ナシャータが指で突いただけでミスリルゴーレムの体に手がめり込んだぞ……。


「なんじゃ、思ったほど硬くはないのじゃな」


「お~さすがごしゅじんさま!」


『…………』


 やっぱり、こいつは危険な力を持っているな。


「ほれ、あれならば取り出せるじゃろ。それともわしが穴を開けたから、また意味が~とか言わんじゃろうな?」


 本当はそう言いたい所だが、こればかりは無理だったらな。

 仕方ない、ここは素直に感謝を言っとくか。


『……助かりました』


「うむ、素直でよろしいのじゃ」


 さっそくコアを取り出しますか。

 ナシャータの開けた部分に手を突っ込んでっと――。


『よっ――よし取れたぞ』


 簡単にコアを取り出せた。


『おお、これがコアかー初めて見た』


 握りこぶしくらいの大きさの赤い球体。

 よくこの1個でミスリルゴーレムが動けるものだ。


「それを小娘にどうやって渡す気じゃ? さっき言っておった方法をやった後に渡すのか?」


 後だと?

 まだまだ甘いな、このドラゴニュートは。


『フッフッフ……すでに同時に出来る作戦を思いついているんだ、ぜっ!』


 そして、親指を立ててピシッとポーズ。

 ふっ決まったな。


「……いいのから早くその作戦を言うのじゃ」


 ……ええ、せっかくビシっと決めたのに。


「あのゆびにかじりつきたい」


『ひぃっ!』


 ポチはポチで違う反応しているし、つか俺の指で涎を出すな!

 本当にかじりついて来そうだからさっさと進めよう。


『えーとだな……まずは宝箱に……ん? 待てよ……宝箱?』


 ……何か忘れているような――。


『あ、そうだ!』


 この魔晶石の間にあった宝箱の存在をすっかり忘れていた。


『ナシャータ! ここにある宝箱には何が入っているんだ!?』


「な、なんじゃ!? 藪から棒に! 作戦やらは何処へ行ったのじゃ!?」


『そんな事は後でいい!』


 今は開けていない宝箱の方が重要なんだ!


「後でって、なんじゃそりゃ。しかし宝箱じゃと? そんなのあったかの」


 宝箱の存在を忘れるなんてもったいない。


『あるんだよ! で、それを俺が開けたいんだがいいか!?』


「まぁ別に構わんが……宝箱ねぇ……う~ん」


『よっしゃああああああ!!』


 家主の許しが出たぞ。


「このほねは、なんであんなによろこんでいるのでしょう?」


「わしにもわからんのじゃ」


 ほっとけ、中身が何かわくわくしながら開けるのが楽しいんだよ!



「本当にあったのじゃ……」


 さてさて中身は何かなー。


『オープン! …………へ?』


 握りこぶしくらいの大きさの赤い球体が5個入っている……。

 これどっかで見たような……。


『――ってこれコアじゃねぇか!!』


 何で宝箱に入っているんだ!?


「……あっそうじゃった、ミスリルゴーレムの素材が足りなくてとりあえずコアは宝箱にしまってあったのじゃった」


 確かにレア物ではある、あるんだが……なんだろう、この虚しい気持ちは。

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