第52話 ケビンの書~びっくり箱・5~

「おっと、そうじゃった。あの穴を埋めないといけなかったのじゃった」


 ちょっ俺はこのままの格好かよ!


『まてまてまて! 箱から出してくれよ!』


「え~と……う~ん……やはり、あれを使うしかないようじゃの」


 ええ、聞いちゃいねぇ……。

 で、ナシャータの奴は俺を無視して1体のミスリルゴーレムの所まで歩いていったが何を……。


「――よいしょっと!」


 すげぇ、簡単にミスリルゴーレムを持ち上げたよ。

 それから、持ち上げたまま開けた穴へと向かって……って、え? まさかミスリルゴーレムで――。


「ふん!」


 ――ズンッ!


 あいつ、本当にミスリルゴーレムで穴を埋めちゃったよ!!


「よし、これでいいのじゃ」


 壁から生えてるミスリルゴーレム……めちゃくちゃ怪しい。


『いや、全然よくねぇよ!』


 やっぱりミスリルゴーレムで穴を塞ぐなんて無理がありすぎるぞ。

 あんなの【母】マザー見つけて下さいと言っている様なものじゃねぇか。


「じゃったら、いい方法はあったのか?」


『え? えーと……』


 うん、何も思いつかない……。


「ほれ、ケビンも思いつかんじゃろうが」


『うっ』


 そういわれても、急だったし。


「じゃったらあれでいいではないか。さてと、わしはちょっと出かけてくるのじゃ」


 本当にいいのだろうか……。

 ん? 出かける?


『出かけるって何処に? あ! 遺跡の外にはでるなよ!?』


 ナシャータの存在でたぶんギルド内は騒ぎになっているだろう、そこに外をうろつくドラゴニュートなんて見られたら火に油、物凄い大騒ぎになるのが目に見える。


「外には出ないのじゃ、ちょっと思い付いた事があっての」


『そうか、ならよかっ……』


 いやよくないじゃいか、この俺の状態が!


『待て! 行くなら先に俺を箱から出して――』


「じゃケビンの体が戻る頃には戻って来るのじゃ」


 ああ、飛んでいった。


『ええ、また放置かよ』


 仕方ない、動けない間にプレゼントの事を考えよう、ナシャータも役に立たなかったし。

 さてどうするか……。


 ――ギギ! ガガ!


 うるさいな、考えに集中できん。

 何の音だ? ああ、穴に埋め込まれたミスリルゴーレムがもがいている音か。

 ……あんな風に動けない状態なら、花をとるのは簡単だったよな。


『…………あ、あるじゃないか。花とプレゼントにもってこいなのが、あそこにもう一つ!』


 よし! 体が戻り次第、行動開始だ。




 ◇◆アース歴200年 6月15日・夜◇◆


『お、全身の感覚が戻ってきた。これなら立てるかな――よいしょっ、おっとと……』


 まだちょっと不安定な部分もあるが……立てたし、まぁ大丈夫だろう。

 それにしても再生がいつもよりに早かったな、【母】マザーの魔力に近いおかげなのだろうか? それなら俺の体、ゾンビの再生や木の実だけで200年以上生きているポチ、これらは【母】マザーの魔力が関わっていたと仮定は出来る。

 だが、俺がスケルトンになった原因は【母】マザーとは思えないな……。

 【母】マザーが原因なら、ここにいる他のゾンビやスケルトンも俺みたいに魂? があるはず、なのにそれらしき奴とは会わなかった……俺だけってのはおかしい。

 となると、この体に関しては他に原因があるんだろうが……うーん……この遺跡の秘密を知ったが、結局は目を覚ました時と同じだな、考えても答えは出ない……となれば――。


『コレットに渡すプレゼントを手に入れる事を考えるのみ!』


 となるとまずやる事は……いい加減この宝箱から出よう。


『よっと』


 しかし、よくもまぁこんな宝箱に全身入っていたな……生身だったら中に入る何て到底不可能だぞ。


『ん? 宝箱の中に、か……そうだ! 面白い事を思いついたぞ!』


 これならコレットにサプライズできるぞ、コレットの反応が楽しみだ。

 ではさっそく、あの動けないミスリルゴーレムから花と、【コア】を取り出すだけだな。



『ンギギギギ! 駄目だ、まったく刃は入らない』


 やっぱりミスリルって名前は伊達じゃないな、物凄く硬い。


「ただいまなのじゃ~お、どうやら動けるようになったみたいじゃ」


 ん? ナシャータが帰ってきたか。

 まったく何処行っていたのやら。


『ああ、おかえ……って誰だ!?』


 ナシャータの横にボロマントを羽織った長身の人間の女がいる!

 群青色の長髪、長すぎて地面につきそうだし、顔も前髪が長くて口元しか見えん。

 いや姿なんて今はどうでもいい、問題なのは――。


『何で人間の女がナシャータと一緒にいるんだよ!?』


「ん、人間の女じゃと? 何処にいるのじゃ?」


 ええ、自分より遥かに背の高い奴が見えないっておかしいだろ、逆ならまだしも……。

 つか俺より高いんじゃないか、170cmは越えていそうだ。


『お前の横にいるだろうが! その目は節穴か!?」


「横? ああ、ポチの事じゃったのか」


 え?


『……今……ナンテイッタ……?』


「じゃから、こいつはポチじゃ」


 はあ!?


『そいつがポチだって!?』


 そんな馬鹿な、どう見ても人間……いやよく見たら頭には耳が生えていて、口元は鋭い歯が見えていて、ボロマントの後ろから尻尾がフリフリしているのが見える……全然人間じゃなかった。

 ――というかポチってメスだったのかよ! そっちの方がビックリだわ!


「そうじゃ、魔力が蓄積されているかもという話があったじゃろ? もしやと思ってポチの体内のを調べてみたら、ばっちり蓄積されておったのじゃ」


『その蓄積した魔力とその姿と何の関係が……』


「その蓄積した魔力を使ってワーウルフに体を変化させたのじゃよ。あの部屋からも出られるし、ポチも自由に動けるのじゃ」


 すげぇ、ナシャータってそんな事が出来たのか……。


「………………」


 ん? 何だ? ポチが俺の方をジーッと見ているが。


「……ごしゅじんさま、あのほねたべていい?」


『ひぃ!』


 姿は変わっても本能は変わってねぇ!


「あれは食べては駄目じゃ!」


「く~ん……」


 あ、シュンとしてる。

 しかし、2人が並ぶとあれだな。


『ナシャータが娘で、ポチが母親にしか見えん……』


「ん? 今何か言ったか? よく聞こえなかったのじゃが」


『いえ! 何も!!』


 だから、笑ってない目をした笑顔が怖いんだって!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る