第37話 ケビンの書~接触・5~

 ◇◆アース歴200年 6月15日・夕◇◆


『さて、色々説明してもらおうか。ナシャータさん』


「あ、はい……」


 スケルトンに正座させられてるドラゴニュート。


「くぅーん……」


 そして、しゅんとうな垂れてるダイアウルフ……。

 周りに人がいたらびっくりする光景だろうな、これ。


「あ~じゃが、その前にこの体に着いた涎を洗い落としたいのじゃが……」


『却下だ!』


 俺の邪魔をした罰だ! 罰!


「そんな……うう、獣臭いのじゃ……」


 まぁそれだけ体をテカテカしてたらな、相当臭いだろう。

 ……ちょっと離れておこう。


『じゃあ改めて聞くが、何故あの部屋にダイアウルフ……』


「ウウウウ……」


『――っそうだった、お前はポチだったな! すまんすまん!』


 俺には名前があるんだよって感じで睨むなよ、物凄く怖い。


『コホン。で、そのポチが何でこの部屋にいるんだ?』


「まだポチがちっちゃいの時に、この遺跡に迷い込んで来たんじゃ。その時はかわゆくての、それで飼っておったのじゃが……成長していくにつれどんどん図体がでかくなってきての、このままではまずいのではと思い仕方なくこの頑丈な部屋に入れておったのじゃ……」


 まぁわからんでもない。

 こんなにでかいと、この遺跡じゃ連れて歩くのに邪魔でしかないからな。


『……何で俺とコレットをこの部屋に入れたんだよ。お前は誂え向きの部屋だと言っただろうが』

 

 誂え向き所でもまったくなかったぞ。


「それは……ポチの存在をすっかり忘れてたのじゃ……」


 やっぱりだよ! つかこんなでかい奴を忘れるか!?

 あーでもナシャータは約200年寝てたんだっけ、だから忘れてた? でも、この迷路みたいな遺跡の構造を覚えていたくせに?

 わからん、こいつの頭の中身はさっぱりわからん。


『……ん? 約200年? ポチの奴、よく200年も生きていたな』


「ワフッ」


 普通ならとっくに俺みたいに骨になってるぞ。

 いや、骨も残らんか。


「まぁポチは魔獣種じゃからな、長生きなのじゃろ」


 魔獣種だからってだけで片付けられる話なのか?


『いやいや! 長生きすると言っても、魔獣種も生物なんだから水とエサがないと生きていられんだろ!』


 それが最低限の生物の生けていける条件だ。


「水についてはこの水路があるし、エサは……ほれそこにあるじゃろ」


 そこって、ナシャータが指を刺した先にあるのは腰の低い木だな。

 ん? あれは……いつもナシャータが食ってる木の実のような――。


『……え? お前、まさかポチにあの木の実を食わせてたのか?』


 ポチって何処からどう見ても肉食の魔獣なんだが。


「失敬な、これは普通の木の実じゃないのじゃ。ミスリルゴーレムの頭に咲いてた花みたいに魔力を溜め込んだ実なのじゃ。わしの主食でもあるのじゃぞ」


 いや、そういう問題じゃなくてだな。


『ダイアウルフは肉食で肉を食うもんだろ、なのに木の実を食わせてたっておかしいだろ!』


 そもそもダイアウルフって木の実を食って大丈夫なのか?


「はぁ? 肉じゃと? そんな物、この遺跡にあると思うか?」


『ゾンビとかがいるだろ……』


 それも大量に。


「馬鹿な事言うな、腐った肉のゾンビを食わせて腹でも壊したらどうする。それに何かの新鮮な肉を食べさせてたとしてじゃ、味を覚えてわしを食うかもしれんじゃろが!」


 ドラゴニュートが魔獣に食われるとかありえんだろう。

 というかポチはナシャータに信頼されてないんだな、可哀想に。


「じゃから、ポチにはこのわしの主食の木の実を食べさせてたというわけじゃ」


 魔力を溜め込んだ木の実があるからって、酷い扱いだと思うがな。

 しかし、そんな木の実が存在してたんだなー今まで知らなかったぞ。その魔力はあの魔晶石の間から吸っているんだろ――ん?


『ちょっと待て……』


「なんじゃ! そこまで突っかかる事――」


『――いや、そうじゃない』


 コレットの事で頭がいっぱいで周りを見ていなかった。

 今、冷静に考えるとこの遺跡はおかしな所だらけだ、ここは人間達が勝手にナシャータを崇める為に作った遺跡と言っていたが、中は複雑、起動し続ける罠、数の多い隠し通路や部屋、崇める為だけにしては造りが大掛かりすぎる。


 特に隠し部屋の一つである魔晶石の間の存在だ。魔晶石の間自体はミスリルゴーレムが永続的に動けるように作られた物だろうが、ナシャータはこう言った【ここを守護】と。

 聞いた時は魔晶石の間だけの守護と思っていたが、あんな誰か来るか分からない仕掛けの場所のみ守護させているのは不自然……つまりミスリルゴーレムは間ではなく何かを守護しているって事だ。

 それが俺の体、ゾンビの再生やこの木の実だけで200年以上生きているポチに関わってる気がする。


「ん~? どうしたのじゃ? アゴに手をつけて考え事しておるようじゃが……」


『なぁ、ナシャータ。俺の質問に答えてくれるか?』


「…………ケビンの質問次第じゃな」


 ナシャータの奴、笑顔だが目が笑っていない……。

 こりゃドラゴニュートの逆鱗に触れてしまったかな?

 だが俺だって冒険者だ、そこに遺跡の謎があれば知りたくなる。

 だがしかし――。


『……答えられる範囲でお願いします』


 今の俺にあるのかないのかわからんが……命は惜しいからな!

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