3‐21.化けの皮(side 隼人)

 金髪ショートの女がサングラスを外した。マスカラとアイラインで黒々と縁取られた目元を見てもこの女が何者なのか隼人は思い出せない。


『先輩達は君が誰だかわからないようだよ。可哀想だからナゾナゾの答えを教えてあげれば?』

「そうですね。今の私は先輩達が知ってる私じゃないから仕方ないかぁ。木村先輩、その節はどうも。私のことわかりませんかぁ?」


 くねくねと体を揺らして女は隼人の前に立った。女から香る人工的な桃のような安っぽい香水の匂いが鼻をついてせそうになる。

わかりませんか?と問われてもわからないものはわからない。


『兵藤桃子だろ?』


それまで黙っていた晴が口にした名前を隼人は脳裏で反芻した。どこかで聞いた名前だ。それもこの数ヶ月の間に……


『あー……思い出した。増田さんに嫌がらせしてた女か』


隼人が増田奈緒の名前を出すと金髪の女は笑っていた口元をヘの字に曲げる。


 増田奈緒は杉澤学院高校の後輩。中間テストの総合順位で2位をとってしまったばかりに順位で賭けをしていた女達に目をつけられた不運な女子生徒。


1ヶ月前の期末テストが始まる直前に隼人達は奈緒のクラスメートの兵藤桃子が賭けを仕切っていた黒幕だと突き止め、さらに桃子が奈緒に嫌がらせをしていた真犯人だった。

隼人達に嫌がらせの現場を押さえられた桃子は夏休み前に杉澤学院を退学したと聞いている。

(※story2.私の百花繚乱物語より)


『あんた変わったな。そこまで化けられるとわかんねぇよ』


 隼人の知る兵藤桃子は黒髪のショートヘアーで化粧をしていない素顔。見た目だけは優等生の風貌だった。

だが今の桃子は金髪のウルフショートに両耳にはフェザーのピアス、濃いメイクで元の素顔は覆われている。


「わかったのは緒方先輩だけみたいねぇ。緒方先輩はどうして私だとわかったんですか?」

『俺の女友達があんたが写ってるプリクラを持ってた。らくがきでMomokoって書いてあった』


 晴は喋るのもだるそうに答えた。桃子が現れてから晴の機嫌はさらに悪くなったように思う。

桃子はアイラインで黒く縁取られた目を三日月型に細めた。


「へぇ。私のプリクラ? 誰とのだろぉ。どこで繋がってるのかわからないものね」

『蒼汰をハメたはお前だろ?』

『おい、晴。ハメたって何の話だ?』


 悠真が肘で晴を小突く。隼人も亮も眉をひそめて晴に視線をやった。

晴は溜息をついてうつむき、口を開いた。


『賭け事件の時に協力してくれた黒龍No.2の蒼汰、お前ら覚えてるか?』

『ああ、晴の相棒の奴だろ?』


隼人は蒼汰の顔を思い浮かべた。蒼汰は明るくて気のいい、晴が二人いるみたいな男だ。


『その蒼汰がクスリをやったと疑われて警察に連れて行かれたんだ。クスリの取引のあるクラブを警察がガサ入れした時に蒼汰が居合わせて、蒼汰と一緒にクラブに来ていたエリカって女はクスリの入ったカバンを置いて消えた。蒼汰は釈放されたけど警察はエリカの行方を追ってる』

『最近お前の様子がおかしいとは思っていたがそんなことがあったのか』


 晴の話を聞いた三人はここのところの晴の様子がおかしい理由に合点がいった。


『黙っててごめん。お前らに心配かけたくなくて』

『じゃあ蒼汰をハメたエリカって奴がこの女?』


亮が尋ね、晴が頷いた。


『この女が写ってるプリクラを写真に撮って蒼汰にメールで送って確認した。エリカの正体は兵藤桃子だ』


 晴が桃子を威嚇する。彼女は晴の話を腕組をして聞いていた。晴が話をしている間、相澤はにやつきながら携帯電話を操作していた。


「緒方先輩の情報収集能力には脱帽します。そうよ、私がエリカ。緒方先輩の大事な大事な相棒さんの彼女でぇーす」

『蒼汰をハメたくせに何が彼女だ。もう蒼汰はあんたのこと自分の女だとも思ってねぇよ』

「それは私もよ。別に最初から好きでもなかったもの。ただこの計画に利用しただけ」


 フェザーピアスを指で弄ぶ桃子は悪びれる様子もない。相棒を利用したと言われた晴の怒りは頂点に達している。

両手に嵌められた手錠が晴の暴走のストッパーの役割を果たしているようだった。

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