3‐16.パズルのピース(side 龍牙)
片山法律事務所の窓に大きな雨粒が打ち付けている。ここの主の片山良幸は部下の氷室龍牙のデスクに書類の束を放った。
『龍牙。お前に頼まれていた案件、調べておいたぞ』
『すいません。面倒かけて……』
『またずいぶん厄介なヤマ抱えちまったなぁ』
『後輩の為ですから』
龍牙は片山に頭を下げた。デスクを離れかけた片山が足を止めて振り返る。
『お前が調べてくれと言った相澤直輝だけど……』
『何か気になることでも?』
『相澤直輝に関してはその資料の通りなんだが、相澤の婚約者についてちょっとな』
『ああ、婚約者はどこかの金持ちのお嬢様だとか聞きましたよ』
片山は浮かない顔で顎をさする。
『相澤の婚約者は俺が昔縁のあった人のお嬢さんなんだ。彼女の父親とは仕事の面でもプライベートの面でも親しくしていた。お嬢さんにも会ったことがあってな。だからまぁ、色々と心配なんだよ。……んじゃ、お疲れさん』
多くを語らずに片山が事務所を出ていく。龍牙は片山から提供された資料の束を手に取った。
相澤直輝の婚約者の素性はどれだけ調べを尽くしても判明しなかった。まさか片山の知り合いの娘だとは思わなかったが、片山も婚約者の名前までは語らない。婚約者に厄介事が及ばないようにとの片山なりの配慮なのだろう。
資料には相澤グループの総資産や相澤直輝の経歴が記載されていたが龍牙はそこを読み飛ばし、あるページを黙読した。
『……やっぱりな』
予感的中。もしかしたらそうなのかもしれないと思っていた。
確認事項に目を通し、気持ちを落ち着けるために煙草に手を伸ばす。ゆっくり煙草を吸いながら彼は携帯電話の着信履歴で洸の番号を呼び出した。
これからやるべきことはひとつ。
『……洸か。お前に頼みがある』
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