十六のとき突然

みんなの持っている能力をやっと、ようやく手に入れた。

十六のときなぜか突然。

そうして初めて分かった。わたしもみんなと同じでちゃんと人間なんだと。

みんなもわたしと同じ人間なんだと。衝撃的だった。


人とどうやって気楽にお喋りすればいいのかを体感で掴んだわたしの日常は劇的に変わった。そして驚く。

この能力はどれ程日常生活を楽にすることか。もう周りから変な子だと見られることはない。気持ちを楽にして、好きなことやって、好きに自分の意見を言えるのに、努力していないのに。前は全然上手くいかなかったのに。努力して、神経を使って、頭痛になるほど毎日が重かったのに。

まるで自転車のギアを切り替えたとき、ペダルを踏み込むその軽さに驚くかのような。

そうやって動揺しながらも、手に入れたその能力はわたしの負担をとても軽減して、細かいことは分からないけれど、ラクだったからまあいいやなんて思っていた。


けれど代わりそれをきっかけに失ったものもあって、そっちの方面で途方にくれる羽目にもなった。当時の日記を見るに、十六のわたしである彼女に言わせれば、それは“どくとくのくるくると回った世界”だった。失った能力も得た能力もどちらもとても大切で必要なものなのにと彼女は訴えている。


彼女はその年、『ヒト』を手に入れたのだと今思う。

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