Ⅲ
「馬鹿! 斬られる!」
リン・ユーはアーサーをかばい、氷の刃から遠ざけた。
「……痛っ」
押された衝撃で転んだアーサーが起き上がろうとすると、リン・ユーが肩を押さえながら立っている。肩からは血が流れ、彼は表情を歪ませていた。
「リン・ユー!」
「……よそ見すんな。また来るぞ」
再び剣を振りかざしてきたフランシスを相手に、リン・ユーは大刀で受け身の体勢をとる。
「フラン兄さんの意識が……ない」
「今の王子に意思などない。私の操り人形として、お前たちを葬るための道具として動いてもらう」
「これ以上、フラン兄さんを……」
アーサーは目眩を感じながらも立ち上がり、剣を構えた。だが――。
(フラン兄さんを相手に、剣を向けることなんて出来ないよ。どうしたら……)
「おい、何をボケっと突っ立ってやがる? 助けるんじゃなかったのかよ。そのがらくたは、ただの飾りじゃねぇんだろう?」
リン・ユーの言葉で、アーサーは我に返った。氷の剣を握るフランシスの手がしもやけのように赤くなっている。
(このままじゃ、兄さんもリン・ユーも……)
アーサーは伯爵の方へ時計をかざした。
(伯爵がヴァイオリンを演奏する前の時間に……)
「何を始めるかと思えば……そんな小細工は私に通用しない」
ヴァイオリンの音が一層大きくなる。
「……絶対に、負けない!!」
アーサーの剣についた瑠璃色の玉が輝く。
「……この光は」
伯爵の手が止まる。その一瞬――。
「今だ!」
アーサーの剣は伯爵の体を貫いていた。
倒れてきたフランシスの体をリン・ユーが支える。
「……やったのか?」
リン・ユーが辺りを見回す。オッタヴィアを追うカストと、いまだに水の膜に閉じ込められているシャルロットの姿が目に入った。
「油断するな! まだ終わっていない!」
「なかなか勘はいいようだ」
伯爵は冷笑を浮かべ、姿を消した。
「……そんな。確かに今、この剣で伯爵を。あっ、それより兄さんは……」
「大丈夫だ、眠っている。マリア様の元へ預けておけば安全だ。むしろ今危ねぇのは……」
リン・ユーの視線の先にアーサーは目をやった。
「シャルロット‼」
水はシャルロットの胸元まで迫っていた。
「何とかしないと……。ここからじゃ、外の音もよく聞こえないわ」
シャルロットはカードを手に持ち、念じた。すると、カードから先の尖った土の塊が現れる。彼女は膜にそれを突き刺し、さらに念じる。土の塊は少しずつ大きくなり、膜を破る寸前のところまでになった。
「重い……」
シャルロットは力を振り絞った。
「パーン!」という音を立て、膜が弾けるように割れる。シャルロットが床へ転がり込むと、目の前には伯爵が立っていた。鬼のような凄みのある目で彼女を見下ろし、睨んでいる。
シャルロットの元へアーサーが駆けつけようとした時、伯爵はストーンを掲げた。シャルロットの体は、伯爵のストーンに引き寄せられるように浮かび上がる。その彼女の首を伯爵は絞め上げた。
「先祖の顔に泥を塗るような真似をしおって……この裏切り者が」
「シャルロットを放せ!」
怒りに震えたアーサーが、伯爵に剣を振りかざそうとすると、床に突如穴が開く。穴の中は真っ暗で何も見えない。
「地獄に送ってやる」
アーサーは足を踏み外し、穴の中へ引きずり込まれていく。
「わぁっ!」
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