第6話 阻む

 それが見えてきて、あざみが怪訝そうに、だが言葉にならない声で叫んだ。

 叫びたい気持ちは宝にもわかった。

 遠目に懐中電灯の光源で見ても、それはいき止まりであり、一枚の壁だった。

「ちょ……まじかぁ!? ありえんだろ、おい!」

 あざみは壁に駆け寄り、両手でばんばんとそれを叩いた。

 洞窟がいき止まったならまだよかった。検分する必要などない――その壁はコンクリートに思えたし、真っ平らな表面はどう考えても人工物だった。

「なんなの、これ……はーちゃん、懐中電灯貸してもらっていい?」

 灯の手に懐中電灯が渡る。彼女は壁のはじからはじまで、ゆっくり光を当てていった。

「出口、ないわね」

「あの、たかちゃん、降ろしてもらっていいですか?」

 宝は背中から速水を降ろした。

 同世代の子に比べれば小柄で体重の軽そうな速水だが、降ろすと身体がやけに軽く感じられた。そして一気に背中が寒くなる。ノースリーブの灯をうかがうが、ずっと歩いたり走ったりと忙しかったからだろうか、彼女はこれといって寒そうにしていない。

 びっこを引きながら歩く速水の後ろをついて歩き、宝はポケットから携帯電話を取り出す。ここでもアンテナは表示されているが、通話はできなかった。

「抜け道っぽいのもないな……どういうこっちゃ、ありえんわ」

 やけになって壁をぞんざいに蹴ったあざみの横、速水はそっと手でふれていた。

「はーちゃん?」

 両手を広げ、速水は壁に押しつけた。宝の位置から彼女の表情をうかがい知ることはできないが、ひどくかたくななものを感じた。

「これも」

 かすれた声で速水はいう。

「これも神事に使われたんだと……」

「壁じゃないの、これ」

 あざみはもう一度蹴ろうと上げていた足を降ろした。

 手のひらだけでなく、速水はひたいも壁に押しつける。

「使われたっていうか、神事そのものっていうか」

 ううん、とうなり、速水は壁から離れた。

「神事が壁のなかを通ってるっていうか……神事ででき上がってるっていうか……」

 該当する言葉を探すが、うまいものが見つからないらしい。速水はまたうなった。

「それって、結界かなにか、ってこと?」

「うん、そんな感じです!」

 ぱっと速水は灯を見た。

「結界って」

 宝が口をはさむと、あざみが大きなため息をついた。

「わかんだろ? あっちがわの連中を閉じこめたり隔離するのに使う、見えない壁」

「ここにそれがあると?」

「空間を区切ってんだよ。あいつらを閉じこめてたんかなぁ。崩落して、結界壊れたか?」

 疲労があるのだろう、あざみはいうなり肩で深呼吸をした。

「でもあっちゃん、上歩いてるときにはもういたんでしょ、あいつら」

「あ、そっか」

「俺たちが歩いただけで崩落するとも考えにくいですし、もう亀裂かなにかできてたんじゃ……」

 そう口にする宝の前を通り過ぎ、速水は岩肌にも手をふれる。ややあって首を振った。

「そこの壁以外は、よくわからないです。全部にこう……神事ででき上がってる感じがしたら、結界というか――容れものにしておけると思うんですけど」

「東風ヶ丘さん、そういう話知らないのかな」

「知らないんじゃないかしら、引率と土地の買収のことしか。嘘をついてる色じゃなかったし」

「ああ、灯さんは相手が嘘ついてるかわかるん……ですよね?」

「そうね。嘘がわかるというより、隠そうとしてるとか、そういうときの感情が色で見えるの」

「オーラってやつですか?」

 どうかしら、とつぶやいて、灯は懐中電灯を宝に押しつけた。どうも彼女がこの話題――自分の見えるものについての話を喜んでいないのは確かで、受け取った宝はそれを速水に渡す。

「先に進めなそうだし、戻るしかないですかね」

「戻るって、宝くん、あっちは怖いのがいますけども。どうするつもりなんすかぁ?」

 いつもと違い、あざみの声に力はなかった。

「この壁が結界かも、っていうなら、ここにはあいつらは近寄れないのかもしれないんじゃない?」

 あざみは首をめぐらせる。

「……確かに、このへんにはいないなぁ」

「じゃ、じゃあ、さっきの骨のところはどうでしょう? あれも神事に使われた感じがしてましたし!」

 四人はゆっくりきた道を戻ることにした。

 速水の言葉を疑うものはなく、どこまでが安全圏か確かめようというのだ。

 地上では陽が落ちてきているのか――洞窟内を進む一行は、寒さを感じはじめていた。

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