情勢
征四郎がグラルグスと決着をつけた頃、ディルス大陸の情勢は大きく動き出していた。
カムラ王国の王は、同盟国クラッサに弓引いた裏切り者の王族の父母を捕えて処刑しようとしていた。
だが、その足取りを掴めなくなっていた。
カムラの王は、まさかホレスの戦いでその裏切り者に指揮された傭兵と、クラッサに与する筈の黄衣の女が、この地でも手を組むとは考えていなかった。
「……クラッサの魔人衆ってんだろう、あんた? なんで手を貸した?」
「アタシはあいつ等と一緒にされるの嫌なんですよ、イトも任務で何処か行っちゃうし」
そう告げて、目つきの悪い金髪の女は、美味そうにパイプをふかしてゾスモとアルマに告げた。
金髪の女は背も低く、下手をすれば子供がパイプを吹かしているように見えるが、全く間にカムラの兵を殴り倒した凄腕である。
「で、何処まで連れて行くの? アタシも手伝うよ。クラッサ裏切る事にしたし」
そう屈託なく笑うも、目つきの悪さで色々台無しな女の言葉に、傭兵達は軽く頭を悩ませていた。
北方連盟内では、クラッサ王国に通じていたグルーソンが遂にロニャフに牙を剥いた。
それとほぼ同時に聖騎士三百名とその補助軍団一万二千によるクラッサの正規軍が北方連盟を荒らしまわる。
巡回騎士団も応戦するが、クラッサの聖騎士は尋常ではなく強かった。
黒の巡回騎士団の長、リマリアもまた北方連盟内の南西、ガゾの砦で籠城戦を強いられていた。
「いいかい、お前ら! ここで引き付ければ引き付けた分だけ友軍が助かるんだ! 気張るんだよ!」
素の口調で部下を鼓舞するリマリアであったが、果たしてどれだけ持ち堪えられるかを正確に把握しようとしていた。
持って四か月。
それがギリギリかと脳内で算出した数値に渋面を作り、頭部に角を持つ銀髪の騎士団長は天を仰ぎ見た。
(連中、無事に聖騎士殺しの法を見つけたんだろうか?)
そう胸中で呟いた次の瞬間には、忙しく砦内に指示を飛ばしだす。
彼女が呆けている時間は無いのだから。
ホレスの城内も慌ただしく皆が行き交っていた。
クラッサ王国の動きにきな臭さが増す中、遂に病床であったホレス王ド-キンが身罷った。
後継者の指名も無いままに。
この国難にマイワスとハーナンは手を取り合い立ち向かうべきと話し合いの場を何度となく設けた。
クラッサの脅威を思えば、権力争いに終始するのは危険と、徐々に歩み寄りが成されていた最中に事件が起きた。
マイワスを政治担当のハーナンを軍事担当のトップにと言う協定を両派が結ぼうとした集まりで、突如、警備の兵が反乱を起こす。
ホレスの貴族にして王家に血を連ねたアイヴァン伯爵が権力を求めて画策したクーデター。
すでにクラッサに恭順を示したアイヴァン伯爵は両王子を殺害。
ホレス王国の実権を握ってしまった。
我が世の春を謳歌する伯爵は、気付いていなかった。
マイワスとハーナンの両王子は、性格にそれぞれ難はあれど、人々を引き付けるカリスマ性のその片鱗は亡き王から受け継いでいた。
殺害したのは影武者で、両王子は怪我を追いながらもそれぞれの腹心に助け出されている事を、アイヴァン伯爵は気付いていなかった。
そして……。
「法師クラーラとの連絡は未だつかんのか?」
「スルスリ川にて賊と交戦との報告が最後だとか」
「死んだか?」
「
「猊下を裏切ったのでは?」
幹部のやり取りを聞きながら、猊下と呼ばれた男は席を立った。
そして、部屋の奥に引きこもれば、姿見に己の姿を映した。
鏡の向こうにはクラッサの女王に仕える女呪術師が映っていた。
「
「いや、聖騎士が一人死んだ。――今一人も不死は解除されたか」
「前の生は奴に煮え湯を飲まされたが、今生でもそうだと言うのか……」
「黄金瞳より貰った命は今回で最後だ……今生では必ず上手くやってやる」
「必ずや、神の帰還を達成せねばならない」
「分かっている。こちらからは選りすぐりの聖騎士を八名放つ」
「では、此方は四名の影法師を放とう」
「「必ずや彼の者の首を取って見せる!」」
鏡の向こうとこちら側で二人が同時に告げる。
【第一部「征四郎呪法剣」完、第二部「征四郎十二番勝負」に続く】
征四郎呪法剣 ~ディルス大陸戦乱記~ キロール @kiloul
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