第324話 神の山の報告(後)
王都に戻り三日。
神殿に呼ばれたり王城の調理場に呼ばれたり教授らに呼ばれたりと忙しい日々を過ごしていたが、ようやくこの日を迎えた。
場所は城の会議用の一室。ただしそこまで大きい部屋ではなく精々数人程度が入れるほどだ。
そんな室内に現在集められたメンバーが揃っている。
まず説明の為の自分。集めて貰った以上欠席なんてもっての外だ。
続いてレディーヤ。レーヌには話し合いと言うことで今回特別に貸してもらった。本来であればこの場には女王であるレーヌ当人が望ましいのだが、年齢的な部分も考慮して彼女の代わりに来てもらった。
そして他にレディーヤに頼んで呼んでもらった人が並ぶ。
自分が頼んだのは、中立性を保つことができ、それなりに権力もしくは他者を動かせる力を持ち、なおかつ自分の言うことに対し真摯に向き合ってくれそうな人達。その様な条件下で選ばれたのはわずか二人だけであった。
一人目が摂政。現在もレーヌを陰ながら支える国の大黒柱。
多分この人がいなくなったら人王国が空中分解するんじゃないだろうか。どの派閥にも中立と見做される人なんてそうそういないし。
現状の国の状態やその中立的立場、目線から欠かせないと判断しこうしてご足労願った次第である。
二人目。ボールド=クロムドーム。
彼を呼んでもらったのは貴族の立場としてこの話をした際にその影響がどれぐらいになるか見てもらうためだ。
人王国は各領地を貴族が治める形を取っているため、今回の件でどれほど影響が出るか計り知れない。その為そちらの目線での意見が聞きたかった。
それに大貴族である彼なら他の貴族へのけん制もしてくれるかもしれない。
わずか四名による先行会議。
しかもこの場にはこの四人以外誰もいない。
……もう一度言おう。この四人以外
発案者の自分以外は国の要職に就く人物だ。彼らの誰かが一人でも欠けたらどの様な影響が出るか計り知れない。
そんな人たちがいくら顔馴染みとは言え護衛抜きで自分と一緒にいるのだ。……まぁレディーヤは多分自分よりずっと強いだろうけど。
兎にも角にも護衛を一切付けないことにそこまで信用してもらえてるのかと思うとこそばゆく感じる。もしくは今回の事に対し何かしら思うところがあるのか、自分が何かしても止める手立てがあるか。
「それでは始めさせていただきます。まずは今日お集まりいただきありがとうございます」
ともあれこうして忙しい面々が集まってくれたのだ。まずは第一声として来てくれたことに謝辞を述べ頭を下げる。
そして顔を上げると同時に気を引き締めた。
今回の問題は事が事だけに一人ではどうにもならない。共有することで自分だけでは思いつかないことも見えてくれるかもしれない。
……と言うか早めに誰かにこれぶちまけないと俺の心が持たない。
「レディーヤさんから少しお話がいっているかと思いますが、端的に言うと世界の危機に現在直面しています。少なくとも人王国の危機は確実です」
「ふむ、君が冗談でその様な事を言う人間ではないと個人的には思っている。が、内容が内容だけににわかには信じられないと言うのが本音だ」
「えぇ。ですので今日は自分が知っていることをお伝えします。いきなり公的の場に言うと混乱して収拾つかなくなるのが目に見えてますので……」
さて、どこから話そうか。
……いや、ちゃんと最初から話そう。こう言うのは横着しちゃダメだ。
「まず最初の切っ掛けですが自分が女王様に招待されていたときです。部屋にメムが来て、自分に神の山に来るようにと指示が出ていると言うお話でした。これについてはレディーヤさんも一緒にいたので覚えていると思います」
「はい。確かにメムさんがやってきてヤマル様に取り次いで貰うようお願いされました」
「その後はレディーヤさんも含め情報を整理した後、神の山に行くことを決めました。ただその場合どうやって行こうかと言う話になりました。あの山に通じる道は神殿側が管理していましたので」
そしてレディーヤと言葉を交えながら当時の事を話す。
レーヌやセレスと共に神殿に赴いたこと。神の使徒なんて言われたこと。
その後神殿から許可をもらい、セレスや神殿騎士と一緒に神の山に行った事。
「そして自分はあの山でマイ……神殿ではマザイと呼ばれてる存在と出会いました」
「ほぅ、実在していたのか」
「えぇ。神様……と言うにはちょっと違いますけどね」
だがある意味では神様に最も近しい人……もといロボットだろう。
「自分が呼ばれた理由として色々ありましたが、主要な話として今回の件が告げられたのです」
「神罰……と言うやつか?」
「いいえ、違います。マイは神様でもなければ誰かを罰する立場にある存在でもありません。彼女が与えられた使命はただ一つ、この世界の管理だけです」
そして彼らにはここでこの大地は海の上に浮かんでいること。それが沈まぬよう管理しているのがマイことマザイであることを告げる。
流石に突拍子もない話に驚きはしていたものの、まずは最後まで話を聞いてくれることになった。
「今回の件の直接の原因は自分含めた異世界人の召喚になります」
まずは結果から。続いて話すのはその結論に至ったメカニズムだ。
十人に及ぶ召喚により大地の下を巡っている力が一気に失われてしまったこと。現在は他の地区から回してもらっているがあくまで応急措置でしかないこと。
その応急措置の一環として海に水没している外殻を外し物理的に軽くし均衡を保っていること。そのせいで昨今の地震が起こっていること。
その為このまま何もしなければ大地のバランスを保つ為に更に軽くする……つまりは人王国の地を沈めるしか無いことを説明する。
「猶予期間、並びに範囲も確認しています。レディーヤさん、地図を」
予め彼女にお願いしておいた人王国の地図を借りテーブルに広げる。
流石に直接書くわけにはいかないため指を這わせ沈む範囲を示した。その範囲、実に人王国の半分以上を占める。
「政治の世界は殆ど知りませんが、仮に国民全員を避難させても影響が計り知れないことは自分でも分かります」
各種生産、土地の不足、他国への干渉……下手をすれば侵略戦争すら考えられる。
素人考えですらこれなのだから、細かいものを含めればもっと多いはずだ。
その事を自分以上に分かっている三人の顔色があまり良くないのも当然だろう。
「ですので国民の避難の方法と問題の解決方法の模索、この二点を国主導の下お願いしたいんです。その前段階として皆さんをお呼びした次第です」
自分が言ったところで動く人は限られている。だからと言ってこのメンバーを中心に動いても貴族間の派閥やしがらみが懸念される。
だから国策として全員を動かす形を取れないかとお願いしたい次第だ。
「……一つ良いですか。この話、本当だと他者に信じさせる証拠は何かありますか?」
そして話が終わった所で最初の質問を摂政から投げられた。
その質問内容は当然のものだろう。国を巻き込もうとした話なのに、自分からの報告だけで証拠は一切でていないのだ。
「正直なところ現段階で確たる証拠は出せません。何せ将来の話になりますし……確実な証拠と言うなら何もせずこのまま待つだけですが」
「それは出来ん。実際起こった場合国が無くなってしまう」
ボールドの言うように当たり前だがこれは却下。
「となると神殿のツテでマイ本人に話してもらうか……後はあまりしたくないですけど人じゃ出来ないことをするとか……」
「具体的にはどの様な事でしょう?」
「日時決めて地震起こさせるとかですかね」
これを行うことで本当に大地が沈む信憑性を増すことはできると思う。
ただその為に地震はしたくないなぁ。大なり小なりその上にいる人達に被害がでてしまうわけだし。
結局こちらもとりあえずは却下された。最悪やるかもしれないが為政者として被害が出ると分かっている行動は避けるとのことだ。
その後も少し話したがいい案は浮かばずこの件については摂政達の預かりとなった。
未来に対する証明など出来ようはずもなく、うまい具合に言いくるめられるよう何とか考えてみるとのことだ。
ただし何かしら協力を要請されたらその時は手伝うことになった。
そしてその話が一旦区切られたところでレディーヤが少々宜しいですかと手を上げる。
「このお話ですが大神官長様も交えたいと思うのですが如何でしょうか」
「ん、しかし今日は呼ばなかったんだろう?」
「はい、政治的なお話のみと思ってましたので。しかしこの様な話であれば神殿に協力を要請するのは悪い話では無いと思います」
レディーヤが言うにはあくまで貴族は統治するには長けているが、市井の民主にウケが良いのは神殿なのだそうだ。
これは各地の神殿があくまで民の目線であることや、マザイ教を信仰している人が多い事が挙げられる。
なので神殿に間に入ってもらうことによって、貴族と民衆の橋渡しの役割が出来るのではないかと彼女は言った。
またそうすることで領主単独で民に避難命令を出すより、領主と神殿連名で出した方が不満やトラブルが少なくなるのを狙えるらしい。
「しかし大丈夫ですかね。今回の件は国主導の下で彼らを召喚したことが原因です。最悪反乱の芽が生まれませんか?」
「ヤマル様が神殿から神の使徒として奉られているなら試練と考えればよろしいのではないでしょうか」
「確かに単純な神罰ならば遠慮なく唐突に行えばよい。それをせず期限を設け、更に教えたのが神殿が使徒と目されてる者であるのなら試練と言うのもありだな」
「いえ、自分奉られていないと思いますけど……」
もしそうだった場合あのマザイ像の隣にそのうち自分の像でも作られかねない。
流石に自分がいなくなった後の事になりそうだけど物凄く遠慮したいな。ウルティナが絶対お腹抱えて大爆笑するだろうし。
ともあれ今日の目的である情報の共有は何とか達成することが出来た。
三人とも自分の持ち帰った情報を真摯に受け止めてくれたことには安堵しかない。正直為政者としては妄言と切り捨てられてもおかしくない話だし……。
「しかしこうなると魔国や獣亜連合国とも話し合わねばならぬな。解決法が見出せぬ場合そちらに民が大量に流れる可能性もあるだろう」
「難民問題になりますね。受け入れてくれるでしょうか」
「受け入れ拒否された場合はまた戦うことにもなりかねない。しかし期間が迫る中、悠長にやり取りするわけにもいかん」
問題を実際に口に出すことで頭の中でまとめているのか、ボールドと摂政が色々とやり取りを始めていた。
外交に関して時間が掛かるのはこの世界特融の事情ではある。が、現在それを解消するカードがこちらの手元にはあった。
「他国とのやり取りだけでしたら方法があります」
同じことを考えていたであろうレディーヤが再度手を上げ話を切り出す。
以前彼女らに渡した外交用の通信装置。その事について二人に話すと、彼らは本日何度目かの驚きの表情をするのだった。
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