第264話 閑話・その頃街では……


 それはヤマル達が模擬戦に向けて準備をしている頃のお話。



 ◇



~王都メインストリート とある掲示板にて~



 おう、ニイチャン。その張り紙が気になるか?


 おぉぅ、そんな目をするなって。俺は怪しいもんじゃ……いや、怪しいか。ガハハ、まぁそいつはどうだっていいさ!


 おいおいまてまて、そう焦んなって! ソレが気になるんだろ? だったら俺の話を聞いてけって、な?


 え、なんで怪しいおっさんの話聞かなきゃならんのかってか? そりゃ俺は『冒険者』だからだ。ほれ、そこの張り紙のやつの片割れと同じ職業だぞ。


 嘘じゃねーって! ほら、これだこれ。この小さい板が冒険者の証だ。嘘だと思うならギルドで照会してもらっても構わねぇぜ?


 んで悩めるニイチャンにこいつについて教えてやろうって親切心……ほんと疑り深い目するな。まぁ分からねぇこともないけどよ。


 まぁ善意というか打算はあるな。ただ親切心に嘘はねぇよ。最近はこういう娯楽も少なかったからな。今回みたいに見て賭けて楽しんで、まぁちょいと小金稼げれば言うことねーもんな。


 ん? あぁ、一応関係者だ。だから賭けるやつは多い方がいいからな。俺はお前さんみたいに悩める人間の背中をちょいと押すだけだ。


 冒険者だから偏ったこと教えられそうってか? まぁ冒険者目線だから若干偏るかもしれねぇな。でも騙すつもりはねーよ。選ぶのはお前さんだ。何なら他の、それこそもう片割れの『傭兵』のやつらの誰かに聞いても良いぜ。


 こいつらのことはまぁ昔は知ってるが、あいつら長い間別んとこ行ってたからなぁ。今はどうなってるか分からねぇな。


 ん、当人らの情報だと主観が入ってあやふやだから職業としての情報か? お、乗り気になってくれたか。いいぜいいぜ、教えてやるよ!


 そもそも今回のコレ……まぁ書いてある通り、そこの冒険者とその仲間の傭兵との対戦になるな。あぁ、直接対決じゃねーぞ。なんか同じ相手に対していかに早く倒すかってやつらしい。


 Bランク傭兵とCランク冒険者じゃ不釣合いってか? はっは、そりゃそうだろうなぁ。だからそっちに書いてあるハンデってもんがあるんだがな。まぁそいつについては自分で考察してくれや。


 それじゃ一般的な傭兵と冒険者の違いを教えてやろう。まず最初に、ニイチャンはぶっちゃけ傭兵と冒険者はどっちが強いって思うんだ?


 あぁ、俺が冒険者だからって遠慮はしねーでいいぞ。あくまで素人目で構わねぇさ。


 お、やっぱ傭兵か。はっは、まぁそうだろうな、あいつらふっつーに強ぇもんな!


 でもニイチャン、そいつは半分当たりで半分ハズレだ。おっと、意味が分からないって顔してるな。まぁまずは聞いてくれよ。


 傭兵はまんま戦闘のプロだ。冒険者と比較してもこと戦いにおいてはあっちに分があるな。まぁ互いに質はピンキリだから一概には言えない部分もあるが、基本的に一対一じゃまず傭兵が勝つな。


 じゃあ冒険者が弱いかって言うとそうでもない。冒険者は冒険者で危険な場所に行くからな。戦闘技能はもちろん必要だ。


 ん、じゃあなんで傭兵のが強いかってか? そりゃ職業としての目的が違うからな。


 同じ戦うのに違うのかって顔してるな。あぁ、全然違うんだぜ。傭兵は『戦うことが仕事』だ。護衛、魔物退治とかだな。


 対する冒険者は『戦うことは過程』でしかねぇんだよ。もちろん依頼次第じゃ仕事にもなるけどな。


 まだ分からないって顔してるな。例えば『森にあるある植物を取って来い』と言う依頼があったとする。目的はその植物だが、道中その為の障害はたくさんあるわけだ。俺らにとって魔物退治はその内の一つに過ぎないわけだ。


 ちなみに傭兵の仕事場は基本街道とか開けた場所が多いな。あいつらが一番強いのは整った場所で正面切って戦う場だしな。


 だから傭兵はあまり冒険者みたいに悪路を歩き回る場所には向かねぇんだ。森とかな。


 理由か? そりゃあいつらの装備は重量あるやつが多いからな。武器もだが特に防具なんか冒険者と見比べると良いぞ。明らかに金属製が多いはずだ。その分悪路を歩いたりすることには向いてねぇんだ。


 逆に俺達は場所は選らばない。どこでも一定の強さは発揮できる。その分傭兵に比べれば装備は軽くなるしあまり大物も持てねぇな。


 ん? 今回の場合どうなるかってか?


 一応場所の下見はしたが開けた場所だったな。少なくとも悪路ではないし街からも近いから行軍による疲労もまずないだろう。普通に考えれば傭兵の方が分があるな。


 あぁ、だからこそオッズがそうなってるんだ。やはりハンデ考慮しても勝てる要素が見当たらないってのが現状の意見だからな。


 ただそれをひっくり返す何かがあるか、後は根っからの賭け狂いギャンブラーが張ってたりか。倍率的に当たるとでけぇからな。


 ま、良かったら賭けてってくれよ。まだ時間はあるし、せっかくの『祭り』だ。知り合いとかと騒いだ方が楽しいからな!


 おう、またな。参加期待してるぜ!


 ……ふー、中々これも慣れねぇとシンドいな。あ、姐さん! お疲れ様です!


 はい、順調ですぜ。さっきも一人手応えあったやつがいましたし。


 他ですか? 噂程度ですが飲食店が活発に動いてるみたいですぜ。商業ギルドに向かうヤツをここでも結構見ましたからね。


 はっは、いやいや、俺は何も! 姐さんの方こそ――



 ◇



~商業ギルド ホールにて~


 いらっしゃいませ。あなたも出店の申し込みですか?


 おや、そんなに不思議ですかね。ここは街で随一の情報が集まる場ですよ。貴方もあのお話は聞いてきたのでしょう?


 何せ最近この様な催し物はありませんでしたからね。目端の利く商人であればこの機会を逃すなんてことはありませんし。


 えぇ、他の方もすでに出店登録されていますね。とりあえずお席へどうぞ。


 それではギルドカードを。……はい、ご確認しました。それでは本日は出店の申し込みでしたね。どの様なお店でしょうか。それと形式をお願いします。


 ふむふむ、『串焼き』で『屋台』……ですね。承知しました。


 それではこちらにお目通しを。当日は現地で調理されるのですよね。火の扱いは十分にご注意ください。


 それとこちらに販売物の記載を。はい、こちらに書かれるもの以外は申し訳ありませんがお断りします。当日までの変更でしたら対応可能です。


 それでは屋台の配置ですが、現在この様な形で……えぇ、こちらは飲食系が集まってます。こちらはまだ決まってませんがこの調子でしたら……えぇ、そうですね。


 あぁ、それと当日は兵士による巡回が行われます。大丈夫でしょうが荒事あれば販売停止もありますのでご注意を。


 まぁ商業ギルドわれわれ以外のギルドも噛んでいるでしょうし、多少ならば目は瞑られはするでしょうが……。


 えぇ、冒険者ギルドに傭兵ギルドも少々……。その辺が暴れられるとそちらも困るでしょうしご注意くださいね。


 えぇ、はい。後は――



 ◇



~王都内 兵士屯所にて~


 それでは会議を始める。議題は今朝の朝礼時に話した王都外での催し物についてだ。


 あぁ、正式に上から通達が来た。当日は忙しくなるぞ。


 当日は三グループに分ける。人数と割り当ては資料通りだ。


 まずは街中巡回班。基本はやることは変わらんが、当日は住人が外に向かうことが予想される。


 あぁ、王都内にて空き巣が発生する可能性が高い。よって普段よりも頻度を高く、そして人数も増やす。


 いつも通りだが街はいつも通りではないからな。普段よりも緊張感を持って当たってくれ。


 次に待機班だ。何かあったときの対応を頼む。


 ただし巡回側に人数を割く以上普段より少ないメンバーで対応してもらうことになる。効率良くやらないとあっという間に回らなくなるぞ。


 あぁ、緊急時は他グループへの助力も可だ。


 そして会場警備班。こちらは現場巡回が主な仕事だ。街の外に人が集まるのは珍しい。気を抜かないように。


 人の諍いもだが魔物の脅威もある。とはいえこちらについては冒険者ギルド、傭兵ギルドと提携することになった。


 あぁ、主に現場が我々、外側や周辺は彼らが受け持つ。対魔物ならば彼らの方が慣れているだろうし、対人トラブルであれば我々が対応するのが適切だからな。


 とは言えどのような人間が集まるか未知数だ。担当班は気を引き締めるように。


 さて、具体的な配置についてだがーー



 ◇



 主役達は知らない。周りが盛り上がっている事を。


 主役達は知らない。何故周りが盛り上がっているのかを。


 一言で言ってしまえば巡り合わせの悪さと言うべきか。

 昨今の地震の影響による住人のフラストレーション。これらを解消すべく模索していた所に、都合よく話が舞い込んで来た。

 真面目な性格ゆえにその話は本人の許可申請により各所に知れ渡ることとなり、こうして国の思惑、商機、娯楽が入り交じった結果ただの模擬戦がちょっとしたイベントに変貌を遂げる事となる。


 当の本人達がそれに気付くのは当日になってのことであった。

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