第247話 風の軌跡強化月間その5~コロナとブレイヴ(+ミーシャ)3~


「あら、揃ってどうしたのー?」


 ウルティナの別荘に新たに建てられたと言う工房。そこに行き中に入ると、ドルンとこの土地の主であるウルティナがいた。

 二人は部屋の中にあるテーブルを挟むような形で話し合っていたみたいだ。その証拠にテーブルの上には乱雑に置かれた設計図らしき図面やメモ書きなどが所狭しと並べられている。


「なに、ドルン氏に相談を持ちかけに来た。内容はコロナの武器についてだ」

「コロナの武器か? 作る予定だが完成はまだ時間掛かるぞ。なんせ初めてだらけだからな、色々と考えなきゃならんことが山の様にある」

「ちなみにコロナちゃんもだけど、ヤマル君やエルちゃん、ポチちゃんにも何かしら作る予定よー。まぁエルちゃんとポチちゃんのは多分あたしがメインで作ることになると思うけど」

「ふむ、少し詳しくいいか?」


 そして聞くところによると試作も兼ね、自分達の武具は竜の素材を用いて作られるとのことだった。

 ただし作るのは骨や牙をそのまま削りだしたやつではなく、ドルンがカレドラに話していた竜素材の合金で作る全く新しい物とのこと。

 無事完成すれば今までの武器とは一線を画す物が出来上がるらしい。


「何かあれこれ悩んでた問題が武器だけで解決しちゃいそうね」

「良いことではないか。しかしどうせなら更に一歩でも二歩でも先に踏み込むべきだろう」

「ねぇねぇ、マー君。コロナちゃんの武器に希望ってあるのー? あ、もちろんコロナちゃんもこういうのってのあれば教えてね」

「あ、えーと……希望と言いますか……」


 どうしよう。威力の高い技を出すための武器とかとても言いづらい。

 目の前のウルティナはヤマルを教える人、いわば対戦相手の仲間だ。

 そのせいかこちらがやろうとしていることを教えるのはどうしても躊躇われる。


「決定しているのは剣だ。だが今我らは必殺技を目指し模索中である。そこでドルン氏にも一撃の威力を出すことが可能な剣について意見を交わしたかったのだ」

「ちょ!」


 しかしそんなこちらの思惑など知ったことではないとばかりに、ブレイヴが全てをぶちまけてしまった。

 いくらヤマルは自分よりも弱いとは言え、彼についているのはあのウルティナである。

 こんな敵に塩を送るような情報を与えるなど……。


「あら、奇遇ねー。こっちもヤマル君に必殺技覚えさせたところよー」


 しかしウルティナもヤマルの現状をあっさり口にする。

 しかもその内容がこちらと一緒の必殺技だと言うのだから驚き……え?


「覚え『させた』……?」

「そうよー。内容については当日のお楽しみね。あ、コロナちゃんの必殺技決まってもあの子には教えないから安心してね。そもそも知ったところであんまり関係ないしねー」

「む……」


 強者の余裕か、それとも自分の弟子であるヤマルが既にこちらと同じことをさせた上で前に進んでいる優越感か。

 曲がりなりにも対戦相手である自分が必殺技を覚えようがそれがどの様なものになろうが『関係ない』と一蹴する物言いに些か不快感が募る。


「コロナよ、怒気が漏れてるぞ。まぁやつの言い方が鼻につくのはいつものことだが、今回は本当に関係無いのだから気にするな」

「え?」

「コロナちゃんコロナちゃん。例えば今この場でヤマル君がこーゆーの使うよーって私が教えたとしてどうするの?」

「どうするって……」


 それは対戦相手の手の内なのだから対策を……あれ?


「そう言うことだ。直に戦うならばまだしも今回は同じ相手に対してのタイムアタック方式。やってる間は妨害は出来ぬ。相手を気にするぐらいなら自己の研鑽に努めた方が有意義と言うものだ」

「しかもコロナちゃんは先行よ。やるだけやって後は待つだけだもの。逆にヤマル君にコロナちゃんがこういう新しい戦い方するよーって言っても対戦相手が分からないんじゃそれがどう転ぶか予想も出来ないしね。まぁお互いに邪魔するなら知っておくのも手だけど……」


 そんなことする二人じゃないもんね、と付け加えウルティナがいたずらっぽい笑みとウィンクをする。

 決まった……とばかりに満足そうな彼女とは対照的に、何してるんだこいつはとブレイヴが何とも言えない顔をしていた。

 とりあえずいつものことなので気にしないでおくことにする。


「さて、話を戻そう。ドルン氏よ、実際武器の攻撃力が高い場合『威力の高い技』が出せる武器とはどう言うものだろうか」

「あ? そうだな……やっぱり使い慣れたモンになるだろうな。技っつーぐらいだからその武器種に対して精通してなきゃいかんだろうしな」

「ねぇ、素朴な疑問なんだけどいいかしら。強い武器が手に入るなら必殺技……えーと、『威力の高い技』っているの? 武器自体が強いなら、技に拘る必要をあまり感じないんだけど……」


 この中であまり直接的な戦闘が得意ではないミーシャが少し身を乗り出しながらドルンとブレイヴに質問を挟む。

 確かに攻撃力が足りているのであれば技を使おうが普通に斬ろうが同じに見えるかもしれない。

 しかし『威力の高い武器の攻撃』=『威力の高い技』は似ているようで違う。

 そして意外なことに同じ魔術師であるウルティナが人差し指を左右に揺らしながら彼女の質問に答えはじめた。


「ミーちゃん、それは違うわよー。例えば竜の牙で作った小さなナイフがあったとして、それでゴーレムを倒せるかしら」

「それは……倒せるとは思いますけど……」

「うんうん、ゴーレムの体でも竜の牙の前では紙切れに等しいわよねー。でもどれだけ威力が高くてもナイフじゃ切れる深さが限られてる。刃は易々と体に突き立たせることは出来ても、核までは届かないでしょうね」

「その為の技だな。今のこいつの例で言うなら威力は足りてるのだから他の部分、例えば核まで刺突が届く様になるとか、短い刃でも両断できるようになるみたいな技が望ましいな」


 流石にナイフサイズで両断は魔法絡みだと思うけど、と言う言葉を飲み干しつつ、概ね彼女らの意見には内心で同意しておく。


「ふーん、つまりその例をコロナちゃんに当てはめると……剣なんだから何でも両断できるとかそんな感じ?」

「結果的な理想はそこだろうな。しかしミーシャの言う理想の結果に結び付けるには一つ欠けているものがある。それは……」

「『如何にして当てるか』よー。何でも斬る剣があったとしても、当たらなければ意味が無いもの」


 そして最後の最後で美味しい答えの部分をブレイヴから掻っ攫い、物凄いしたり顔をするウルティナ。

 ちらりとブレイヴを横目で見ると苦虫を噛み潰したかのような顔をしてウルティナを睨んでいたが、当の本人はどこ吹く風とばかりに一切気にする様子は無かった。


「なら私の目指すべき技は命中率が高い技になるのかな」

「でも弓矢とかなら何となく分かるんだけど剣に命中率の高い技ってあるの? その辺私は詳しくは無いんだけど……」

「命中率と言うよりも当たりやすいやり方や環境の整え方であろう。例えば斬る直前に相手の動きを阻害する魔法を併用すればぐっと当たりやすくなる。後は……そうだな」


 少し考え込む素振りを見せるブレイヴ。

 そして言葉が纏まったのか口を開こうとした瞬間、再びウルティナが前に割り込み――そしてその口がすかさず伸ばされたブレイヴの右手によって塞がれる。

 両頬を挟まれるように握られてるせいか中々愉快な顔になってるウルティナだったが、元が美人な為か面白い顔というより愛嬌のある様な雰囲気になっていた。


「むぐぐ……」

「相手の回避が間に合わないような速度を出す、とかだな。この場合コロナ自身の速度もだが、それ以上に剣を振るう動きを速くする。相手が何かする間も与えずに斬ってしまえば大体は勝ちであろうしな」

「魔法……それこそ外に発露するタイプのは私達獣人は苦手だし、もしやるとしたら後者かなぁ」

「ならコロナちゃんが鍛えるのは腕力や瞬発力? あ、それとも《身体強化》を鍛える方がいいのかな」

「それよりも先に武器の選定であろう。現状では片手半剣に拘る必要は無くなっている。それならば速度が出やすい武器を先に決め、その後どの様な技にするか……えぇい、うっとおしい! 息を吹きかけるな!!」


 ウルティナを掴んでいた右手を急に離し彼女を投げるようにして解放するブレイヴ。

 どうやら捕まえてる間ずっとブレイヴの手の平に息を吹きかけていたようだ。地味な嫌がらせを的確にしてのけるのはある種の才能ではないかとすら思う。

 そしてウルティナは腰に手を当て我に策有りとばかりな笑みを浮かべた。

 この人一応相手側のはずなんだけど……。


「ふっふっふー、そこでこの天才大魔女ウルティナ様の出番よー。あたしの頭の中には今のコロナちゃんにピッタリな剣と技があるからねー」

「……貴様、魔術師だろう?」

「あら、魔術師だからって使えないと知らないは別よー? ね、ね、コロナちゃん。聞くだけ聞いてみない? ダメならダメでいいからー」

「は、はぁ……。では聞くだけでも……」


 聞き流すつもりだったウルティナが言う剣と技。

 彼女の話に出てきた内容が自分の剣と必殺技と決定するのは、この後すぐのことであった。





「ドルンさん、後はお願いします」

「おう、任せろ。ばっちり良いもん仕上げてやるからな。ちぃっとばかし時間掛かるかもだが……」

「いや、何もかもが初の試みだろう。こちらも頼んだ手前、何かあれば協力はしよう」


 あれから武器の詳細は五人で話し合い、大よその仕様は纏まった。

 ここから先はドルンの仕事だ。彼を信じ、その間自分は技に至るべくブレイヴの元で鍛えるだけ。

 散々あれやこれや頭を悩ませ雲を掴む様な感覚も、今では目標がはっきりしたためかすごく頭がすっきりとしている。


「ブレイヴさん、最初はどうします? やっぱり型を覚えるところから?」


 後はとても体を動かしたい。

 ここ数日頭を使ってたのと、また新しいことに挑戦することは最近無かったのですぐにでも動きたい気分だった。

 そしてこちらの問いかけにブレイヴは顎に手を当て、そして思い立ったかのようにウルティナの方へ視線を向ける。


「ふむ、そうだな……。いや、ウルティナよ、ちょっといいか?」

「んー。なに、マー君? 愛の告白?」

「ちょっと! 私と言う奥さんがいるのに!」

「ミーシャよ、奴の言葉に耳を傾けるな。そしてウルティナよ、愛の告白は無いが死の宣告ならいくらでもやるぞ?」

「え、あたしを殺して自分だけの物にするってこと? マー君ってばロマンチストさん☆」

「と、この様に独身を拗らせるとこうなる。ミーシャとコロナは同じ女性としてよく見ておくことだ」

「よーしそのケンカ買ったわよー。ちょっと表出なさい?」


 もはや見慣れた光景に苦笑をもらしていると、不意にブレイヴに背中を押され一歩体が前に出る。

 顔だけ振り向き見上げるブレイヴの体はやっぱ大きいなぁと思いつつも、何故自分はウルティナに差し出されるような形になっているのだろうか。


「ウルティナよ、折角だから模擬戦形式でコロナを少し手解きしてはくれぬか」

「え?」

「別にいいけど何で……あぁ、そういうことねー」


 ブレイヴが何を考えているか合点がいったのか、ウルティナは右手で丸を作り了承の意を示す。


「まぁ夜も更けているから少しだけでいいだろう。コロナよ、あいつは今までお前が戦ったどのタイプとも異なる相手だ。むしろ同じ様に出来るような者はいないであろう」

「え、あの……?」


 だから何故ウルティナと模擬戦をするのか。

 これでも対魔術師戦のセオリーなら一応頭には入っている。実際それで人王国の魔法学校では一方的に打ちのめす事が出来た。

 ウルティナにそれが通じるかどうかは分からない。けれど彼女とて魔術師と言う枠からはみ出てないのだから、戦い方を学ぶにしても現状のやり方で間違ってはいないはずだ。

 要するに如何にして彼女に接近して戦うかがカギになるだろう。だが……


「恐らく我が知る限り、一番対応力が求められる相手だ。少なくとも……いや、コロナの場合は実践した方が良いか」

「……必要なこと、なんだよね?」

「あぁ、間違いなく貴重な経験となろう。技を覚える前にお前にはまずどの様な相手でも相対できる心構えを身につけてもらう」


 ついてこい、と踵を返しブレイヴが工房の外へと出て行く。

 それに続くようにウルティナも表に向かい、残ったミーシャと少しだけ目配せをすると自身も彼らの後を追うことにした。


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