第152話 エアクラフター


「エアクラフター?」


 聞きなれない言葉に自分は元より全員が怪訝な顔を……ではなかった。学者組の大半は物凄く期待に満ちた目をしている。


「メムさん。それって乗り物なの?」

「ハイ。エアクラフターは私が病院で働いていた時代の乗り物デス。今の時代で言えば馬車に近い物と思われマス」

「う~ん。もう少し具体的に教えてもらっていいかな」

「了解しマシタ、マスター」


 とりあえずメムに当時の乗り物であるエアクラフターの情報を引き出してみる。

 メムが言うにはどうやら日本で言うところの自動車の様な物みたいだ。ただし車輪が無く宙に浮くタイプらしい。

 飛ぶなら飛行機では?と思ったが、どうも当時の情勢と安全面から基本的には地面から少し浮いた状態で走る代物だったそうだ。

 大きさは今の馬車よりもやや大きめ。イメージ図を描いてもらったが車輪の無いキャンピングカーが一番知っている物に近いかもしれない。


「はぁ、メムだったか。あんた自体もびっくりだが、古代の人間ってのは本当にすごかったんだな」


 現状では再現不可能な技術の塊にドルンが感嘆の声を漏らす。

 と言うか日本ですらメム含め再現不能の代物だ。魔法有り超技術有りの何でもござれな世界なんだなと思ってしまう。


「えーと、それでそのエアクラフターってどこにあるの? 何か工場みたいな場所があるとか?」

「マスター、工場は確かに存在しまシタガ、現物でよければ病院――現チカクノ遺跡付近にあると思われマス」

「それは本当かね!?」


 メムの言葉に思わずと言った様子で声をあげたのは隣にいた教授だ。

 だがそれも無理もない。深層の調査も進んでいるところに更に未発見の遺物があると言うのなら、考古学を専攻する人としては落ち着いて聞いていられる方がどうかしている。

 現にすし詰め状態の研究員らからも様々な声が上がり、会議室の室温が心なしか高くなっている気がした。


「確証はありまセン。現に私はこの様に動いていますが仲間の多くは壊れてマス。同様にエアクラフターが存在しても動かない可能性は高いと思われマス」

「だがあるかもしれないならば大人しくする理由は無い。すぐに発掘計画を練ろう。……そちらはどうするかね?」

「いや、さっき約束した優先権……」

「分かってるとも。もし動くのがあればそちらに回そう。だが他のは……」

「えぇ、研究用のはこちらに回します。まぁ契約的には前回と同じで」


 とは言うものの彼らに発掘させるだけさせて美味しいところだけ持っていくのは流石に道理が通らない。

 今回も自分達も一緒に発掘作業に入ることにする。冒険者としていの一番で発見しないと流石に周囲から何言われるか分かったものでもないし。


「よし、『風の軌跡』とメム君、それに私と上長以上は残りたまえ。計画を練るぞ。残りの人員に関しては別途指示を出すのでそれまでは従来通り仕事を続けるように」


 では解散。と教授が言うと皆一斉に会議室から出て行った。

 残ったのは指示があったメンバーだけ。一気に人が減ったことでただでさえ広い会議室が更に広大に感じる。


「さぁ、早速始めよう。まずはどこにあるか大よそにの位置の把握だ」


 物凄くウキウキ顔で発掘計画の会議を始める教授。

 なお本来予定されていた研究成果の発表は完全に忘れ去られているのだった。



 ◇



「この道通るのも久しぶりだよね」

「わふ!」


 あれから三日。

 発掘計画は急ピッチで進められ、現在第一陣として『風の軌跡』とメム、そして研究員ら十数名はチカクノ遺跡の道を進んでいる。

 今回は荷物含め馬車二台での移動。馬車の準備費自体は研究費から降りた。

 道程は前回同様王都からほぼ一日。最近はチカクノ遺跡も深層発見に伴い人通りも増えたため比較的安全な道になっていた。


「いいなぁ……」

「いや、仕事だからね……?」


 そんな中、隣を走る馬車から何度目かの羨む声。

 今回中から顔を出してるのは若い研究員の男女だ。ちなみに三十分前にはいい歳したおじさんに同じことを言われた。

 何せ現在、自分は戦狼状態のポチに跨り、後ろにエルフィリアを乗せている。


 何故こんな状態かと言えば、現在自分は馬車の外に出て護衛として働いているからだ。

 チカクノ遺跡に行くに当たりやはり護衛が必要と言う話となった。

 当初は兵士や傭兵の案もあったが、何せ急な話なだけに兵士は動かせず、内容が内容だけに外部からは極力避けたいと言う意向となる。

 以前一緒に仕事をした『風の爪』をまた呼ぼうかと思ったが、残念ながら彼らは数日出かけてるそうで都合が付かず、結局『風の軌跡』だけで護衛することになった。

 教授らと相談し何とか護衛が可能と判断したのが馬車二台分。

 この二台を守るためにコロナを中心に役割分担を決めた。


 まずポチに自分とエルフィリアが乗り、馬車の周辺を動き周囲を見張る索敵役だ。

 本来レンジャー以上の視力を持つエルフィリアが馬車の上から周囲を見渡すのが一番なのだが、残念ながら彼女は視力と魔力以外は本職のレンジャーより劣ってしまう。

 一人馬車の上では自衛もままならないのも理由の一つだ。遠距離手段がある自分を一緒にしてもその問題は解消されない。

 馬車の中からもありではあるが、その場合見つけた際に自分への伝達手段で手間取ってしまう。

 なのでポチに自分と一緒に乗ることで身の安全を確保し、素早く近寄られる前に迎撃体勢を取れるようにした。

 目線の高さ自体は馬車の上よりは劣るものの、ポチの大きさからすればまだ許容範囲だろう。

 その為こうして馬車周りを移動しながら周囲警戒をしている。


「ヤマル、疲れたら交代するからね」

「うん。でも一日ぐらいだから大丈夫だよ」


 研究員と入れ替わるように馬車の中から姿を見せたのはコロナだ。

 彼女とドルンはそれぞれ馬車に乗り、自分達が打ち漏らした敵を叩く役目を持っている。

 遠距離攻撃を持ってないのと直接守る人が必要なため二人にはこちらを頼むことにした。


「エルさんも大丈夫?」

「なんとか……。長時間ポチちゃんに乗った事は無いので、今の内に慣れておきたいですね」

「……程ほどにね?」

「? わかりました」


 多分コロナの言葉の意味あまり分かってないんだろう。

 エルフィリアの乗り方はコロナと異なり自分と同じく跨る感じになっている。ただ彼女の服――と言うかスカートは短いので多分後ろを向いたらとんでもない事になってそうだ。

 そしてもう一つ。彼女はコロナほど身体能力が高くない。コロナの様に横向きに乗らず、より安定した乗り方をしているのもそのせいだ。

 具体的には落ちないようにこちらに片手を回して密着している状態なのである。

 馬車の中の男性らが羨ましいがってるのもそのせいだ。

 コロナはあまりくっつきすぎるのは互いに良くないと思ってるのだが、反面こうでもしないと彼女が振り落とされる可能性があるのも分かってるのでそこまで強く言えないのだろう。


「エルフィも少し体を離す練習もした方が良いよ。その状態じゃ杖も振り回せないでしょ?」

「わ、分かってはいるんですが、その……怖くて……」


 本気で怖がってる状態ではこちらとしても何も言えない。

 自分だって両手を離した状態でポチに乗り続けれるかと言えば正直不安は残る。今だってもしポチの首輪から手を離したら何かの拍子にエルフィリアと一緒に落ちる可能性が頭にチラついていた。

 一応エルフィリアはコロナよりは身長があるため自分の肩越しに前は見えるため見張る分にはこのままでも問題は無い。

 問題無いのだが……。


「ヤマル」

「分かってるよ……」


 少し棘のある呼びかけに心の中でため息を漏らす。

 自分だって健全な男なんだから背中に当たる柔らかい感触に心揺さぶられるのも仕方ないだろう。あからさまではないのだから多少は目を瞑って欲しい。


「まぁ仕事はちゃんとやるからさ。ポチ、車列の反対側に移動して」

「わん!」


 ポチに指示を出し馬車の後方から回り込むべく速度を少し落とす。

 姿が小さくなるコロナに軽く手を振りつつ反対側へと移動完了。

 そのまま幾度と車列や外側から視線を感じつつも、ポチがいるためか特に魔物に襲われることも無く目的地へ無事到着したのだった。



 ◇



「さて、今日から本格的に発掘開始だよ」


 チカクノ遺跡の宿の一室。今回は教授らの好意もあって個室を与えてもらえる好待遇に恵まれた。

 昨日は日が落ちる少し前に到着し、そのまま皆は解散の運びとなった。

 元々発掘の大筋な計画はここ三日ですでに出来上がっていることもあり、自分達が特にやれる事が無かったからだ。

 とは言え研究員ら計画上仕方無いとは言え三日もお預けを食らった状態。その為居ても立っても居られなかったらしく、道具の荷運びや事前測量をしに遺跡へと向かっていった。

 メムも久々の帰還と言うこともあり彼らに着いていったのを見た覚えがある。


 そして明けて翌朝の今。

 集合時間にはまだ早いがパーティーメンバーだけで一度軽い打ち合わせをすることにした。


「まぁ発掘の計画に沿って自分達も一緒に手伝う形になるけどね。前にも話したけどおさらいしておこうか」


 そう言って教授らから預かってる今回の計画表を取り出し室内のテーブルへ広げる。


「大筋の手順としてはまずエアクラフターの発見。続いて損傷具合の確認。最後に運搬だね」

「最初の発見だが確かメムの記憶頼りだったか」

「うん。でも何百年も前だし地上にあった病院が地中に埋まってるぐらいだからね。ある程度当たりはつけれても後は適宜修正って形になると思う」


 それでもノーヒントでやるよりは遥かにマシだ。

 エアクラフターが埋まってると思しき場所は地下三階……正確には当時一階だった場所から外に出て少し行った場所にある専用の建屋だ。

 日本で言えば小さな立体駐車場みたいなところにエアクラフターは止めてあったらしい。

 ただメムの意識が途切れたあの時どれ程のエアクラフターが止まっていたかは不明なため、最悪無い可能性も考えられるとのことだった。


「だから一番下に下りてそこから横に掘る感じなんだね」

「メムの情報の位置だと真上にすでに町があるからね。上から掘るわけにはいかないのよ」


 落盤の可能性も考慮すれば面倒でも上からしたかったが、流石に労力と時間を考えれば現実的では無かった。

 運搬時には別のルートを模索する可能性もあるが、まずは発見の為に人が通れるぐらいの穴を真横に向けて掘るらしい。


「それで掘るのはドルンさんが中心でしたっけ……」

「あぁ、一応鉱山に鉱石堀りに行ったこともあるからな。学者らの中にも何人か穴掘りしたことあるヤツがいたから、基本はそいつらと中心になってやるつもりだ」


 穴掘りといえどただ闇雲に掘るわけにもいかない。

 然るべき手順と手法で行わねば人命を失いかねない事故に発展してしまう。


「とりあえず土見てからだな。工事用の魔石とか使えりゃいいんだが、遺跡じゃ爆発類はご法度らしいしな」

「まぁその辺は仕方ないよ。ここ国の管轄化で保存されている場所だし」

「ヤヤトー遺跡みたいに野ざらしじゃないんだよな。あっちなら大雑把でも誰も文句言わねぇんだけど、仕方ねぇか」


 まぁその辺は国の方針の違いだ。

 多少面倒で窮屈かもしれないが、ここは人王国のルールに従ってもらうことにする。


「で、とりあえず物が見つかるまでは基本そんな感じかな」

「見つかったらまず現物確認だな。ざっくりとは聞いてるが実物見ねぇと大きさも重さも分からねぇし。出来ればその建屋の中にありゃ落盤可能性減るんだがなぁ」

「そこは祈るしかないよね。とにかくまずは見つけないとその後の事も何も始めれないし。でもまぁ……」


 今回の発掘には少し裏技を使うことにしてある。

 いや、正確に言えば使えたら使うだ。無理そうなら諦めるが可能なら掘る工程がかなり簡略化出来るようになる。


「俺とエルフィで何とか出来る地質だと良いね」

「だな。つーかお前らうち来て鉱山掘らねえか? 採掘師としても需要ありそうだぞ」

「ありがたい話だけど止めておくよ。やっぱり帰りたいし」

「私もヤマルさんがいないと一人だけじゃ厳しいので……」

「仕方ねぇか。ま、とりあえずまずは目の前のお宝探しだな」


 話しているうちに丁度良い集合時間になっていた。

 あまり重役出勤する訳にもいかないので、全員でチカクノ遺跡に向け足早に向かうことにしたのだった。

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