第142話 ヤマルのソロプレイ3


 戦闘を開始して五分ぐらい経っただろうか。

 とりあえず初手でフルオート射撃を使いマガジンの中身の十発を全部叩き込んでみた。あれだけ固まって走っているのだから当たると踏んでのことだった。

 結果から言えば可も無く不可も無く……いや、自分からすれば大戦果もいいところだろう。

 ばら撒いた矢は八匹中二匹の命を奪うことに成功した。だが数が減りこちらの手の内が分かった以上もうこの手は使えなさそうだ。

 あのボスタングルは魔物なのに頭が回るのか、取り巻きが減った直後に陣形を変えてきた。

 ボスタングルを中心に並走しているのは相変わらずだが、密集してた状態から一匹一匹の間に微妙にスペースが出来ている。

 あれでは同じことを繰り返しても一匹倒せれば御の字だろう。


「ポチ、今回ちょっと無理させるかもだけどよろしくね。でも少しでも危ないと感じたら言うこと!」

「わん!」


 何せポチの足が止まったら負ける。と言うか俺が死ぬ。

 そもそもポチは強いけどあの数ではどう考えても分が悪い。個で劣る部分を集団で補うのは常套手段だ。

 人間なんてむしろ個でどうにか出来る方が稀だし。


「残り三十本。もう無駄には出来ないな……」


 残り六匹に対し三十本は余裕と思うかもしれないが、それはちゃんと修練を積んだ弓使いだったらの話。

 そもそも最初のフルオートだって三~四匹は倒せると思っていたが見積もりが甘かった。

 ここからは一匹につき一本の心構えぐらいで挑もうと思う。


(そのために自分がまずやることは……)


 まずは相手をしっかり見ること。

 これはユミネの教えである。

 相手の動きを見極め、先読みし射るべし。その為には何よりも観察だ。

 相変わらず右に左に微妙に軸をずらす走り方なのはいやらしい。

 一定のリズムを刻んでいる分マシと思うべきかもしれないが、少なくとも自分には何のメリットにもならない。

 気になるのはあのボスタングルが他のタングルホーンと同じ速度で走っていることだ。

 あの体躯なら歩幅も違うだろうしきっとボスの方が早い。

 それでも飛び出したりしないのは本能的に指揮官向きなのかもしれない。

 とは言えあのボスタングルが他の個体と同程度と思うと痛い目を見そうなので、いつでも飛び出してくるぞと頭の片隅にはその考えを常駐させておく。


(……しっかしよくあれをちゃんと見れるようになったなぁ)


 殺気全開のタングルホーンらを見つつ心の中で苦笑を漏らす。

 この辺はイワンの教えが効いてるんだろう。散々相手から目を背けるなと骨の髄まで叩き込まれた。

 むしろ背けたら殺すと言わんばかりだった。

 そんなことしないと理性が分かってても本能がそう訴えるほどには徹底的に体の隅々まで沁みこまされた。

 うぅ、思い出すだけで寒気が……。


「……なんで目の前のアレよりいない人の方に恐怖感じてるんかな、俺」

「わふ?」

「いや、ちょっと考えすぎた。とにかく当てなきゃジリ貧だよね」


 そう結論付けると思考は次の段階へ。

 ユミネの教えその二。当てづらいなら当たりやすい環境を作ること。

 パーティーであれば前衛に抑えてもらう、魔法で援護してもらうに相当するが今は自分一人。

 つまり自分の持てる手段でそれを行った上で仕留めなければならない。

 ユミネの一例なら二射必中……最初の矢で相手の行く手を遮り動きを止めた後ピンポイントで急所を狙う手法があるのだが、自分にはそれは出来ないのでパス。

 これはあくまで一人で出来るフェイントの一種の例。この方法を自分なりに何か使える形にして落とし込まねばならない。


(足を止める、もしくは遅らせる方法。……いや、目的が変わっちゃダメだ。相手を倒すのが目的、足を止めさせるのはその為の手段でしかない)


 考えろ。

 仮に自分があっち側として近接攻撃しかない場合何をされたら嫌か。どうしたら足を止めてしまうか。


「……後は実践して結果見るしかないか。ポチ! 《魔法増幅ブーステッドマジック》何回か使うよ! 体調に異変出たらすぐ教えて!」

「わん!!」

 

 相手がされて嫌な事。

 今回で言えば自分らとの距離が遠くなる、進路を妨害される、上手く走れないが当たるだろう。

 そして自分が持てる手は《生活魔法》にポチに銃剣。

 幸いにもその手の手札は自分の手持ちに結構ある。


「《生活の氷ライフアイス》!」


 ポチの角が青く変化し《魔法増幅》によって真後ろに現れる氷の壁。

 銃剣はスーリの言うように杖としても優秀なようで、厚み三十センチ、高さ百五十センチ、幅五メートルの氷の壁を二枚を生成することに成功した。

 それらが最前線を走るタングルホーンの進路を妨害するように、また中央に間を開けるような形で地面に突き刺さる。

 更に念には念を入れ、擦るように銃剣の穂先を地面に当てて別の魔法を展開。

 普段感じない魔力の消失に少し顔をしかめながらもお膳立ては整った。


(さぁ来い……!)


 銃剣で狙うは壁と壁の間の中央ライン。

 《生活の電ライフボルト》を展開しているお陰で前を向きながらも後ろの状態が把握出来るのはありがたい。

 相手が進路を変え中央に躍り出たところでポチを横に曲がらせて撃つ算段だ。


 しかしボスタングルがまるで何かを指示するよういななくと六匹はそれぞれ二手に分かれる。

 それはあろうことか氷の壁に直接向かうコース。

 三匹ずつに分かれたタングルホーンたちはそのまま氷の壁に向かって真っ直ぐに進んで行く。

 そしてぶつかる直前にその巨体が大きく宙を舞った。

 馬もかくやと思うほどの大跳躍。先頭の二匹のタングルホーンがほぼ同時に氷の壁を飛び越えた。

 そのまま地面に着地——したと思ったその時、その二匹がガクンと前のめりにバランスを崩す。


「掛かった! ポチ、大回りしていいから近づく進路取って!」


 先頭の二匹は勢いそのまま顔面から地面に激突……することなく重い水音と共にを撒き散らしながら身体が沈んでいく。

 その正体は《生活魔法+ライフマジックプラス土と水マッドシンク》。魔法を使い前以て着地地点になりそうな場所を泥に変えておいた。

 中央に寄ったのならそのまま撃ち、飛び越えたのであれば泥にハメる二段構え。

 外側に別れる可能性もあったが、あのボスタングルは大きく二手に分かれさせるようなことはしないと思ってた。まぁしたときはその時はその時で別の手段をとるだけである。


 ともあれ先頭の二匹は元々の速度と自重、跳躍による着地の威力、そして予想外の足元の柔らかさにバランスを崩し顔面から泥へ突っ込んだ。

 このまま残り四匹も巻き込んで一網打尽に——出来なくてもせめて半数を——と願いながら時計回りにポチを走らせたところで予想外の行動を目にする。

 後ろ四匹も先頭の二匹に続くように跳躍した。ここまでは予想通りだった。

 だがその四匹が泥に嵌ることは無かった。

 何故なら先頭の二匹の身体を踏み潰し、その身をまるで橋のようにして魔法の射程外に逃れたのだ。


「嘘でしょ!?」


 その結果踏まれた二匹は見るも無残な姿を晒すことになる。

 肉は削げ骨は砕かれもはや虫の息。あれではこちらが手を下すまでも無さそうだ。

 だが二匹の犠牲で得たあちらの戦果は大きかった。

 最短距離を最速でこちらに追いすがる残りの四匹。隊列をまた変え前方と左右にそれぞれ一匹ずつ配置させている。

 対するこちらは反転させるように動いたため相手との距離が一気に縮まってしまっていた。


(矢を節約出来た上で二匹仕留めたと喜ぶべきか、危険度が跳ね上がったことを嘆くべきか……)


 焦ることなく思考を巡らせることが出来る体になってしまったなぁと、頭に浮かんだあのライオン獣人の顔を脳内から廃し次の手を考える。

 

「《生活魔法+ライフマジックプラス火と水ミスト》!」


 再び《魔法増幅》を使い煙幕、もとい水蒸気による擬似濃霧を生成。

 先ほどより近い位置にいるため雲に入るよう向こうは濃霧の中へ突入する。

 これを撒きながら逃げ続けるも、タングルホーンらは視界不良の中真っ直ぐにこちらを追ってきていた。

 匂いか、音か、はたまた足跡かそれは分からない。単純に霧の先にいると見越してのことなのかもしれない。


「《生活の氷》、《生活の音ライフサウンド》」


 続いて霧の途切れ目に再び氷の壁を置く。

 今度は出現した瞬間に《生活の音》を掛け氷の着地音を完全に消し去った。

 続いて自分とポチにも《生活の音》を掛け無音状態にした後ポチを直角に曲がらせる。

 振り落とされぬよう耐え後ろを窺うこと数瞬。


「——ッ?!」


 霧を抜けた先にある氷の壁に盛大にぶち当たる先頭のタングルホーン。

 流石にあの重量の直撃には氷の壁も耐えれず粉々に砕け散る。しかしタングルホーンも角ではなく顔面を強打するように当たったためその衝撃は凄まじかった。

 脳が揺すられたのか、前のめりにつんのめりながら地面に転がっていく。どうやら脳震盪を起こしたらしい。

 続いて霧から抜けた残りの三匹。氷が砕ける音は消していたため予想外だったのか、ボスの反応が少しだけ遅れるも三匹がその横を駆け抜ける。

 しかしすでに横に曲がっている自分とポチはその先にはいない。

 銃剣を構えしっかりと狙いを定め、目を回したタングルホーンの脳天目掛け二発放つ。

 放たれた矢はどちらも命中することに成功。当たった瞬間ビクリと痙攣するように体が一度小さく跳ねると二度と動かなくなった。


(残り三匹……!)


 いい加減半数以下になったんだから逃げてくれればいいのに、あちらはやる気……もとい殺る気満々らしく未だに追ってくる。

 もういい加減帰れよ、と内心愚痴りつつ戦闘続行。

 今のお陰で少しは距離が離せたが別の問題が発生した。


「はっ、はっ、はっ……!」


 ポチの息が上がってきていた。

 走るだけなら自分とコロナ乗せた状態でも一日中走れるポチだが、戦闘入ってから走りっぱなしなのと《魔法増幅》による消費、後は戦闘の緊張による精神の消耗辺りだろう。

 もうしばらくは魔法を使えなくなることは無いだろうがあまり無理はさせられない。

 何せ一番大事なのはポチが走り続ける事だ。この足があってこそ自分は無傷のまままだ戦えていられる。


「(魔法使うなら短期決戦、じっくりいくなら魔法使わずだけど)……ポチ、魔法もう五~六回分頑張って! これで仕留めれなかったら以後は魔法無しで行くよ!」

「わん!!」


 数が減ったとは言え徐々に追い詰められる側なのは変わってない。

 焦りは禁物だがこのままではどの道ジリ貧と判断。

 あちらの体力がどれほどか不明だが、こちらはポチの体力と魔力、そして矢が無くなった瞬間詰む。

 ならばまだ余力あるうちに相手を仕留める方向で動くべきだろう。


「ポチ、少しだけ速度緩めて相手との距離わざと詰めて!」


 こちらの指示通りポチが徐々にではあるがタングルホーンに追いつかれる形で近づいていく。

 徐々に大きくなる後ろからの大地を蹴る音に重圧を感じつつも相手との距離を測っていく。

 目視でも十分分かるほどの距離まで追いつかれると、これ以上近づくのは危険と判断。

 即座に手を後ろに出し魔法を使用する。


「《生活魔法+:火と水》!」


 先ほどと同じ濃霧を発生する魔法。

 魔力を取られポチが若干辛そうにするも、もう少しだけ頑張ってくれと心の中で願いながら後ろを注視。

 三匹全てが濃霧の中に突っ込んだのを確認しては即座に別の魔法を使用する。


「《生活の電ライフボルト》!」


 ポチの角が黄色に染まり、濃霧に向かい強化された電撃が放たれる。

 だが流石にボスタングルは魔法に対し警戒していたらしく、《生活の電》が霧に当たる直前に側面から脱出していた。

 だが残りのタングルホーンは逃げ遅れ、濃霧により全身が水滴塗れになった体に電撃が隅々まで駆け巡っていく。


「——ッ?!」


 バチン!!と何かが弾けるような音とともに悲鳴とも取れそうな鳴き声が辺りに響く。

 そして二匹のタングルホーンは霧を何とか抜けるものの、電撃により全身が痺れているようで勢いそのままに倒れこんでしまった。

 止まった二匹をチャンスとばかりに狙い撃ち。各二本ずつ、合計四本の矢はタングルホーンらの脳天や首に命中しその命を断ち切ることに成功した。

 残りはボスタングル一匹。

 だがここで予想通りの事が起こる。


「はっや……!」


 やはり今までは集団にあわせるように速度を抑えてたらしい。

 単純に他の個体より大きいため歩幅も広く、それだけでも純粋に走る速度が目で分かるぐらいに上がっていた。


「ポチ!」

「わふ!!」


 落としていた速度を戻し再び疾走。だがそれですら引き離すことは出来ず……むしろあっちのが速いのか引き剥がせず距離が徐々に詰まってくる。

 最初からやればよかったのに、と思う反面、この速度だと突出出来なかったのかなと相手の内情が頭を過ぎるも今はそれを頭から追い出す。

 あの速度で後ろに付けられては銃剣で狙うことが出来ない。撃てるようにポチが曲がれば、即座にあちらは最短距離を詰めてくるだろう。

 単騎になったしポチを前衛に出すのも手だが、この状態では自分を降ろしている間に二人揃って強襲されてしまう。

 魔法は……多分同じ方法だと二度は食らいそうにない。

 まだ見せてない魔法、もしくは更に相手の裏をかく様なそんな方法。

 《生活魔法》には致死性の威力は無いので何とかしてあの凶悪なボスタングルの動きを制限出来るような一手。

 そんな方法がないかと頭の中からアイデアをかき集め一つの手段を思い付く。


「……ポチ、魔法あと三回分いける?」

「……わふ!」

「よし、もしこれでダメだったら魔法無しで頑張るよ!」

「わん!!」


 頭の中でこれからの段取りを再度確認。

 まだ矢が残ってるマガジンを取り外し腰に再度取り付け、コッキングレバーを引けば準備完了だ。


「《生活の氷》!」


 ポチの力を借り何度目かの氷の壁を生成。それが地面に着く直前、銃剣を縦に百八十度回転させ脇の下から真後ろへと向ける。

 そして引き金を引くと同時に別の魔法を後ろに向かって解き放った。


「《生活の風ライフウィンド》!」


 銃剣は矢が無いときは銃口から風の塊が出る。それはあたかもポチに強化された自分の《生活の風》と同じような現象だった。

 銃剣と《生活の風》による二つの風の砲撃は氷の壁を質量弾へと変える。

 風の砲撃によりボスタングルに向け一直線に飛んでいく氷の壁。速度としても横に避けるのはほぼ不可能、むしろ回避すら困難だろう。

 しかしながらボスタングルは持ち前の身体能力で被弾する直前に氷の壁を跳躍で飛び越えた。

 今までで一番低い跳躍なのは相手にとっても予想外だったからだろう。

 腹の下を氷の壁が通り過ぎるその刹那——


「《生活の火ライフファイア》」


 氷が爆ぜる。

 熱操作によって固体から気体へと急激に膨張した結果、乾いた爆発音と共に衝撃波がボスタングルの腹部を直撃した。

 跳んでいたことによる回避不能な体勢。衝撃波を受けたボスタングルは成す統べなくまるで放物線を描く様に宙へ舞う。

 そしてそれは空を飛べない生き物に取っては一定の動きをし続けると言うことを意味する。


「良く狙って……」


 その間に銃剣を再度構えなおしマガジンを差し込む。

 狙いは着地の寸前、一番距離が近くなるその時に一撃で仕留めるべく落下地点へポチを走らせる。

 そして上から降ってくるボスタングルに狙いを定め最も近づいたその時。



 相手と目が合うと同時、銃剣の引き金を引きこの戦いに終止符を打った。



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